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12話 王子と聖女の断罪①

告知!


明日 10:10~12:10に連続投稿して一気に1部ラストまで投稿します。

ぜひ読んでいただけると嬉しいです。


王都、神殿。聖女ユナの私室。


聖女の日常に突如として突きつけられた『経済的敗北』と『権威の失墜』の現実は、ユナの精神を音を立てて削っていた。


砕け散ったティーカップの破片が散らばる床で、彼女は震えていた。


そこへ、侍女が、最後の一撃・・・・・とも言える報告を、蒼白な顔で運んできた。


「ゆ、ユナ様……! 財務卿ボルジアが、ギルドに対し……我々が流通させていた『奇跡の塩(偽物)』の『全量買い取りと廃棄』を通告した模様です!」


「なっ……!?」


「そ、それに……! あのアッシュ領から産出されるという『AMS(本物)』の『独占販売権』の交渉を、本格的に開始したと……!」


「私の……『カネ』が……!」


ユナは、金切り声を上げた。指先が白くなるほど拳を握りしめる。


(あのたぬきジジィ……! 私を本気で潰す気!? あの執事ヴィンセントに操られて……!)


欺瞞にまみれた聖女の奇跡によって支えられていたもの


ユナを構成する経済も、権威も、失った。


(ボルジアを操るあの執事を止めないと……! 論理ビジネスデマもダメなら、残る『切り札』は……!)


