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記憶を失った恋人と婚約を解消しました

姉より妹より不出来な僕が、劣等感から解放されるまで。

作者: あや

作者的に引っかかっているところがあって、それの解消。自己満足。とってもシリアスというか重たい話なので、『記憶を失った恋人と婚約を解消しました』や『それなら私が貰います!』を読まれた方でもそういうのが苦手な人は決して読まないで下さい。読まなくても全く問題はないので。

 僕は、幼い頃から劣等感の塊だった。

 まず、容姿。僕は間違いなく美しい容姿ではあったが、女神のような姉、妖精のような妹と比べるとどうしても劣る。

 次に、能力。学力も実技もそう。努力はしているとはいえ何でも卒なくこなす姉妹。一方僕は、沢山沢山努力をしなければ追いつけない。姉は首席、妹は次席で学院を卒業したが、僕は四位だった。


 理由は分かっている。僕は、母に似た。

 姉は、両親のいいとこどり。妹は、父。僕は、いいところも悪いところも含めて半々くらい。

 母は第一クラスを卒業したが、元子爵令嬢だ。高位貴族と低位貴族とではそもそものつくりが違うのだ。顔も、頭も。


 姉も妹も大好きだ。超絶シスコンだ。特に妹なんかはものすごく可愛い。食べちゃいたいくらい可愛い。

 姉は王太子殿下と婚約し、妹はアストレア卿にぐいぐいいっている。とっても応援している。僕はシスコンだが、姉妹の恋を応援してあげられる弁えたシスコンなのだ。

 つまり、僕は確かに姉妹に対して劣等感を抱いているが、それとこれとは別、姉妹のことは大好きなのである。


 両親は、僕が姉妹よりも出来が悪いとは決して言わない。比較もしない。単に僕が良い結果を出せれば褒めて喜んでくれるし、駄目だったら励まし一緒に考えてくれる。

 そんな両親のことも、僕は大好きだ。




 けれど、僕には後悔してもしきれないことがある。

 僕がまだ母の身長を追い越していなかった頃、何事も上手くいかなくて教師にも溜め息を吐かれたときがあった。そのとき、むしゃくしゃした僕は言ってしまったのだ。


「母上になんか似なければこんなことにはならなかったのに!」


 僕しかいない部屋の筈だった。

 けれど、背後から誰かのひゅっと息を呑む音が聞こえた。振り返ってそこにいたのは、一番いて欲しくなかった人がいた。そう、母だった。

 手にはミックスジュースとチョコチップクッキーが盛られた皿がのったトレーを持っていた。僕の大好物。

 母は黙って僕の部屋のサイドテーブルにそのトレーを置き、僕を抱き締めた。


「ぁ、母上、なんで」

「ノックをしても返事がなかったから……ごめんね」

「違うんですこれは、その、」

「ううん、事実だから」


 僕を抱く力が強くなる。

 そして僕は悟ったのだ。母も同じく悩んでいたのだと。

 最初の嗚咽はどちらのものだったか。この距離でないと聞こえない程極限まで抑えたものだったから、きっと母だ。


「私が貴方だったら絶対に思うもの。(母親)よりもランス(父親)に似ていたらいいのにって」


 母は僕を離して肩を掴み、涙で潤んだ瞳で僕を見つめた。


「ただ一つ、私に似て良かったことがあるわ」

「ただ一つじゃない!」

「それは、人一倍、いえ人五倍の努力ができる人間だっていうところ。アイリスやフィーが努力のできない子って言っている訳ではないけれど、貴方は三人の中で、いえ世界で一番努力して前を向ける子よ。貴方は決してアイリスやフィーを憎むことはないでしょう?いじけるのではなくて、その分努力できる子よ。それだけは、私に似て良かったって思って欲しいの」


 そう言うと、母はもう一度僕を抱き締める。


「それだと父上が努力のできない人だって言ってるみたいです」

「ふふ、そういう訳ではないけれど、私にはきっと勝てないわ。だって私は子爵令嬢だったのよ?そんな私に似たのだもの。貴方は努力すれば報われる星の元に生まれているのよ、確実にね」

「母上……」

「唯一私の色を持つ子。愛してるわ」


 母が僕の頬にキスをする。

 明確に、母が僕を贔屓した瞬間だった。


「さ、ミックスジュースが温くなっちゃうわ。あまり根を詰めすぎないようにね」

「あ、ありがとうございます」


 まるで何事もなかったかのように母が部屋を出て行く。

 母の背に向かって礼を告げると、母はこちらを振り向いてぱちんと綺麗なウインクをした。


「いつでも相談しなさいね。私は貴方の()()なんだから」

「はいっ!」


 一瞬手がひらりと振られたのが見えた。

 それを見送り、僕はまだ冷たいままのミックスジュースを飲んだ。


 その後僕は母に謝っていないことに気付いてすぐに謝ったのだが、さらっと流されてしまった。

 ついでのように父には言うなとすら言われた。気を遣わせたくないからという正当な理由だったから言わなかったが、そうではなければ父に全てを告白し懺悔していただろう。




 爵位を譲られ両親が領地の離宮に籠ってしまった今、もはや会うことは滅多にない。

 母はまだ覚えているだろうか。

 色々と背負い込んでしまう人だからまだ覚えているに違いない。いや、切り替えの早い人だからさっぱり忘れてしまっているかもしれない。


 どちらにせよ、あの出来事は僕の人生で一番の後悔で、一生忘れることはない。

思ってたのと違った!という感想は受け付けておりませんのでご了承を。

作者は豆腐メンタル硝子のハートなので誹謗中傷は控えて頂けると幸いです……。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  腐らず憎まず努力ができるというのはすごいことだと思います。 [一言]  これを最初に読んだのですが、思春期にはありがちな悩みですよね。  周りが輝いて見えたり、自分が見劣りするように感じ…
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