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75話 『襲撃』 (2010年6月6日 789回目)

「やぁ。ようやく来たね」


 僕にとっては見慣れた場所。自分の部屋の外にある工事現場、そして何度もスライムと対峙した倉庫の中だ。


『ぎゅわわ』


 突然壁を破壊して現れたそいつ――『次元スライム』は、恐らく僕を狙ってきたのだろう。それが罠ともしらずに。


 『次元スライム』が次元移動で逃走した後の周回では、本格的な戦闘は1度も発生していない。その理由は、『次元スライム』が先生を目撃した途端に、次元移動で逃走する行動を取るようになったためだ。

 そうして逃げ続けながら『次元スライム』がしていたのはβデバッガー個人への襲撃だ。恐らく、先生達との総力戦では旗色が悪いと見てパワーアップを狙っていたのだろう。

 とにかく僕達にとってはβデバッガーが1人ずつ削られていく状況は感情的にも戦力的にも厳しいので、対策として残った全βデバッガーに戦闘拠点――つまり僕の家の前の工事現場で生活して貰っている。

 結果として『次元スライム』は工事現場の付近に潜伏し、誰かが集団から孤立した瞬間を狙うようになった。その対象で最たる狙い目は、パワーアップの元になる『修正パッチ』を複数持っていて、且つ繰り返しの記憶がある人物――つまり、僕だろう。


「待っていたよ。正直もっと早く気づくべきだったけどさ」


『ぎゅわわ?』


 狙われると判っていて一人で行動していたのには当然理由がある。そうしなければ、こいつが僕の目の前に現れないであろうことがその1番目の理由ではあるが、なんの策も無しにそれを行なうわけもない。

 次元移動による逃避――これを何とかしないと戦闘のスタート地点に立つこともできないが、その解決方法は僕が既に持っていた。それに気づいたことが2番目の理由となる。


「『増殖』!」


 使用したのは今まで封印していた『増殖』だ。封印していた理由は、強力なバフの反面、次の周回の存在を呼び出す都合で『次の周回』の存在が確定する点によるものだ。周回から抜け出すのが最終目標なのにそれを否定してしまっては意味がなかった。

 だが、最近の『次元スライム』の行動によりこの前提が崩れていた。その行動とは正に一番の問題点である次元移動そのものである。

 次元移動とは、いわゆる平行世界を渡るものの筈であるが、『次元スライム』のそれにおいては1つ違和感があった。次元移動はするものの、次元移動されてこない。つまり、次元移動するのであれば同じ時間同じ場所に出現する筈であるが、周回時は何故かそのまま初めから存在しており、恐らくその場所もダンジョンの中央だろう。

 結局のところ『次元スライム』は、繰り返しのルールに縛られている。繰り返しのルールを逸脱して記憶と肉体を保持する僕と同じ状態だと思っていたが、記憶の引継ぎに関しても次元移動の能力と相殺していただけなのだろう。

 とするならば、繰り返しのバグに対する修正パッチ――『増殖』の効果が活きてくる。


『ぎゅわ? ぎゅおわわ!』


「やっぱり効果があったね。力が沸いてくるだろ? でも、後は無くなったよ」


 元々『次元スライム』の姿は幾重にも重なって見えていたが、その重なり具合が更に倍増している。

 その原因は『増殖』によるもの――『増殖』をあえて『次元スライム』に使うことで次の周回の『次元スライム』を召喚した結果だ。つまり、次元移動する先が無くなったので逃走は出来なくなっている。


『ぎゅおお』


「まぁ、そうするだろうね」


 『次元スライム』は触手を2束持ち上げ、それを僕に向けて構える。

 どうやら逃走は不可能と理解したようだが、『次元スライム』の元々の狙いは僕である。わざわざ僕を相手に逃げる必要もないだろうし、僕を倒して『増殖』を奪い取れば改めて次元移動することもできるだろう。


「でも、ここまで準備してなんの対策もしていないわけはないよね」


『――――ぎゅ? ぎゅわわわ!』


 僕の言葉が終わるのとほぼ同時、何かに気づいたように僕に向いていた触手は方向を変え、何もない空中に向かいそこで何か(・・)とぶつかった。


「なるほど。不意打ちでこれか。話には聞いていたがこれは厳しいな」


 突然空中に現れたのは、先生、長谷川さん、『暴食スライム』、そして黒田だ。確か『無限虚空陣』とかそんな名前の技だった気がするが、それで転移してきていた。

 先生達が近くにいるとそれを察知して『次元スライム』が現れない可能性があったので、その対策として思い出したのがこの技である。

 そんな遠くからの奇襲であるが、タイミングが完璧であったのは単純に見ていたためだ。天井に取り付けられている防犯カメラ、その映像は僕の部屋に繋がっている。


「ま、これくらいが丁度良いってことっすよ」


『きゅい!』


 不意打ちによる先生の大剣の一撃を防がれたことで、仕切り直しとばかりに先生達は僕の方までやってくる。


「ケイ、そしてシゲル。離れてろよ。こいつはお前らの手には負えない」


「はい、先生。後はお願いします」


「まったく、俺が戦力外とはな……。すみません、よろしくお願いします」


 先生といつかしたようなやり取りを実施する。それは『暴食スライム』との戦闘に苦戦していた時だっただろうか。その際の先生の頼もしさについては今でも思い出される。

 そしてそれは今回も同じだ。今まで百周以上も感じてきた脅威に加えて『増殖』によるバフすら掛かっているが、ここまで準備が万全であれば不思議と敗北する未来は想像できない。


「さて、では久しぶりに気合い入れていくか!」


「ん? あの時の掛け声っすか? 了解っす」


『きゅい』


「「 戦闘開始(デバッグスタート)!」」『きゅいっきゅー!』

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