ユナの瞳に、唯一残った「切り札(藁)」――王子アルフレッドの、愚かで、利用しやすい顔が浮かんだ。







その頃、王都のとある酒場の個室。


あるいは、反聖女派に属する、さる有力貴族の屋敷の一室。


ボルジア伯爵の『攻撃』によって勢いづいた貴族たちが、密談を交わしていた。


「ボルジア卿のおかげで、あのタヌキユナの『化けの皮』が剥がれた!」


「だが、油断はできん。あの女にはまだ『王子』という切り札が残っている。王子が謹慎から復帰すれば、我々が報復されるぞ」


「財務卿閣下とて、王太子殿下に真っ向から逆らうのは……」


そこへ、一人の男――ボルジア伯爵からの『使者』か、あるいは『クロウ』と名乗る執事の『別働隊』か――が、音もなく現れた。


「皆様。聖女様は追い詰められると、必ず『王子』を頼ります」


男は、低い声で囁いた。





「もし、王子殿下が『謹慎中』に、『独断』で兵を動かせば……どうなるか、お分かりですかな?」





貴族たちの目が、互いを探るように動く。


「聖女様に『最後の希望(武力介入)』という名の『毒杯』を勧め、王子様に『反逆者』の汚名を着せて差し上げるのです」


男の口元が、わずかに歪む。


「……これは、我らが『主』からの、ささやかな『ご提案』です」


反聖女派の貴族たちは、しばし黙考した後、頷き合った。


ユナと王子を「()()()に自滅させる」という、悪魔の囁き。


自分たちの利益のために、その『罠』に乗ることを、彼らは決定した。






王子の謹慎先である、薄暗い離宮。


酒瓶が転がり、高価な調度品が破壊された部屋で、アルフレッド王子は荒れていた。


そこへ、聖女ユナが、わざと涙を流し、ボロボロの姿を装って駆け込んできた。


「アルフレッド様……!」


「ユナ!? なんだその姿は……!」


アルフレッドは、酒で赤らんだ目で彼女を見た。


「父上(国王)もボルジアの奴も、俺を謹慎させおって……! 全て、あの執事ヴィンセントのせいだ!」


「ああ、アルフレッド様……! もうダメですわ……!」


ユナは、計算通りに彼に縋りつく。


「あの執事ヴィンセントとソフィアが、ボルジア卿を操り、私を『偽物』呼ばわりし、王都の経済を乗っ取ろうとしています……!」


ユナは、彼の『逆恨み』の炎に、的確に『嘘』という油を注いだ。


「彼らは、アッシュ領で『軍備』を整え、ボルジアと結託し、王都に『反逆』する気なのです!」


財務卿ボルジアは、その『軍資金(AMS/RC)』を得るために、私を攻撃しているのですわ!」




「……なんだと!?」




アルフレッドの目が、憎悪に見開かれる。


「やはりあの執事め、反逆者だったか! 俺が以前討伐しようとしたのは正しかったのだ!」


ユナは畳み掛ける。


「今こそ、あなた様が『反逆者』を討伐し、『名誉』を回復する時ですわ! このままでは、わたくしもあなた様も、あの執事に全てを奪われて終わるのですよ!?」


「馬鹿を言え!」


アルフレッドは、ユナを突き飛ばした。


「父上に『謹慎』させられているこの俺に、どうしろと! 俺がこうなったのも、元はと言えばお前が、あの執事を侮って……!」


「なんですって!? あなた様が、あの時きちんとソフィアを断罪していれば……!」


二人は、互いを罵り、責任を押し付け合う、醜い言い争いを始めた。


保身に走る聖女と、逆恨みに燃える王子。


その姿は、惨めとしか言いようがなかった。


言い争いの最中、アルフレッドが、何かに気づいたように「ハッ」と顔を上げた。


その目は、功績への焦りでギラついていた。




「……そうだ。『謹慎中』の俺が、『反逆者ヴィンセント』を討伐すれば……!」




彼の思考が、歪んだ結論へと飛躍する。


「父上も見直されるに違いない! それこそが俺の『名誉回復』だ!」


ユナは、アルフレッドが『罠』にかかったことを悟り、内心で安堵の息をついた。


彼女は、再び『慈愛の聖女』の仮面を被り、アルフレッドを煽てた。


「まあ! さすがですわ、アルフレッド様! そのご決断こそ、真の王太子の器……!」




「名誉回復(功績)」を求める王子と、「保身」を図る聖女。



二人の『醜悪な利害』が、ここに一致した。







その夜。


王都の片隅にある、王子直属の騎士団の武器庫。


アルフレッド王子は、国王に隠れて、自らの「私兵」――彼に盲従する、一部の狂信的な騎士たち――に、「極秘」の出撃準備を命じていた。


「装備を整えろ! 夜明けと共に出発する!」


王子の声は、焦りと興奮で上ずっている。




「アッシュ領の『反逆者』どもを、今度こそ根絶やしにする。これは『極秘任務』だ。国王陛下(父上)には、俺が『勝利』した後に報告する!」




(待っていろよヴィンセント……! お前を八つ裂きにし、ソフィアを連れ戻し、俺の『名誉』を回復してやる!)



アルフレッドの心は、歪んだ復讐心と、功名心で満たされていた。


その様子を、少し離れた場所から、聖女ユナが、うっとりと眺めていた。


彼女の顔には、安堵と、残酷な喜びが浮かんでいる。


(そうよ……『暴力ちから』こそが全て。あの執事の小賢しい『知略(笑)』など、本物の『軍隊』の前では無力……!)


各自の理想へと繋がるクライマックスに向け、王子と聖女は、破滅へと続く道を、全力で突き進んでいく。



彼らが踏み込もうとしているのが



冷徹な執事によって巧妙に仕掛けられた



『政治的自滅』という名の罠であることに、まだ気づかずに。






フン、読了したか。アルフレッドだ。

あの反逆者どもめ……! ユナの言う通り、奴こそが諸悪の根源だった!

だが、それも終わりだ。

俺の『名誉回復』を見届けたいなら、ブックマークと★でも押しておけ!

次回、『王子と聖女の断罪②』俺が直々に『反逆者』どもを討伐してやる!

あの執事の小賢しい『知略(笑)』など、俺の『軍隊』の前では無力だ! 奴が許しを乞う様を、貴様らも指をくわえて見ていろ!


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