68話 『魔石』 (2010年6月7日 714回目)
スライムが参戦してからの対策で何をすれば良いかは直ぐに明確になった。
それが魔物を倒した後に落とす魔石、その収集だ。魔石は協会にしてみればほんの3日しか研究する余地がないが、僕が独自に調べた限りは魔物の要素は無く、只のエネルギー源となる物質だ。
魔核はビー玉として遊ぶ以外に使用方法はなかったが、魔石は消費することで『修正パッチ』のような現象を起こすことが可能だ。魔石の種類としては6種類あり、色の違いによって起こせる現象の違いはあるが、同じ色であれば大きさの違いしか差違はない。
効率的な使い方はこれからの研究次第といったところだが、僕にとっては1つの使い方が判っていればそれで十分だ。
「問題は、食料が枯渇した後どうするかか……」
魔石の使い方、それは『暴食スライム』のおやつだ。スライムは、魔物を捕食すると負荷が掛かるらしいが、魔石を捕食するぶんには問題がないらしい。アルが言うには、バグらない性質と魔物を食べてバグるという要素の矛盾が負荷を引き起こすらしい。
そして魔石は『修正パッチ』と同じ方向性のエネルギーなようで、負荷を掛けずに捕食すればする程スライムの能力が強化されていった。
尚、例外はあるがスライムが捕食してしまうと、そのエネルギーが魔物に戻らないためか繰り返しても魔石の元の魔物は復活しなくなる。
そのため、この繰り返し世界では魔石の数は限られており、その入手について限界を迎えようとしている。
魔石の入手場所は主に3つある。
まずは協会の支部。支部で蓄えていた魔核が魔物に変化し、討伐すると魔石になる。この現象は初めは世界の改変が行なわれた6日に起きたが、繰り返し後は繰り返し時点で発生する。
その結果魔石は協会の所有となるので、入手方法は協会との交渉だ。全ての事情を話して融通して貰おうともしたが、流石に世界の改変を経験していない片岡さんに完全に信じて貰うのは難があった。
そのため、真っ当な方法として高乃宮家で研究を手伝う体裁が都合が良く、これで全体の10パーセント程の魔石が手に入る。当然それで十分ではないので、周回する度に実施していた結果、30周程経過した今では全体の95パーセントを越える魔石を入手済だ。
2つ目は、6日に公園で起きる魔物の大量発生であるが、こちらは協会より先回りできるので最初の周回で回収済だ。
そして、最後の1つがバグモンスター――バグトレントと『フォレストゴーレム』だ。こいつらは、魔石をスライムに捕食させても何故か復活していたので、永遠に入手できるかと思っていたが、『フォレストゴーレム』は10周程前から、バグトレントは今回から復活しなくなった。
恐らく、復活していたのは『増殖』の効果のようにただ単純に複数の命が重なっていたためで、それが尽きたため復活しなくなったという話だろう。『次元スライム』に身体ごと捕食されていた『フォレストゴーレム』が復活していたが、それも同じ原理によるものだと思われる。
「なぁ、慧。今日こそ姉御にリベンジに行かないか?」
黒田からいつも通りの誘いが来る。学校に来ているのは、雨宮先輩の言葉が新たな発見に繋がったように、第三者が居る場に入ることで新たな発見に気付きやすくするためだ。
「そうだね。久しぶりに行ってみようかな?」
「久しぶりって言う程か? とりあえず、良いコンボを考えて徹夜で練習して来たんだ。1ラウンドくらいは取るつもりだ」
既に記憶が定かではなくなっているが、確かに繰り返しが始まる1週間前にもゲームセンターに行っていた。『次元スライム』への対策を考えるのに集中するあまり、周囲への注意力が落ちてきているようでまずい。
「ねえ、それなんだけど……私も行って良い?」
「お? 別に構わないがギルガンだぞ? 前に教えた時はもうやらないって言ってただろ」
「密かに練習してた。あなたには勝てないかもしれないけど高乃宮には勝ちたい」
桜庭さんが合流する以前と同じ経緯を辿るが、これは僕が体育の授業で不用意に3ポイントシュートを決めてしまったことに起因する。
これも『次元スライム』への対策で頭が一杯でしでかしてしまったミスだ。とは言え、別にこのミスが何か問題になるものではない。単純に暫くクラスメートの注目を浴びるのを回避し損ねたというだけの話でしかない。
桜庭さんが参加するパターンは更に経験がないので、もしかすると、新たな発見に繋がるトリガーを見つけることができるかもしれない。
「ふーん。そういうものなのね。……ということは、じゃあ、私の勝ちでいいってことかな!? 大丈夫よね? あー、良かった。うん、もういっそ、大食い勝負でもと思ったけど、すっきりしたから帰るね!」
「これあげる」という言葉と「じゃあ、また明日学校で!」という言葉を残して桜庭さんが去っていく。
結局、桜庭さんが参加しても以前と何一つ変わることなくただ長谷川さんに蹂躙されるだけだった。だが、その状況に対して1つの発見をしたのが収穫でもある。
「あんなに異常だったなんて」
異常を再認識したのは、長谷川さんの回避能力だ。ずっと人間離れしているとは思っていたが、ゲームとは言えあれだけ回避できるのは人間の能力を超えている。
その異常さは先生程ではないにしても、黒田よりも強い異常さを感じる。そこから想像する結論としては、能力の大小こそあれ1つしか考えられない。
「潜りのデバッガーなんだろうな。それも最上位の」
この世界で人間が異常性を出すのは『修正パッチ』があれば可能だ。そして『修正パッチ』を合法的に使用するには協会に登録してβデバッガーになる必要がある。
だが、黒田が姉御と慕ってこそいるが、それが協会のデバッガーに向けた態度には見えない。『フォレストゴーレム』や『次元スライム』との戦闘時にも姿を見せたことはないので、協会の規則に縛られていないのは確定だ。
未だ仮定の話となるが、もし黒田より強い能力を持っているのであれば、先生達と『次元スライム』の戦いの良い助っ人になるかもしれない。
ただし、潜りだとすれば協会にばれたくないだろうし、生半可な理由では協力してくれないだろう。




