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71話 『必殺』

 長谷川さんの『ういんた』に勝つのは不可能ではない。『ういんた』の攻撃を避け続け、必中攻撃を当て続けるのみで良い。

 言葉で言うならばそれだけだが、『ういんた』側には100パーセントの回避能力があり、攻撃も必中である必要はない。つまり、条件としては完全な上位互換となっている。

 唯一勝っている2対1という人数差においてもこの差は歴然であり、これまでの戦闘回数と勝率が全てを物語っている。奇跡的に運良く必中攻撃が何度も発生すれば、偶然勝つ可能性もありそうではあるが、未だにその数値は0に張り付いたままだ。

 その偶然を許さないのは、単に長谷川さんの腕によるものだ。1度見た必中攻撃の組み合わせを2度受けることはないし、システム上どうしようもない必中攻撃は何度も受ける前にリスクを取って攻撃に転じてくる。そのため、必要な必中攻撃の回数が多ければ多いほど奇跡が起こる可能性も薄まっていく。

 それではどうすれば良いか。その答えは単純であり1発の必中攻撃によるダメージを大きく底上げしてあげれば良い。


「うお。これは、チャンスじゃないか」


 黒田に言われるまでもなく、すでに『オロチ』は動き出している。桜庭さんの機体――『チェリーブロッサム』が『ういんた』をホールドしている間に、グラビティブラスターを2発とも撃ち込む。

 その直後、『ういんた』は『チェリーブロッサム』にレーザーを撃つことでホールドから抜け出すことに成功するが、重力空間から抜け出すことはできていない。当然、その隙を逃すつもりはない。


「え? パージするの? 勿体なくない?」


 パージと言っても第一段階の機体を捨てて第二段階になるパージと違い、ウェポンパージという機能のことだ。

 その名の通り武器を捨てる技であり、武器の持ち換えより僅かにディレイが少なくて済む程度の効果しかないので、煽り以外では誰も使わない機能だ。だが今回はその僅かな差が重要であり、また後々にも必要な操作となる。

 グラビティブラスターをウェポンパージすることで、装備武器は次の武器――グラビティナックルへと代わる。同じ重力空間を使用する技であるが、遠距離用武器と中近距離用武器の差がある。

 グラビティナックルは重力空間を直接叩き込む武器だ。使用すると目標まで一直線に飛び掛かるが、若干の誘導性能があるため重力空間に2重で捕らわれていれば回避不能となる。

 そして命中すると同時に再びウェポンパージし、次の武器――ヘビーハンマーを振りかぶる。この武器は命中範囲がもの凄く狭く、外した場合の隙も大きくなっている。ただし、重力空間が3重になっているので『ういんた』はほぼ動くことができず外す心配はない。

 上から振り下ろしたヘビーハンマーは、そのまま『ういんた』へと直撃し強制ダウンを奪う。更に、次の武器――ロックニードルによって上空へとはねあげる。

 続いて真上にしか飛ばないが、命中するとダウン復帰効果のある対空ロケット砲により追い討ちを行なう。その後『ういんた』が上空にいて地面に落ちる前に、その落下地点へ踏み込むと発動する設置型の罠を設置する。


「凄げぇ……姉御から第1ラウンドを取るなんて」


 黒田の言う通り、今の設置型の罠の地雷で『ういんた』の体力ゲージが0になっている。だが、そこまでなら今まででも不可能ではなかった。


「いや、まだまだ続くよ」


「あ? どうやって……」


 第一段階から第二段階に移る際は、基本的(・・・)にはそれまでの状態はリセットされるため仕切り直しになる。そこを例外的(・・・)に潜り抜けるのが以前に採用していた虎バサミのバグだ。

 発動時にバックラーで直ガーすることで透明化するバグがあるが、その効果よりも透明状態であれば第一段階と第二段階の切り替わり時にも拘束が継続するバグが今は重要だ。それを地雷と同時に設置してある。

 このバグを利用するには本来こちらも第二段階になっていなければいけないが、それは『オロチ』の特性で条件を満たしているらしい。

 虎バサミが変質したスパイダーネットに捕らわれている第二段階――槍を持った形態の『ういんた』に対し、今度は大型ランスを当てて斜め上空に弾き飛ばす。

 そこへ斜め上空方向へ飛び上がって切り刻む武器――サイスで追いかけ、更に上空で接触しながらのショットガン、斜め下方向に叩き落とすブーストキック、斜め下方向に投げる炸裂弾、自動攻撃をするAIビットと繋げていく。


