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1話 断罪と始まり


ふむ...退屈だ


シャンデリアの光が、集まった貴族どもの欲望を照らし出している。



王立学園の卒業パーティ会場。



鼻につく香水の匂いと、上辺だけの笑い声。反吐が出る空間だ。



俺は、主であるソフィアお嬢様の半歩後ろに控える。



埃一つない黒の燕尾服が、俺の身体に完璧に沿っている。この窮屈な服は俺の「役割」を規定する鎖だ。



……始まったか。


予定通りの茶番劇だ。

主役は愚かなアルフレッド王子と、計算高いタヌキ自称『聖女』のユナ。実にくだらない三文芝居だ


視線を上げると、ホールの扉が開き、二人の主役が登場した。




ざわめきが止む。




アルフレッド王子が、ユナの腰を抱き、わざとらしく壇上へ上がる。



せいぜい派手に踊ってもらおうか。後で叩き潰すのが面白くなる




「ソフィア・クライスト公爵令嬢!」




甲高い王子の声が響く。


隣に立つソフィアお嬢様の肩が、微かに震えた。


だが、彼女は背筋を伸ばしたまま、動かない。





「貴様との婚約を、今この場をもって破棄する!!」




来た。


予定調和のセリフ。


会場が一瞬、水を打ったように静まり返る。




次に動いたのは、聖女ユナだ。


王子の腕の中で、か弱いフリをして身体を震わせる。


聖女ユナの瞳から、注文通りの涙がこぼれ落ちた。


「ソフィア様が……私が王子と親しくするのを妬んで……毎夜、私を中庭に呼び出し、罵倒なさいました……っ」




嘘八百だ。




お嬢様がそんな非効率的な嫌がらせなどするはずもない。


やるなら、俺がもっと静かに、確実に、社会的に()()している。



見事な演技だ、あのタヌキ。

涙をこぼすタイミング、声の震え、王子の服を掴む指先の力加減。

完璧に計算されている



周囲の貴族どもの反応が、面白いほどに画一的だ。


数秒前までお嬢様に媚びへつらっていた視線が、一斉に逸らされる。


代わりに、好奇と侮蔑の色を浮かべた目が、泣きじゃくる聖女ユナへと集まっていく。




扇子で口元を隠し、ひそひそと囁き合う女たち。



腕を組み、難しい顔で頷く男たち。



全員がこの茶番の『観客』であり『傍観者』だ。




白い手袋に包まれたソフィアお嬢様の手が、小刻みに震えている。



ーー俺は一歩、前に出た。



この愚かな芝居を終わらせるために。




聖女の嘘を暴き、王子の無能を証明する、十数パターンの論証がすでに頭の中で組み上がっている。




俺が息を吸い込んだ、その瞬間。


「衛兵! こいつらを取り囲め!」


アルフレッド王子が手を振り下ろした。


カシャン、と重い金属音が響く。


パーティ会場に不似合いな、重装備の衛兵たちが、俺とお嬢様の周囲を瞬時に固めた。


抜かれた剣の切っ先が、俺たちの喉元に向けられる。




「弁明は許さん! ソフィアの罪は、聖女ユナへの不当な迫害である!」


……権力による『封殺』か。議論の場すら設けないとは。予想以上に愚かだな、この王子は。



俺は喉まで出かかった言葉を飲み込む。




ここで俺が衛兵を突破するのは容易い。



だが、それは「反逆」と見なされ、お嬢様にまで累が及ぶ。

そこへ、聖女が追撃する。



俺に、ちらりと計算高い視線を向けてから。



「お待ちください、王子! 忘れてはなりませんわ……!」



ユナは涙ながらに叫ぶ。


「ソフィア様の隣にいる、その執事! ヴィンセント様も共犯ですわ!」




ほう。俺に来たか。




「彼はその『知略』を使い、私が王子とお会いするのを幾度も妨害し、私の評判を落とす噂を流そうと画策していました……っ!」


……なるほど。俺の『有能さ』そのものを『罪状』にすり替えるか


俺の思考が、冷たく冴えわたる。



公爵令嬢の『知恵袋』である俺をお嬢様と同時に潰す。あのタヌキ、予想以上に悪知恵が働く。合理的な判断だ



だが、ーー甘い。



その悪知恵が、後でお前の首を絞めることになるぞ? 俺が『有能』であるがゆえに『罪人』だと言うのなら、その『罪』のすべてをお前たちに返してやる



俺はあえて口を閉ざす。



動揺したフリ、追い詰められたフリをする。


珍しい黒髪が、俯いた拍子に顔にかかる。


それを払う仕草すら、無力に見えるように演じる。



無能な執事を演じるのは骨が折れる。



「ヴィンセントまで……!」



王子が、聖女の言葉を鵜呑みにして俺を睨みつける。


