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2話「星は心の中で輝いている」

遥か東の地、ペルシアの高原地帯で、古の知恵を追い求める者たちが、夜空に輝く不思議な星を見上げていた。彼らは王に仕える占星術の学者たち。バビロンの昔より受け継がれてきた天文学と預言の知識を携え、代々、星々の動きを観察し続けてきた者たちだった。


「見よ、あの星を」

年長の学者が震える声で言った。

「これまで見たことのない輝きだ」


「まるで、私たちに何かを告げているかのようです」

若い学者がパピルスの古い星図を広げながら答えた。


バビロンの地では、星は神の意志を伝える文字であり、天空の書物は神の計画を記す巻物だと考えられていた。


その夜、彼らの目に映った星は、今まで見たことのない神秘的な輝きを放っていた。古代メソポタミアの伝統を受け継ぐ彼らは、この異変の意味を互いに確かめ合った。


「古い預言を見てください」

一人が声を上げた。

「『ひとつの星がヤコブから進み出る。

 ひとつの笏がイスラエルから立ち上がる』」


「そして、この星図を」

別の学者がパピルスの巻物を広げた。

「これは間違いなく、預言の成就を告げる天からのしるしです」


バビロンの昔より伝わる預言の書物をめくり、幾世代にもわたって記録されてきた星図を照らし合わせ、ついに確信に至った。


待ち望まれていた王の誕生を告げる星だったのである。


「私たちは、この方をお探しに行かねばならない」

年長の学者が静かに、しかし確固とした声で言った。

「この瞬間のために、私たちは星を観察し続けてきたのだ」


彼らの心は高鳴った。これは単なる占星術的な現象ではない。メディアやペルシアの地で長年研究し、天体の運行を観察してきた彼らにとって、この瞬間は人類の歴史における重大な転換点を示していた。


「急いで準備をしましょう」

「贈り物も、ふさわしいものを」

「この方にお会いするための、最も貴重な品々を」


躊躇する暇はなかった。すぐさま旅の準備が整えられ、三つの貴重な品々が慎重に梱包された。


黄金は王者の証。

その輝きは地上における最高の権威を表していた。古来より東方の王たちが重んじてきた黄金は、しかし同時に、世の栄華の儚さをも象徴しているかのようだった。この世のすべての富をもってしても、真の王の前ではただの輝く金属に過ぎない。それは彼らの心が、この世の王以上の存在を予感していたからかもしれない。


乳香は神への祈りの象徴。

その芳しい香りは、地上から天へと立ち昇り、神と人との架け橋となる。アラビアの貴重な香料である乳香は、古来より神殿で焚かれてきた聖なる香りであり、目に見えない神の臨在を表すものだった。彼らは、この生まれくる方が、人と神とを結ぶ存在となることを、香りに託して表そうとしたのだ。


そして没薬。

アラビアの交易路で珍重されてきたその深く苦い香りは、人としての苦難と死を予表していた。王となるべき方に、なぜ死を想起させる香料を贈るのか。彼ら自身にも、その深い意味は完全には理解できていなかった。ただ、この方の道のりが決して平坦ではないことを、彼らの心は感じ取っていた。



