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80話 『集束』

「……無意識で制御、ですか?」


 先生が言うには既に僕自身がコアで何かしらの制御をしているらしい。しかしながら、改めて言われてもそのような実感も湧いてこないし、止め方も判らない。


「あぁ、常識が邪魔してしまっているのだろうが……とりあえず結論の前に『次元スライム』とやらがどこに行ったかだな」


 常識が邪魔するとはどういうことか気になるが、『次元スライム』の行先は元々の議題だった。『増殖』で次元移動が防げるという僕の認識が誤っていたものとは思うが、だからといって確信がもてる別の推測はたっていない。

 一応、否定されるのを前提で無難な推測を口に出してみる。


「消去法的には次の周回で出現でしょうか。『増殖』を使った後に倒されるとそうなりましたし……」


 思い出すのは黒田や鈴原さん、その他のβデバッガー達だ。『増殖』をバフと認識していた際の結果となる。

 ただし、『次元スライム』ではそうはならないと考えている。記憶や身体を繰り返し後も継続しているのがその理由だ。

 記憶を失った状態で復活するならまだありそうではあるが、それであればもはや別の存在だ。わざわざ次元移動はしないだろう。


「だが、ケイもその可能性は低いと考えているのだろ? それについては俺も同じ意見だ。――アル、確認だが『次元スライム』とはその名の通り次元を移動するのだと言っていたな」


 先生が胸元のアミュレットへ向けて、つい先程の状況説明への確認を行なった。

 繰り返すと先生は記憶を消失してしまうので、繰り返し直後はアルが先生へ経緯を説明する流れになっている。

 その説明はある程度簡略化しているので、今の問いかけは先生が出した結論に思い違いがないかの確認行為だろう。


『如何にも。時間軸のずれた世界を移動しながら自分自身を重ね合わせ、ある意味で無限の強さを誇る。そのような存在だ。その特性上、本来は遭遇すること自体が稀である魔物だがな』


「アルはその特性が、繰り返す世界の特性で相殺されたと認識しているわけだろ? ケイも、その認識を前提に対策を考えていたと。――だが、そこに抜け穴がある。未来に進む方向であればその通りなのだろうが、元々時間軸を移動できたなら逆に進む(・・・・)こともできるだろう」


「それって……まさか、過去に移動したってことですか? そんなことが可能なら手の付けようがないんじゃ……」


 僕が体験していた3日間の擬似的なタイムトラベルにおいても未来の情報は有用だった。そんなタイムトラベルを能動的に使用できるのであれば、過去を都合の良いように変えることも可能だろう。


『なるほど、過去に戻った、か。そうなるとケイの懸念は尤もだろうが、返って今こうして我らがここに存在できていることが改変に失敗している証明にもなっておる。大方、移動はできても改変はできないのだろうよ』


 アルの話は正に親殺しのタイムパラドクスそのものだ。文字通り、過去に戻って自分が産まれる前に親を殺した場合、自分が存在しなくなり親も殺されなくなるという矛盾だ。

 タイムトラベルの存在自体を否定する思考実験ではあるが、その反論の王道として、矛盾が生じた際にそのまま世界が分岐するパターンと、そもそもタイムパラドクスは起こせないとするパターンの2つがある。

 アルの主張は後者になる。前者については考慮する必要はないだろうか。


「あぁ、アルの認識は恐らく正しい。コアの管理者――繰り返す世界の観測者となっているケイがここにいる時点で、過去に新しい世界が生まれる要素はない。――つまりだ、ケイ。お前の記憶の中で世界を観測できていない時期があるんじゃないか?」


 まさか前者のパターンを否定する要素はまさかの僕の存在だった。正しくはコアの存在が如何なるバグよりも絶対的に優先されるのだろう。

 一定の納得をしたところで先生が言ったことを考えてみる。『次元スライム』が居なかった時期とすると、まず思い付くのはここ数周で『次元スライム』が次元移動した後の世界だ。

 だが、そこでは居なかった(・・・・・)ことを認識しているし、『次元スライム』の観測ではなく世界の観測とする先生の条件には当てはまらない。同じ理由で、どこかの周回でただ遭遇していない期間についても除外される。

 あるとすれば、僕自身の意識がない時期だろう。例えば寝ている時間帯か、もしそうでないなら、気絶でもしていた時期がどこかあった。

 どんどん記憶を遡っていくが、全く思い当たらない。だが、黙々と思い出し続けていくと最後にそれはあった。


「あ、ありました。それこそ一番最初――1周目です。僕の認識では1周目の途中から2周目になっていますので繰り返し地点まで数時間の期間があります」


 工場における先生と『次元スライム』の戦闘中、僕が『次元スライム』の触手――つまり最初にコアに触れた時点で2周目になっていた。あれは7日の深夜だったので、8日の10時までの時間帯が完全に空白となっている。


「繰り返し前か。偶然……いや、必然だろうな。――さて、繰り返し前ならば更に話は判りやすい。どうすれば良いかという結論だが、わざわざ過去に追いかける必要はない。繰り返しを終わらせてしまえばよい」


