プロローグ~後編
プロローグは、この話で終了です。
次話より本編に入ります。
僕の名前はルカで、もう直ぐ10歳です。
お母さんと2人で山暮らしをしています。
……お父さんは居ません。
お母さんに聞いても教えてくれないから。
お父さんが居なくてちょっと寂しいけど、大丈夫なんだ、お母さんが居るから。
それにお母さんは、もの凄く強いんだよ!
3mを超えるアッシュベアー相手でも短剣1つで狩っちゃうし、そのアッシュベアーを一呑みにするエビルキングサーペントを、魔法だけで勝てちゃうんだ。
しかも、魔法って本来なら呪文詠唱が必要らしいけど、お母さんは、その詠唱を使わず魔法名だけで放てちゃうんだ。
凄いよね!
そんな凄いお母さんから、僕が5歳の時から色々と教えて貰っているんだ。
お陰で、僕でも6歳の時にアッシュベアーを1人で倒せる様になったし、エビルキングサーペントも、7歳の時に1人で倒せる様になったんだ。
お母さん、もの凄く驚いていたよ。
だから、今日もお母さんを驚かせようと山の奥にお母さんと一緒に行くと、初めて見る紅いラビットが居たんだ。
角や毛皮が紅いけど、大きさ自体は僕も知っているロングホーンラビットと同じくらいだから倒せると思ったから、お母さんの許可を貰わずに行った。
「……待ちなさい、ルカ!」
「え!?」
「危ない……うっ……がぁ!」
「Gyupi……」
「お母さん! お母さん!」
「……ルカ、怪我は無い」
「怪我は無いよ。お母さんが守ってくれたから……」
お母さんのお腹がどんどん赤くなっていく。
早くポーションを飲ませないと……
「お母さん、ポーションを早く出して!」
「ごめん。さっきので割れたみたい……」
「そんな!」
「それなら回復魔法を……」
「無理よ。紅角兎から受けた傷は魔法では回復しないわ」
「そ、それなら、この辺りの薬草を……」
「それも無駄よ。治療に間に合う薬草は無いわ。紅角兎の主食が治癒に使う薬草だから……」
「……お母さん! お母さん!」
「……よ、良く聞きなさい。わ、私が教えられる事は全…て教えたわ」
「お母さん! お母さん!」
「ルカ、聞きなさい! ……ごぼっ」
「……!? お母さ……はい」
「い…良い子ね。こういう万…が一の時は?」
「家ごとマジックバッグに仕舞って、フロンディーラ辺境伯の所に行き、今後はフロンディーラ辺境伯に従う事……だよね?」
「……正解よ。こ、今後は……アに任せているわ。そして……」
「……お母さん! 立ち上がったら……」
「ルカ、私の前に立ちなさい」
「はい!」
お母さんのあの眼は、本当に大切な事を僕に教える時の眼だ!
「……ベル、ごめんなさい」
「お母さん?」
「ルカに私の最後の『力』を授けます。
ルカ、左手を……」
「はい、お母さん」
そして、お母さんは僕の左手を左手で強く包むと、お母さん自身の血を使って空中に何かの字を書いて、とても綺麗で凛とした声で紡いだ。
「古き神代より継承せし言の葉を、98代目の巫女ルーネ=エクスフィリアが紡ぐ。
……神紋解放!」
「……!?」
お母さんが、輝く夜色の炎に包まれた!
「ルカ、復唱しなさい」
「……うん」
「古き神々に請い願う」
「ふ、古き神々に請い願う」
「この身に再生の痛みを受け入れ」
「……この身に再生の痛みを受け入れ」
「悲嘆の縛鎖を引き千切り」
「……悲嘆の縛鎖を引き千切り」
「差し伸べられた手を繋ぎ」
「……差し伸べられた手を繋ぎ」
「戦慄を振り払う」
「……戦慄を振り払う」
「血脈に眠りし誓約よ」
「……血脈に眠りし誓約よ」
「覚醒せよ!」
「……覚醒せよ!」
そう言った瞬間、僕の身体を包む炎が現れて、しかも青と金と黒の3色も!?
「……3色も! ルカが男の子で良かった」
「……お母さん?」
「後の事は、黒い箱の手紙に書いているから、読む順番は分かるよね?」
「うん……お母さん!?」
お母さんが、身体を吊るしていた糸が全て一瞬で切られた様に倒れると、同時に僕とお母さんの身体を包む炎が消えた。
「ル、ルカ。貴方が生まれて今日まで本当に、し、幸せだったわ」
「お…お母さん……」
「愛しているわ、ルカ」
「ぼ、僕もお母さんが大好きだよ」
「ルカ、貴方の未来に…悲しみがあろうとも笑顔で……溢れている事を願って…い……る……」
「お母さん? ……お母さーーーん!」
その時、僕の中の「何か」が甲高い音を立てて千切れた。
そして……
「……母さん。俺は行くよ」
俺は、家の近くにある小さな丘に建てた墓石の前で母さんに告げた。
「手紙もきちんと読んで理解したから安心して。お墓参りは出来るだけ来る様にするけど期待しないでくれ。目覚めた以上は、今までの様には出来ないからさ」
……母さんが「後ろを振り向かず前を見て歩きなさい!」と、言われた様な気がするな。
「じゃあ、行くな」
そう言って、墓前に背を向ける。
『行ってらっしゃい、ルカ』
「母さん!」
……後ろを思わず振り向いたけど、朝日が眩しいだけで、誰も居なかった。
俺は今朝、母さんの生前からの意志に従い1つ目の手紙を読み、家をマジックバッグに仕舞い、辺境の都市フロンディーラを目指した。
「しかし、異世界転生よりも、今世の母親を喪う方がショックという事は、俺の中にきちんと10歳の『ルカ』が存在る証拠だな」
そう!
俺は、日本からの異世界転生者で、自分の前世はしっかり覚えているが、異世界転生時の俺を轢き殺したトラックだとか、綺麗な同年代系女神様や、○リのじゃ幼児女神様や、妖艶な巨乳美女神様に会っていた、という記憶が無いんだよな。
修学旅行で地元の京都を舞達と歩いていたのは覚えているが、その先は無い。
つまり、その後に死んだのだろうが、死因は何だ?
まあ、良いか。
この世界は10歳になったら、教会か神殿に行ってお祈りをする「誕生の儀式」を強制でもする事になっているから、その時に、モブ転生でなければ会えるだろう。
暮らした山が小指程に小さく見える所で、もう一度言った。
「行ってきます、母さん」
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「神域の反応がありました!」
「何処だ?」
「……申し訳ありません。直ぐに反応が消えて場所の判別が出来ませんでした」
「……ルーネ」
厳しくも温かいメッセージを待っています!
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神紋解放のカタカナは造語です。