70話 『大蛇』 (2010年6月7日 753回目)
「は? なんだ、その機体。そもそも機体なのか?」
後ろから覗き込んでいる黒田から驚くような声が聞こえてくる。それもそうだろう。初めて見た時は僕も驚いた。
ギルガンでは普通、機械でできた機体が第一段階で、倒されると中から人間形態となる第二段階がある。だが、ゲーム開始前のキャラクター選択画面でありながら、僕が選んだ機体は人間形態の表示がされている。
「ポイントの節約の為に最初からパージ状態にしてあるんだよ」
「なに! そんなことできたのか」
黒田が再度驚いているが、実際のところ作成ツールにはそんな機能は存在しない。直接コードを打ち込んだことで該当のフラグがオフになったものと思われるが、エラーとならないのは第二段階用のデバッグ用か、はたまた今後情報展開される隠し機能がソースにでも埋まっていたからだろう。
その機体は待機時間の後緑色の大地に降り立つと、画面中央に相手の機体のロックオン表示が浮かび上がる。当然浮かび上がる表示に映る名前は、長谷川さんの操る『ういんた』だ。
「おー。装備武器も圧巻だねー。えーと、オロチ? 『ケルベロス』の上を行くなんて凄い発想だよ」
後ろに立つもう1人のギャラリーである鈴原さんが、戦闘開始後の画面に映る情報の特異点に反応した。
機体名『オロチ』。それが謎の暗合を入力した際に読み込まれたデータだ。オロチとは、八岐大蛇を代表するように首が複数ある伝説上の生き物を示しているのだろう。
龍を示す名前でありながら、人型のキャラクターにその名前が付いている理由については明確だ。むしろ、僕と同じ思想による命名理由だろう。
つまり、3つの武器を使い回す機体だったので『ケルベロス』、同じ方向性で2つの武器に絞った機体が『オルトロス』、それならば『オロチ』ならばどうなるか。その答えは、画面の右端を埋める様に表示されている武器の山が表している。
とにかくあらゆる性能を犠牲にして、武器を詰め込んでいるのがこの機体のコンセプトだ。
「そんな沢山の武器使いこなせるのか?」
「あぁ、無理だね」
昨日この機体を見てから色々研究したが、武器を切り替えて戦うのは現実的ではなかった。余りにも武器が多すぎるため、相手の行動に合わせて武器を選択するなんて操作は不可能に近い。
それなのになぜ複数の武器があるのか。その理由は武器の組み合わせを見てすぐに明確になったので、今はそれに向けて準備を整えていく。
使用する武器は最初の武器であるグラビティブラスターのみだ。それを『ういんた』の動きに合わせて1発ずつ打ち込んで牽制していく。
グラビティブラスターは、重力空間を射出する武器だ。と言っても、重力で押し潰すようなものではなく、せいぜい動きを鈍らせる程度の効果しかない。
威力の低い攻撃であるぶん効果範囲は広いが、必中攻撃でない以上は『ういんた』の回避能力を超えることはできず、1発も捉えることすらできていない。むしろ、回避しながら行われる反撃が正確であるがために、こちらの方が追い込まれている状況だ。
しかし、それでも愚直にグラビティブラスターを打ち続ける。後ろにいる黒田からはどことなく不満そうな雰囲気が伝わってくるが、黙っているところをみるとそれだけでは終わらないはずとどこか期待しているのかもしれない。
そして、その期待に応えるかのように絶好の機会が回ってきた。
「きた! そろそろ仕掛けるよ」
グラビティブラスターを撃つこと十数回、大きく回避していた『ういんた』が、スレスレで回避して『オロチ』へ接近してくるようになった。
警戒していた動きを止めて一気に勝負を決める動きへと切り替えたのだろう。そしてこのタイミングにおいて、『ういんた』との位置関係も目標通りな状況になっている。
『ういんた』が差し掛かった1本道、そこへ進行方向を塞ぐようにグラビティブラスター撃つ。当然その程度の不意打ちが『ういんた』に通用するわけがなく、重力空間をスレスレで飛び越えるような動きに変化する。
だがそれが狙いであり、そこに罠が存在している。通常、どんなに調整しても1発撃つ度にクールタイムが入るはずのグラビティブラスターで、2発目を1発目の上に重ねる。素人ではそういう武器だと認識するかもしれないが、ギルガンの武器の仕様を把握している長谷川さんにとっては想像の範囲外だろう。
そんな仕様外の現象が起きているのは『オロチ』の特性によるものだ。ギルガンでは第一段階と第二段階で武器の形状や特性がガラリと変わるが、データ上は1つの武器に過ぎない。
そんな武器を第一段階も第二段階もない『オロチ』が装備した場合どのように扱われるかというと、何故かそれぞれの特性が混ざるという結果になる。この結果はもしかするとバグなのかもしれないが、とりあえずグラビティブラスターであれば威力が皆無となる代わりに2連射ができるようになる。
「あー。惜しい! 今絶対当たってたよね」
隠していた特性ではあるが、それが必中攻撃でなければ躱してしまうのが長谷川さんだ。ジャンプキャンセルを行ない、即座にバックステップでその場を離れる。
だが、その動きは知っている。元々罠は一段構えではなく、この場所でバックステップを行なうように誘導するのを目的としていた。
その策略通り、『ういんた』がバックステップした先の細い通路、そこから桃色の影が飛び出し『ういんた』へ掴みかかる。
「やった。捕まえた!」
『ういんた』を捕まえたのは、隣の筐体で一緒に長谷川さんと対戦していた桜庭さんの機体だ。過去にも桜庭さんが何度か捕まえることに成功していた状況を分析し、この結果に繋がるように仕向けたのがこれまでの一連の流れになる。




