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79話 『伝達』 (2010年6月5日 790回目)

「やっぱり、居ないみたいですね」


「まぁ、そうだろうな。聞いている話からすればそれが自然だ」


 僕の制御化になったコアを片手で操作して居場所を捜索するが、捜索している対象はどこにも居ない。

 コアはダンジョン全てを管理しているのでその捜索範囲から逃れることはできない。つまり、存在自体していないことになる。

 捜索していたのは『次元スライム』だ。1周前、『増殖』を使用して次元移動を封じ、なんとか討伐直前まで追い込んだが、最後の最後で『次元スライム』は忽然と姿を消してしまった。

 その現象は何度も見たことがあるので何をされたかは理解している。『次元スライム』の次元移動だ。

 封じたはずの次元移動を使われたため、その時は認識に誤りがあったものと愕然としたものだったが、こうして繰り返した後に存在していないとなると、認識誤りではなく何かしらの認識不足があったものと考えている。


「正直、居たら終わってましたね。良かったのやら悪かったのやら……」


 もし、今回も変わらず『次元スライム』が居たのであれば勝負は成り立たなかっただろう。そう思い、直ぐ前方に居る先生へと目線を向ける。

 その視線の位置はこれまでよりも低い。何せ、先生は今座っている。僕が押している車椅子の上に。

 掠っただけで昏睡状態へと陥っていた『次元スライム』の麻痺毒を込めた触手の一撃、前回それが先生に直撃していた。

 その症状は鈴原さんの『めふぃすと』と『ネクロ』の相乗効果によって症状を緩和できていたが、今は周回直後のためその2体は今居ない。

 鈴原さんを緊急で呼び出してはいるが、先生への状況説明をすると、先にやることができたとの話があり、先生をここまで連れてきている。

 尚、車椅子自体は僕が使っていたものだ。身体に無理をさせた突撃により、両足が複雑骨折していて歩行は不可能であった。鈴原さんに頼めば治療もできた筈だが、先生を優先してもらった。もっとも、先生とは違って周回時に僕の怪我は完治してしまったが。


「先生は、あいつが何処に行ったか判るんですか?」


「あぁ、予測だがな。そして追跡する方法も明らかだが、今はその前に雑事を終わらせないといけない」


「それがここですか? 今まで特に何もありませんでしたが……暗号があるだけで」


 先生を連れてきたのは、工事現場の中央――この世界の入り口がある大岩だ。工事現場の金属鋼板は後ろからきゅいきゅい言いながら付いてきている『暴食スライム』のおかげで簡単に越えられている。

 大岩にある入り口は、先生が入ってきた本当の世界を垣間見ることはできるが通り抜けることはできず、ただ暗号が書かれたホワイトボードが見えるだけの筈だ。


「多分、こんなに早く来たことはないだろ?」 


 確かにそれはそうだ。周回直後は大抵慌ただしかったし、そもそもいつ見に行っても代わり映えしなかったので見に来た回数すらそれほど多くない。


『ふむ。なるほど。目的はその暗号についてか。ミフユを間接的に仲間に引き込む為だけの暗号なぞ意味不明だったからな。それこそ当事者でしかその価値は判らぬ』


 アルが先生の意図を理解したようだが、その話であれば暗号を最初に伝えたのは、今ここにいる僕らということになる。向こうの世界に伝えたのが初めで、同じ内容を向こうから伝えて貰っていたということだろう。

 確かに原理的にはそれは可能なように思われる。この世界は3日間を幾重にも繰り返しているが、向こうの世界では1回分の3日間でしかない。逆から見れば、繰り返し時の差分が全て重なって見えることになる。

 つまり、繰り返しの初期にメッセージを送ることができれば、過去の周回でその返答を貰うことも可能という訳だ。

 後は、どうやってメッセージを伝えるかだけれども、大岩を潜り入口に着いたときそれは明らかになった。


「あの人はどなた……でしょうか……?」


 世界の入口の外側、今まではホワイトボードが置かれていた位置、そこに一人の女性が佇んでいた。

 きっちりとしたシャツにタイトな黒いスカートのスーツ姿、そこから更に白衣を纏い、首からは社員証のようなものがぶら下がっている。

 凛とした表情で肩を越える程の髪を後ろで1本に束ねている。年齢的には20代の半ば辺りだろうか。


「あぁ、妻だ。向こうにしてみればダンジョンに入ったばかりだから驚かせてしまうのは忍びない」


「先生の奥さんということは、あの人が雷水の……」


 と、話をしているところで向こうが此方に気がついた。一瞬笑顔になったかと思えば、途中から険しい顔になり此方に近づいてくる。

 険しい顔になるのも当然だろう。つい先程まで一緒に居た身近な人がいきなり幾分か歳をとり、車椅子に押された状態になっているとなれば冷静ではいられないだろう。まして、追跡目標だった筈の『暴食スライム』まで一緒にいるとなると尚更だ。

 その人物が世界の境目越しに話しかけてくるが、残念ながら声は届いてこない。世界の境目を通れるのは光だけらしい。


「あぁ、それでホワイトボードなのか。となると、文字でのやり取りになりますね。……スマホでいいでしょうか。暗号も表示できますし」


「いや、その必要はないな。暗号も不要だ。ケイから聞いてしまえば起点がなくなってしまう」


 先生の懸念はもっともだ。僕が暗号を知っているのはその暗号を過去の僕自身に伝えたから、となるとどこからその情報が生まれたのか理解不能になってしまう。

 タイムパラドクスの1つなので、余計なバグを生まないためにも避けられるものなら避けた方が無難だろう。


「アル。消去法的にお前は知っていた筈だ。ここで暗号を見るよりも先に」


『ふむ。確かにあの文字列には見覚えがあった。あれは恐らく我が幼竜の頃、誰かに覚えておけと言われた文字列によく似ておった。記憶が曖昧だが復唱するか?』


「あぁ、ドラゴン程の存在の記憶が狂うことはないだろう。まして、うろ覚えだろうがなんだろうが間違えることはないさ。何せ既に正確に伝わっているからな」






 先生が展開していたメッセージボードを元のキューブ状に戻した。

 コアをそんな風に使用する先生はやはり異常だ。管理者になることでコアの使い方は不思議と理解できてはいるが、文字を表示させるような形状に変化させる発想はなかった。尚、できそうなので試しにやってみたが意外と上手く文字を表示させる制御が難しく断念した。

 メッセージを伝え終わると先生の奥さんは何処かへ向かったようだ。大方、ホワイトボードを探しに行ったのだろう。


「さて、するべきことも終わったな。では本題についてだ」


 本題とは先生が僕の説明を聞いて認識した『次元スライム』の居場所、そしてその追跡方法についてだろう。


「まぁ、簡単な話だ。それはケイ。お前が無意識にしているコアの制御を止めるだけで良い」

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