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73話 『合流』 (2010年6月8日 753回目)

 3メートル程の金属鋼板――それで囲われた空間からは、未だに何かの衝突音が響き渡っている。その音は先生やスライムが『次元スライム』と戦い続けている証拠であり、安心材料になるものだ。

 その音はここからやや遠い位置から聞こえてくるので、この場所からの侵入は問題ないだろう。


「よっと」


 念のために金属鋼板の上に跳び乗って中を覗き見るが、予想通り戦闘場所はやや遠く、戦場は左奥の隅辺りになっている。


「長谷川さん。今なら入れそうですよ」


「――――ん」


 僕の呼び掛けに長谷川さんは、無言で僕を見上げ何やら両手を僕の方に延ばしている。一瞬何を意味するのか不明であったが、長谷川さんの胸元のアミュレットから指摘が入った。


『ケイよ。こやつの身体能力は一般人の域を超えぬ。全てのαデバッガーが超人なんて先入観は捨てよ』


 確かにアルの言う通り先入観を持っていた。

 先生は勿論のこととして、黒田や鈴原さん、ましてや僕自信の身体能力が向上していたため、3メートル程度の壁を駆け上がるのは大したことではないなんて感覚を持っていた。

 実際はαデバッガーである爺さんも一般人の範疇に居たこともあり、その感覚は完全に誤りだ。


「すみません。配慮が足りませんでした」


「うむ。わかればよろしい」


 長谷川さんの両手を掴み、金属鋼板の上まで引っ張りあげる。そしてそんな足場の無い場所に解放する訳にもいかないので、そのまま長谷川さんを抱えて内側の地面にまで飛び降りる。


「おぉ、格好良いじゃない。うちの息子もこれくらいに成長しないものかなー」


『あやつの血が半分入っておるなら厳しいのではないか?』


「んー。まぁ……確かに」


 何やら2人で納得してしまったようだが、長谷川さんの夫、つまり元々の『長谷川』さんなる人物の話だろう。アルと面識があることを踏まえると、αデバッガーに長谷川という姓の人物が居たので、その人物が長谷川さんの夫ということで恐らく間違いはない。

 αデバッガー同士で結婚していたなんて話が伝わっていなかったことは不思議ではあるが、先生達の方に注目が集まっていたことを考えればそれ程違和感はないのかもしれない。


「でも、大丈夫なんですか? 身体能力が普通だとあれ(・・)に太刀打ちできると思えないのですが」


 そう言って目を向けた先には、残像を残しながら触手を動かし続ける『次元スライム』の姿がある。とてもではないがその動きを目で捉えることはできないだろうし、例え捉えられたとしても身体の動きが追い付かないだろう。


『なに、その程度の心配などいらぬ。こやつの能力は自動的なのでな。どうやら強運は失しておるようだが、その為に我がおる』


 昨日の話では、長谷川さんの『修正パッチ』の効果は他の能力や危険に対する『自動回避』が行われるようだが、α時代では更に『強運』なる『修正パッチ』も保持していたらしい。

 細かい効果までは聞いていないが、言葉通りの効果であれば回避性能は更に異次元であっただろうし、ギルガンにおいても勝てる要素も無くなっていただろう。


「ま、どれだけ通用するか試してみようじゃない」






「先生!」


「ん、ケイか。……と、ミフユじゃないか! なんだ、まさかこの空間の中に居たのか? 初めから」


「ふっふっふ。その通りっすよ先輩。満を持して現れたこの私が先輩の困り事を解決してやるっす」


 先生に向けて大見得を切った長谷川さんは、唯一持ってきていた鞄から20センチメートル程のナイフを取り出し、そのまま真横に構えながら『暴食スライム』と戦闘中の『次元スライム』にいきなり突っ込んでいく。

 あまりに無謀な行動ではあるが、先生からは特別慌てたり止めようとする気配はない。実際、触手を身体を捻って躱したり、『暴食スライム』の陰に隠れてやり過ごしたり、ナイフで弾いたりしてなんとか形になっている。


「なんで躱せているのか意味不明ですね。後、あのナイフもですが……」


 長谷川さんの動きは、『次元スライム』と比べて物凄くゆったりとしている。にも関わらず、何故か一撃も貰っていない。見て避けているというよりも、次の『次元スライム』の行動を予測して先行して動いているのだろう。人間技ではないが、『ういんた』を操作していた人間と考えれば納得はできる。

 その上で新たな注目点は長谷川さんが使用しているナイフだ。恐らくダンジョン産のアイテムであろうそのナイフであるが、そもそもナイフという名称が正しいのかは怪しい。

 そのナイフは黒色で平べったい片刃であり、持ち手の付近は直角の角が付いている。つまりそれはどう見ても――。


「鬼包丁というアイテムだ。効果は料理の味に補正効果が乗る。ただそれだけだ」


「そのまま包丁なんですか? なんで壊れないんだろう」


 長谷川さんの回避能力は尋常ではないが、流石に身体能力が違いすぎる。言わば必中攻撃となる攻撃を件の包丁で何度か弾いて(・・・)いる。

 これが先生であれば違和感はないが、身体能力が普通だとする長谷川さんが弾けているのは異常だ。物理的に押し負ける筈であり、包丁が破壊されるか、そうでなければ手から弾き飛ばされないとおかしい。


「まぁ、バグだな。理由は武器ではなく調理道具であるからと結論付けている。武器や防具として使用すれば耐久力が持たないが、あくまで調理道具としてただ持っている限りは勝手に装備が外れることはない」


 長谷川さんの『修正パッチ』の効果は『自動回避』と聞いていた。意識的に(・・・・)包丁を防御に使用していないので防具として扱われないということだろうか。


『きゅい』


「あ、ありがとスラボウ……先輩! なんすかコイツ! 無理っす! 死ぬっす! 見てないで手伝って下さい」


 どうやら包丁を使っても捌ききれない攻撃でもあったのだろう。そこをスライムがフォローしていた。あれだけ息巻いていた長谷川さんであったが、流石に無理があったらしい。

 尚、スラボウというのは響き的に『暴食スライム』の略称か何かと思われる。その呼称からすると、どうやらスライムに明確な名前は付いていないらしい。


「あいよ。……後1時間か。この様子ならなんとかなりそうだな」


 時刻にして丁度9時を回ったところだ。最初は昨日のうちに合流しようと思っていたが、暗くなりそうな時間帯であったことと、単純に長谷川さんの体力が持たないとのことでこの時刻になっていた。

 ただし、先生の見立てであれば後1時間もあれば十分なようだ。

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