「やはり貴様ら二人は、この国を腐らせる悪だ! 証拠はあるのかだと? 聖女の、この清らかな涙が証拠だ!」


愚者の論理。


だが、権力者がそう断言すれば、それが「真実」となる。



この国の腐敗は、もう末期だ。


「公爵令嬢ソフィア、および執事ヴィンセント! 貴様ら二人を、王都から追放する!」


王子が、高らかに最終宣告を下す。


「行き先は、辺境の『塩の荒地』! そこで生涯、己の罪を悔いて暮らすがよい!」




『塩の荒地』。


作物が一切育たない、不毛の地。


事実上の、死刑宣告だ。



……最悪の選択肢(ゴミ領地行き)を選んだか。王都から完全に切り離し、支援のルートも断つ。そこで干からびて死ね、というわけだ。



俺の思考は、即座に次の段階へ移行する。



……いや、むしろ好都合か?



あの不毛の地ならば俺の持つ『知識』――この世界の誰も知らない『金融』と『交易』の知識が最大限に活きる。塩害の地だからこそ、『塩』の交易ルートを独占できる。何より……



俺は思考の中で、口の端を歪める。




()()()()()()()がいない。ゼロから『王国』を築くには、最適の土地だ)




お嬢様の肩が震え、膝が折れそうになる。瞳から光が消え、涙が溢れそうだ。


その視線が、衛兵に囲まれた俺を捉えた。


俺は、動かない。


背筋を、真っ直ぐに伸ばしたまま。


あえて平静を装ったまま、微動だにしない。


俺の姿が、彼女の瞳に映る。


ソフィアお嬢様が、短く息を吸った。


震えが、止まる。




彼女は、涙をこらえ、青ざめた顔をゆっくりと上げた。アルフレッド王子を真っ直ぐに見据える。


「……結構ですわ」


声は、震えていた。


だが、その響きには、決して折れない芯が通っていた。

「その婚約破棄、謹んで、お受けいたします」





馬車が、激しく揺れる。


窓の外は、王都を洗い流すかのような、激しい雨。


夜の闇の中、俺たち二人を乗せた粗末な馬車は、王都を離れていく。


衛兵に乱暴に押し込まれ、お嬢様のドレスは泥に汚れ、髪も乱れている。


パーティ会場の光は、もう遠い。


「……ヴィンセント」


沈黙を破ったのは、お嬢様だった。




「私たちは、本当に……あの、塩の荒地へ……行くのね?」


不安げな瞳が、俺を見る。



俺は、窓の外を流れる景色ーーすでに遠ざかった王都の灯りを見ていた。



あの欺瞞に満ちた光が、闇に完全に消えたのを確認する。



そこで初めて、俺は口の端を吊り上げた。


……ようやく、出られた


あの欺瞞に満ちた王都(ゴミ溜め)から、ようやく


俺が本当に仕えるべきは、この国ではない。王族ではない。

あのスラムの片隅で、ボロ雑巾のようだった俺を見つけ、誰もが汚いと避けた俺の黒髪に、初めて優しく触れてくれた、ただ一人の『光』。




ソフィアお嬢様、ただ一人だ。




――このお方を『女王』にする



俺の目的は、ただそれだけだ。



そのためならば、俺は悪魔にでもなろう。




邪魔者は、全て排除する。



あの愚かな王子も。



計算高い聖女も。



手のひらを返した貴族どもも。



一人残らず、だ。



俺は、お嬢様に向き直る。


揺れる車内。


燕尾服についた泥を軽く払い、完璧な執事の礼をとった。


「お嬢様」


俺は、静かに告げる。



「絶望するには、早すぎます」



目を見開くお嬢様に、俺は、最高の「ビジネス」を提案する。



「――これからが、我々の『ビジネス(復讐)』の始まりですよ」




読んで頂けたみなさん!

はじめまして。いちたと申しますm(*_ _)m


お読み頂けていること非常に嬉しく思います!

2話に進んで頂ける方はぜひ楽しんでいってください!


創作の向上につながりますので感想頂けますと幸いです!


基本後書きはキャラクターで次回予告してます( *・ω・)ノ

ではどうぞ。。

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フン。第1話の読了、ご苦労だったな。ヴィンセントだ。

あのゴミ溜め(王都)から出られ、最高の『盤面』が整った。

この『ビジネス(復讐)』の始まりだ。見届けたいなら『対価としてブクマと★』を置いていけ。


次回、『害虫』


あの『呪われたゴミ』を『金』に変え、早速、下卑た豚の『駆除』といこう。

実に効率的な『掃除』だ。

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