ペルシアの高原からユダヤの地までの長い砂漠の旅路は決して容易なものではなかった。


「この道は、シルクロードの隊商たちが通る道」

案内役の隊商が説明した。

「しかし、星の導きがある限り、私たちは道を誤ることはないでしょう」


幾多の隊商たちが行き交うシルクロードを通り、メソポタミアの肥沃な三日月地帯を抜け、アラビア砂漠の縁を進んだ。


「昼の暑さも、夜の寒さも、この方に会うための試練なのかもしれません」

若い学者がつぶやいた。


「見よ、星は私たちの前を進み続けている」

年長の学者が応えた。

「神が共におられることの証だ」


昼は灼熱の太陽が容赦なく照りつけ、夜は凍えるような寒さが彼らを包んだ。しかし、不思議な星は常に彼らの前方で輝き続け、その光は疲れた旅人たちの心を励ました。


エルサレムに到着した彼らは、街中を騒がせることになった。


「ユダヤ人の王としてお生まれになった方は、どこにおられますか」

「私たちは東方でその方の星を見たのです」

「その方を拝みに来ました」


人々は不安そうに互いを見つめ合った。

「新しい王がお生まれになった?」

「ヘロデ王は、このことをご存じなのだろうか」


ヘロデ王の心に、不安という名の闇が忍び寄った。

「新しい王だと?」

側近に向かって王は低い声で言った。


「私の王座を脅かす者が現れたというのか」

その思いは、やがて怒りと恐れへと変わっていった。


しかし、表面的には冷静を装い、祭司長たちと律法学者たちを召集した。不安げな面持ちで集まった彼らに、王は尋ねた。

「メシアは、どこに生まれることになっているのか」


静まり返った広間に、祭司長の声が響いた。

「ユダヤのベツレヘムです。預言者がこう記しています」

その声には、古の預言を語る重みが満ちていた。

「『ユダの地、ベツレヘムよ、

お前はユダの指導者たちの中で

決していちばん小さいものではない。

お前から指導者が現れ、

わたしの民イスラエルの牧者となるからである』」


預言の言葉を聞いたヘロデは、表情を曇らせた。


そして、人目を避けるように、今度は占星術の学者たちだけを呼び寄せた。星の現れた時を執拗に問いただした後、王は偽りの笑顔を浮かべながら言った。

「その子を見つけたら、私にも知らせてください。この老いた身にも、拝する機会を与えていただきたい」


その言葉の裏に潜む暗い意図を、学者たちはまだ知る由もなかった。


「王は親切にしてくださいました」

若い学者が言った。


「しかし、何か不吉なものを感じた」

年長の学者が眉をひそめながら答えた。


彼らは感謝の意を示し、再び旅路についた。



そして、ついに星は彼らを目的地へと導いた。


質素な家の前で星が輝きを増し、静かに停止した。


「ここですか?」

「まさか、こんな質素な...」

「しかし、星がここで止まっている」


扉を開けると、そこには幼子イエスと母マリアの姿があった。


「よくいらっしゃいました、遠い国からの旅人の方々」

マリアの静かな声が、彼らを迎えた。


学者たちは、その瞬間の神聖さに打たれた。予期していた王宮の豪華さはなかったが、この質素な空間に満ちている平安と光に、彼らは心打たれた。言葉もなく、ただひれ伏して幼子を拝した。


それは、彼らの携えてきた贈り物の意味が、今、目の前で完全な形を成すときでもあった。


黄金は、この世の王権を越えた、永遠の王の前にささげられた。乳香は、人となられた神の御子の前で香りを放った。そして没薬は、やがて人類の贖いのために苦しみを受けられる救い主への預言となった。


準備してきた贈り物を差し出しながら、彼らの目には涙が光った。長い旅路の終わりに、彼らは単なる王以上のものを見出していた。この出会いは、彼らの人生を永遠に変えることになるだろう。


その夜、彼らは不思議な夢を見た。


「ヘロデのもとへ戻ってはならない。彼は幼子の命を狙っている」


という明確な警告だった。


「急いで別の道を選びましょう」

「この方の安全のために」

「私たちにできる最後の務めだ」


翌朝、彼らは別の道を選び、自分たちの国へと帰途についた。心には深い感動と畏敬の念を抱きながら。



東方の空には、あの不思議な星はもう見えなかった。


「星は消えてしまいました」

若い学者が空を見上げながら言った。


「いいや」

年長の学者は静かに微笑んだ。

「星は今、私たちの心の中で輝いている」


しかし、彼らの心の中で、新たな光が永遠に輝き続けることになるのだった。その光は、彼らがささげた三つの贈り物のように、王であり、神であり、そして人であられる方への永遠の証となったのである。


バビロンの地に戻った彼らは、古の預言の真の意味を悟った。星々の知識は、究極的に、この方へと導く道標だったのである。

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