……実戦経験があるだけだよ
ボーイ・ミーツ・ガールです。
冒険者から、鉱山労働者に鞍替えした馬鹿3人の所持品を換金して所持金と身代金と合わせて受け取ると、内心は「異世界冒険の切っ掛けとなる依頼の掲示板だぁ!」と思いながら依頼の掲示板を覗いてみるが、当然だが良い依頼は残っていなかった。
領主館に帰ると、ガル義兄が会わせたい人がいると言われて、何故か風呂に入れてまで身嗜みを調えられてから、その「会わせたい人」との面会をした。
「初めまして。南隣の領地で領主をしているゼルサヒィル=クロス=ルナデューク侯爵だ。
そして三女の……」
「初めまして。リーナシア=クロス=ルナデュークです」
「初めまして。フロンディーラ辺境伯様にお世話になっている冒険者のルカです」
「……あー!」
「……ん?」
「市で、私にぶつかった人!」
「あ……ああ。あの時の! 怪我とか本当に無かったか?」
「……心配してくれてありがとう。本当に怪我とか無くて大丈夫よ」
「……市?」
「あ!」
「リーナ。後でお話しような」
「……はぃ」
ルナデューク侯爵は笑顔のままで黒くなり、周囲の気温が5度ぐらい下がった気がした。
「ゼル。今回も泊まっていくのか?」
あ、元に戻った。
「勿論だ。毎年の楽しみだからな」
「分かった。何時もの部屋を用意しておく」
「所で、ガル」
「分かっている。ルカだろう。
ルカ、少しリーナシア嬢と時間を潰してきてくれるか?」
「分かった」
「マリー。付いててくれ」
「畏まりました。リーナシアお嬢様、何処かご希望が御座いますか?」
「勿論、練武場よ!」
「畏まりました。それではご案内します」
「練武場?」
「ほら、行くわよ」
「わ、分かった」
ガルダイアside
「それで、ガル。あの子は『誰』だ?」
「ディアナの息子だよ」
「……! あの雷煌姫ルーネの!?」
「ああ」
「そう言えば、息子が居るのにまだ会っていないな?」
「……亡くなったよ」
「嘘だ……ろ?」
「こんな事で、嘘は言えない」
「……済まない。そうか、彼女ルーネは亡くなったか」
「それで、まだ年若いルカを預かっている」
「……なる程。それでだ、ガル」
「なんだ、ゼル」
「実はな……」
ルカside
「着いたわ練武場に!」
「それでリーナシアお嬢様は……」
「リナよ」
「はい?」
「わ、私の事は特別に『リナ』と呼ぶ事を許してあげるわ!」
「リーナお嬢様……」
「リナよ!」
「……分かったよ、リナ」
俺が持つ貴族令嬢のイメージとは結構違うんだな。
「そ、それで良いのよ、ルカ」
……ん? 少し顔が赤くなった様な?
「それでリナ。練武場に来た理由は?」
「そんなの決まっているわ。剣の鍛練よ!」
……確か、頂点が王族で、次が公爵で、侯爵はその次の階級だよな?
「剣の鍛練?」
その上位の貴族令嬢に、わざわざ剣の鍛練が必要か?
因みに階級的には、侯爵の下が辺境伯で、次が伯爵、子爵、男爵となって、当代限りの騎士爵となる。
「そうよ。どうやら、私には剣の才能が有るみたいなの」
「そうなんだ」
「だから、ルカ」
「……俺?」
「私の鍛練に付き合いなさい」
「絶対に?」
「絶対よ!」
居候の身としては、家主に代わり接待の義務が発生するか。
「分かった」
「それで良いのよ」
「それではリーナシアお嬢様、用意が出来ましたので、此方へ」
「分かったわ」
マリーの手際の良さから、多分だが、来る度の恒例なのだろうな。
運動し易い服に着替えて来たリナが練武場に現れた。
因みに、俺も着替えさせられた。
「さあ、始めるわよ」
「ああ」
何気に、今世で異性とはいえ、同年代と手合せするのは初めてで、なんだが、出会った頃の舞を思い出すな。
「はあ!」
リナの踏み込む速度から計算して、互角を演じた。
「結構やるわね」
「ギリギリだよ」
……思っていた以上に、きちんと基礎を重ねているな。
最初は、正しく「接待」で終わらせるつもりだったが、気が変わった。
真剣には真剣で以て返すのが礼儀だ。
リナの「至らない点」を教えよう。
「……良い鍛練が出来たわ。ルカ、終わりにしましょう」
「分かった。ありがとうございました」
「リナ、違うよ」
「お父様?」
「自分の両手を良く見てごらん」
いつの間にか、ガル義兄や、ルナデューク侯爵や、その他の見学者で溢れていた。
それに、ルナデューク侯爵も何故か着替えている。
「え!?」
「薄っすらと、赤い線が出来ているだろう」
「……」
「その赤い線は?」
「……私の至らない点が有った時の」
「正解」
リナが俺を睨んで言った。
「ルカ。貴方は何者なの?」
「……実戦経験があるだけだよ」
……と、事実ではあるが、真実からは違う答えを言う。
「……気に入ったわ! ルカは、今から私のパートナーよ!」
「……は!?」
「だから、私の! パートナーよ!」
リナが真っ赤になって言った。
「ガル義兄」
「まあ、その辺りは後で説明するから、ゼル」
「分かった。ルカ君」
「はい、ルナデューク侯爵様」
「ゼルで良いよ」
「しかし……」
「構わない」
「分かった、ゼルさん」
「まあ今は、それで良いか。それで、ルカ君。次は私と模擬戦をしようか」
「俺と!?」
ガル義兄を見ると頷いていた。
「分かった」
「ルカ君……いや、ルカ。本気を出しなさい」
「……分かった」
今のゼルさんの目は真剣だ。
それなら、俺も本気には本気で応えよう。
「オレが審判をしよう」
そして、お互いに距離を取り、礼をする。
「両者、構えて……始め!」
「せい!」
「はっ!」
厳しくも温かいメッセージを待っています!
そして、星の加点とブックマークをお願いします。