「凄い。でも、この後はどうするのー?」


 鈴原さんが言うのも当然だろう。何せ、あれだけあった武器がウェポンパージを重ねることで全て(・・)無くなっている。その一方で『ういんた』の残りの体力ゲージは4分の1程残っており、それだけあれば長谷川さんなら十分逆転可能だろう。

 つまり、当然これで終わりではない。


「こうするんだよ」


 『ういんた』の復帰地点、そこに接近すると同時にコマンドを入力する。使用するのは超必殺技だ。これまでの攻撃で必殺技ゲージはマックスまで溜まっている。


「素手の超必? なるほどな。だが、削りきれるか?」


 『オロチ』を中心として雷を帯びた球形の空間が拡がっていく。これは武器を持っていない状態におけるゲージを使用した必殺技であり、自分の体力を犠牲にして範囲内にダメージを与え続ける技――ようするに自爆技だ。

 ダメージ効率が悪く外せば終わりな技だけあって本来は魅せプレイ用の技に過ぎないが、自機を中心にダメージ範囲が拡がるため、ダウン復帰後に重ねるとこの技は必中になる。今はその効果が重要であり、ウェポンパージをし続けたのは最終的にこの技に繋げるためだ。

 対処法としては単純にやられる前に攻撃して相手を倒すか、範囲外に脱出するかしかないが、どちらを取られても倒しきれるダメージ計算になっている。

 案の定、『ういんた』は復帰直後『オロチ』から離れる方向にバックステップを取る。攻撃では明らかに間に合わないのである程度の無敵時間のあるバックステップが最善であり、流石に長谷川さんだけあってその後の最善も間違えずに選択する。

 その最善の行動として、『ういんた』は『オロチ』に背を向け(・・・・)超必殺技を使用する。『ういんた』の槍による超必殺技は、本来相手に向けて突進して槍を付き出す技であるが、相手にサイトを合わせていない場合は向いている方向に突進する。

 現状では距離を稼ぐには最適な選択肢となる。ただし、槍を付き出した後の硬直が致命的であり、そこでチェックメイトとなる……筈だった。


「え? パージ? 意味があるのか?」


 散々見せてきたウェポンパージ。それを『ういんた』が使ってきていた。だが、ウェポンパージは武器の切り替えでディレイが短くなりはするが、別にこの場を潜り抜ける効果があるわけでもない。

 そんな無意味な操作のはずであるが、こと長谷川さんに限ってはそんな無意味な行動をするわけがない。そう考えると、そもそも回避が間に合わないのであれば、復帰後のバックステップが最善であっても実施したのは不思議な話だ。

 そんな疑問が生じたが、次に発生した現象がその行動の理由全てを物語っていた。


「……嘘だろ?」


「あー、こりゃバグだな。惜しかったな」


 超必殺技中に槍をパージした『ういんた』は、何故か槍を付き出したモーションをしたまま、その方向へ止まらずにスライドしていく。

 あまりに変な挙動のため、黒田が言うようにどう見てもバグだ。恐らく武器が急に無くなったので、次のモーションへの処理が止まり移動情報のみ残ったものと思われる。

 このまま戦闘範囲外まで吹っ飛んでいき、そこで自動復帰処理が入るだろうが、その段階になる前に『オロチ』の体力ゲージが0になって負けが確定する。

 暗合にまで隠されていた『オロチ』。どう見ても長谷川さんへの対策の専用機であるが、最後のバグは想定外であったのか、もしくはどこかで操作方法が異なっていたのだろう。

 ただし、光明は見えた。今回は負けを認めて、次回までに研究するのも悪くない。


「ちょっと、私を忘れないでよね。そもそも、格闘(わざ)は高乃宮じゃなくて私の専売特許なんだから」


 そう言った桜庭さんの機体『チェリーブロッサム』は、丁度『ういんた』の進行方向に佇んでいた。

 そして桜庭さんの操作に従って『チェリーブロッサム』から『オロチ』と同じく、雷を帯びた球形の空間が拡がっていく。

 『ういんた』はバグで操作不能なのか自ずからその空間へ飛び込んでいった。

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