どうか、引いてください
自称は怖いっす。
俺は無難な注文にし、舞達も同じく無難な注文にしていた。
しかし、この4ヶ月間ですっかり仲良くなり、事情を理解した上で攻めてきた。
「お待たせしました、ご注文の品です」
……と、言いながら自身の胸をわざと俺の肩に押し付ける。
……左右に座っている舞とリナから足を蹴られた。
「羨ましいなぁ~」
ゲランは、心の底からの本音が漏れている。
食後の紅茶を飲んでいると、ゲランから聞かれた。
「お前、ケリーちゃんと知り合いか?」
「以前、困っていた時に助けた事がある」
「……そうかぁ」
この後は、何事も無く退店してゲラン達とも解散した。
周りを警戒しながら、家の裏口から入り、喫茶店のスタッフオンリーに到着すると、ケリーを呼び、お仕置きをする事にした。
ほっぺを軽く摘み、お仕置き開始だ!
「……ルカ様?」
「縦縦横横回~るく書いて……チョン」
「……痛いです、ルカ様」
「お仕置きだからな」
クロエ達が、冒険者ランクDになるまでの間は王都に居るつもりなのだが、どうやら、喫茶店の奴隷達にそれぞれの非公認ファンクラブが出来ていたのだが、非公認なのは俺が許可していないから。
……当たり前だろう。
俺は「野郎だけで来るな!」という前提で乙女チックな内装にしたんだぞ!
だから……
「貴方達は、出禁とさせて頂きます」
「どういう事だ、アンヌさん! オレ達はお客様だぞ!」
「そうだそうだ!」
「オーナーからの命令です」
「オーナーだと!」
「はい。店員を見る為だけに、紅茶1杯で長時間居座る者はお客様に非ずと、言っておられます。
ですので、お客様で無い以上は、不法に居座る営業妨害者として出禁とします」
「……そんな」
「お代金は要りません。即刻の退去をお願いします」
……と、この場は退去したが、今度は喫茶店前に居座る様になり、入ろうとする普通のお客様の入店を邪魔していた。
更に、衛兵が来たら一時的に散るだけで根本的な解決にならなかった。
「……潰す。異論がある者は?」
「……」
「居ないみたいだな」
翌日、俺だけで喫茶店に入ろうとすると、野郎共に囲まれた。
「オレ達が入れねぇのに、何故、お前は入ろうとしてんだ?」
「俺の勝手だろうが、出禁野郎」
「……潰せ!」
出禁野郎共を全員潰した所で、それなりの身なりの商人が割り込んできた。
「何が有った?」
「襲われそうになったから、返り討ちにしただけだが」
「……幾らだ?」
「何が?」
「幾らで引く?」
「金貨……1万枚」
「巫山戯ているのか?」
「全然」
「儂の後見をしてくださる高位の貴族様がおられる。それでも引かないつもりか?」
「知るか」
「……後悔するがいい!」
商人は立ち去った。
3日後に、用心して家で待機していると、偉そうな貴族が来て、「オーナーを出せ」とか「違法店舗を接収する」とか言っているみたいだ。
「当店に、何かご用か?」
「貴様は?」
「この屋敷と喫茶店の責任者でありオーナーだ」
「貴様が? まあ、良い。この喫茶店は違法店舗である。因って接収する」
「何が違法だ?」
「ゴロツキを雇い、客に暴力を振るい、所持金を徴収しているからだ」
「証拠は?」
「訴えている者が複数人いる」
「だから、物的な証拠は?」
「そんなモノは必要無い。私が違法と判断したのだからな」
……はぁ、馬鹿だな。
「見た目は貴族みたいだが、現当主か?」
「ガキ! この方は、ジグリーグ子爵家の嫡男なるぞ!」
「そうだ! 私はジグリーグ子爵家の次期当主となる者だ」
「それなら、俺もきちんと自己紹介しないとな」
「ふん! 精々が、何処かの商人の息子だろうよ」
「俺はルーカス=イクス=フロンディーラだ」
「……ふ、フロンディーラだと!?」
「爺、フロンディーラとは何処の貴族だ?」
嫡男なのに、フロンディーラを知らないなんて、終わったな。
「因みに、俺の婚約者はルナデュークだ」
爺と呼ばれた老人は、大量の冷や汗を流し、顔色が悪くなっていく。
「更に言えば、俺の義母のお気に入りの店だ」
「……大変失礼しました。私の身命に賭けて再教育しますので、どうか!」
爺と呼ばれた男は土下座をした。
「爺、説明しろ!」
「明日から平民になりたくなければ、引いてください、坊っちゃま」
「どういう事だ、爺!」
「どうか、引いてください」
「……う、五月蝿い! やれ!」
後ろに控えていた私兵が前に出て、剣を抜いた。
……5日後、王城が管理する貴族名簿から、とある子爵家の嫡男の名前の所に2本の線が引かれ、下に「廃嫡」と書かれ、王都から商会の1つが消えた。
蛇足だが、出禁野郎共は、体力が余っているという事で、5年間の鉱山労働の出稼ぎに行った。
面倒事が終わったと思ったら、出番を待っていたトラブルさんが居た。
切っ掛けは、クロエ達のDランク昇格だった。
今度は、クロエ達の非公認ファンクラブが表に現れて、クロエ達と接触しようとする善人、悪人を問わず追い払い始めた。
仕事上の必要な交流も邪魔される様になり、クロエ達は俺に泣き付いた。
転生者のルイやラビも「私達は奴隷だから動けないわ」と。
翌日に、クロエ達には「会う人がいる」という体で冒険者ギルドに居させた。
そして、少し時間を空けて、俺だけで冒険者ギルドに行き、クロエ達を見付けると向かうのだが……
「待ちな」
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