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11話 燃え盛るタヌキ


王都、商業ギルド本部。


重苦しい沈黙が、会議室を満たしていた。


上座に座る財務卿ボルジア伯爵が、冷徹な視線でギルド長と幹部たちを見据えている。


ボルジア伯爵の前に、二種類の塩と、一枚の『調査結果報告書』が置かれていた。




「――調査結果は出た」




ボルジアの、老獪だが、芯の通った声が響く。


「ギルド長。貴殿らも承知のはずだ。聖女ユナ様が流通させている『奇跡の塩』なるシロモノは、ただの『岩塩』に過ぎん」


ギルド長の額から、脂汗が流れ落ちる。


「し、しかし、財務卿閣下! それを『偽物』と断じれば、聖女様の『権威』が……!」


「『権威』?」


ボルジアは、鼻で笑った。


「ギルドが保証すべきは『品質』であり、『権威』ではない。ましてや、その『偽物』の流通は、ギルドの『規約違反』であり、王国の『経済』そのものを歪める『背信行為』だ」


ボルジアは、懐から『AMS(本物)』の結晶――ヴィンセント(クロウ)から送られたサンプル――を取り出した。


「アッシュ領から『本物』の魔力浄化塩(AMS)が発見された今、もはや『偽物』を市場に放置する理由は無い」


彼は、立ち上がり、ギルド長に最後通告を突きつける。


「聖女派が独占する『塩』の価格を『適正化』し、『品質調査』を即刻開始しろ」


「さもなくば、財務省として、ギルドそのものへの『査察』と『交易停止命令』を発動する」


「ひぃっ……!」


ギルド長が、椅子から崩れ落ちた。


ボルジアによる『経済戦争』の第一撃が、聖女の利権の心臓部に、容赦なく放たれた。





その夜、王都のとある貴族のサロン。


夜会の話題は、どこからともなく流れ始めた『青い薬』の噂で持ちきりだった。



「聞いたか? 誰が持ち込んだかは知らんが、あのアッシュ領の『青い薬(RC)』のことを」


扇子で口元を隠しながら、一人の男爵が囁く。


「ええ!」


不眠症気味の夫人が、興奮気味に声を潜めた。


「聖女様のお祈りでは全く眠れなかったのに、あれを飲んだ晩は、まるで赤子のように……。しかも、驚くほど安価で」


「追放されたソフィア嬢が、領民と見つけた『本物の薬』だとか……」


別の貴族が、周囲を見回しながら付け加える。


「……聖女様の『奇跡』とは、一体何だったのかしらね?」


ボルジア伯爵が『塩』でギルドという「経済」を攻撃しているのと時を同じくして、この『薬』の噂が、聖女の『権威』そのものを、裏から静かに蝕み始めていた。


ヴィンセントの『二正面作戦』は、完璧に機能していた。






王都、神殿。聖女ユナの私室。



ガシャン!



高価なティーカップが、壁に叩きつけられ、砕け散った。


「ボルジア…あのクソジジィ…!」


ユナは、侍女から立て続けに届いた二つの報告・・・・・を受け、わなわなと震えていた。


「私の『シマ』を荒らす気!? しかも、ソフィアの『偽薬(RC)』が『本物』ですって!? ふざけないで!」


侍女が、震えながら報告を続ける。


「は、はい……ギルドも財務省には逆らえず、『奇跡の塩』の価格が暴落し始めております……。信者たちも『あの薬(RC)』を求め始めて……」


「っ……!」


ユナは、手入れされた爪を、強く噛んだ。


(あの執事ヴィンセント……! 辺境からボルジアを操って『経済』を、別の誰か(・・)を使って『権威』を、同時に攻撃している!?)


(謹慎中のアルフレッド(王子)は役立たずだし……このままでは……!)


「金」と「権威」の両方を同時に失うという、現実的な恐怖が、初めて彼女の完璧な仮面を歪ませていた。







辺境、アッシュ領。執務室。


俺は、ゲイルの部下から送られてきた「王都の『炎上』の第一報」を記した報告書を、暖炉の火に投げ込んだ。


紙は、一瞬で炎に包まれ、灰になった。


隣で、ソフィアお嬢様が、その炎を静かに見つめている。




彼女の表情は複雑だ。




だが、もう「可哀想」とは言わない。


「お嬢様。あの老狐(ボルジア)は、期待通り『大砲』として機能しているようです」


俺は、完璧な執事の所作で、彼女に新しい茶を淹れる。


「これで聖女の『利権シマ』は半壊でしょう。実に、いい・・・・が王都から聞こえてくる」


「……ええ」


お嬢様は、茶を受け取り、その湯気を見つめながら、呟いた。


「ですがヴィンセント。ボルジア卿も、いずれ我々の『敵』になるのでは?」




(……ほう)




俺は、彼女の『成長』――次の敵を、すでに予測している視点――に、内心で満足し、口の端を吊り上げた。


「御名答。彼は『敵の敵』であると同時に、我々の『次の顧客カモ』です」


俺は、燃え盛る暖炉の火を見つめる。


「だからこそ、面白い」


(ボルジアが聖女を叩き潰している間に、俺は『次の一手』を打つ。漁夫の利は、きっちり頂く)



聖女ユナ……お前が落ちぶれる様を、この『特等席』から、ゆっくりと拝見させてもらうぞ。


火は全てを飲み込むかのように燃え上がり、次の火種を逃さない。



フン、最後まで読んだの? ご苦労さま。

あの執事とタヌキ(ボルジア)のせいで、イライラするわ……!

でも、見てなさい? 小賢しい『知略(笑)』なんて、本物の『力』の前では無意味よ。

次回、『王子と聖女の断罪①』ついに『アルフレッド様』が、あの反逆者ヴィンセントを『討伐』しに行くわ。

あの執事が絶望する『本物の奇跡・・・・・』を見たいなら、さっさと『ブックマークと★』を押しなさいよ!


あ、いけない!アルフレッド殿下〜!

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