「繰り返しを終わらせる……。あ、そうか、このコアがあれば繰り返しについての制御も可能そうですね」


 淡く光るキューブを右手に出現させて繰り返しの制御が可能そうか集中する。簡単な制御箇所だけではなく、より深い複雑な制御ロジックまで解析していく。

 この繰り返す世界はダンジョンでできており、そのダンジョンのコアの管理者が僕になった。であれば繰り返しの機能を上手く制御できれば繰り返しから抜け出すことができそうだ。


「大筋は合っているが、残念ながらそこが常識に捕らわれている。――いいか、ケイ。コアというのは『修正パッチ』のようなバグの制御ユニットでは無く、言わばバグそのもの(・・・・・・)だ。コアから生じたバグを制御するのではなく、コアの中にバグを回収しろ。繰り返す世界ごと自分の物にしてしまえ」


 先生が持っていた結論は予想だにしない規模の話だった。世界ごと回収して自分の物にするなんて、とても不可能そうに思える。

 しかし、そういえば以前にアルも似たようなことを言っていた。レベルシステムを先生が独占することで世界からレベルシステムが無くなったと。

 つまり、先生も既に通った道だということだ。同じ話を繰り返しに適用すれば、世界から繰り返しをなくすことは可能なのは道理だ。

 そこまで考えて改めてコアの操作に集中すると、確かに無理をしていた。バグを分析して判明した機能を抽出し、それぞれの分類までしていたが、未だに大部分はブラックボックスのままだ。

 その解析作業は終わりが見えない作業であったが、それもそうだろう。アプローチ方法がそもそも間違っていたという話だ。

 これまで実施していた分析を止め、分類した機能もブラックボックスの中に戻す。一旦初期化して、先生の言うバグの回収というものを試してみよう。


「――え? なにこれ?」


『きゅい!?』


 無意識の制御について理解し中断した途端、地面や大岩の壁や天井から緑色に光る粒子が溢れだしてきた。難しい話はよく判らないとばかりに物理的に平べったくなっていた『暴食スライム』も驚いて周りを見渡し始めている。


「うわっ」


 緑色の粒子はある程度空間に溜まると、一気に僕が持っているコアへと流れ込み始めた。


『ほう。二度目の光景だな。あの時は青だったが』


 アルが言う二度目とは、先生がコアを入手した際のことだろう。

 つまり、これが回収作業だ。解析などする必要はなく、ただ制御を止めるだけで良かったらしい。

 この様子だと僕のコアは恐らく緑色のコアにでもなるのだろう。先生と同じ領域まで達すると思うと、畏れ多くも感じる。






「……ケイ。もう少し世界の回収が進行すれば、ケイは1日目の途中から再開することになるだろう。その時に『次元スライム』とやらが障壁となるだろうが、そいつは一人で対処するんだ。逃走時に俺に切られた半身を置いていったという話だから大幅に弱体化している筈だ。恐らくなんとかなるだろう」


「え? 先生はどうするんですか?」


 先生がいきなり今生の別れのようなことを言い出したので不思議に思う。

 確かに麻痺毒で身体が動かなくなってきてはいるので戦闘は難しかろうが、1周目にも当然鈴原さんはいるので治療は十分可能な筈だ。

 まして、戦力という意味では『暴食スライム』の方があてになるのではないだろうか。


「俺、そしてこいつもだろうが、世界の集束には付いていけないだろう」


『きゅい?』


 そういえば、先生と『暴食スライム』は元々身体が継続し意識は継続していなかった。『暴食スライム』がどうこの世界に入り込んだかは知らないが、先生に関しては無理やり入り口をこじ開けたと言っていた。


「繰り返しのルールと逸脱しているからですか? それならどうなるんですか!?」


「さてな。未帰還者と同じ扱いになるのか次元の狭間に取り残されるのかといったところだろうな。なに、これは仕方ないことだ。――アル、フォローしてやってくれ」


 唐突に仕方のない犠牲だと言われても納得できるものではない。咄嗟にコアを操作し回収作業を止めようと試みるが、どうやら既にそれが可能そうなタイミングは過ぎているようだ。


『今更だな。無事に済んだらガキどもの面倒もみてやろうではないか』


 既に返却していたアミュレットを、先生はゆっくりと首から外し、そして僕に渡してきた。

 先生に図られた気がするが、だからといってアミュレットの受け取りまで拒否するわけにもいかない。

 アルも世界の外から侵入してきたが、僕の所有物(・・・)として繰り返すことで記憶の継続ができていた。つまり、先生の行動にも表れていた通り、今回の世界の集束にも付いていくことができるのだろう。

 今にして思えばアルは不思議な存在だ。生物の意識を持ち、物質としての身体を持つ。且つ、バグらないという特性もあるらしいし、更にはアミュレット自体もコアと同じような物質であるらしい。

 そのせいで世界にとっては異物であり、バグの方がバグる(・・・)ことでなんとか整合性を保っているような印象さえ受ける。

 そこまで考えていると、ふと一つの可能性に思い当たった。


「――先生、そしてアル。一つ試したいことがあります」

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