65話 『仲間』 (2010年6月5日 684回目)
「それって何してるの?」
「これですか? 魔物の分析ですね。趣味でカードゲームを作っていまして」
雨宮先輩から必ず来る質問に以前と同じ返答を行う。
同じ返答だからといって、別に嘘を言って誤魔化しているわけではなく、説明した通りデババトのカードを並べながら魔物の分析を行なっている。
その分析作業は新しく『修正パッチ』を得るためではあるが、わざわざ天文部の合宿に参加しているのは、これまで何周か行なった日課であるため集中できるというただそれだけの理由だ。
一応、別の理由をあげるのであれば、僕だけが部屋でのうのうと休むのが忍びないという側面もある。
何故なら、先生は僕の家の工事現場で今現在も『次元スライム』と戦っているためだ。その戦闘は比喩でも冗談でもなく、文字通り3日3晩続く。
その期間、先生は食事、睡眠、休憩、その他諸々の人間としての行動すら行なっていないが、それらは全てレベルでなんとかなってしまうらしい。
ダンジョンの入口の岩周辺がその戦場であるが、あの辺りは認識阻害の範囲外であるため、工事現場の作業員に気付かれることもない。その裏では絶えず先生が戦い続けている。
「へー。これがそのカード? 良くできてるね。もしかして商品化するの?」
「そうですね。近いうちに出るかもしれません」
雨宮先輩の言葉は何も変化していないが、ここ数周で変わったことは多い。
まず、協会のβデバッガー。『次元スライム』にやられて未帰還者になった者は次の周回で普通に復活していたが、時間稼ぎで『次元スライム』に喰わせた『修正パッチ』、それらは戻ることはなかった。結果論から言えば時間稼ぎは悪手であったことになるが、一般市民を守ろうとする協会にとってみれば、無抵抗でスルーするのが最善なんて判っていたとしても選べる選択肢ではない。
そして、その『次元スライム』。その行動が著しく変化していた。地下のダンジョンを発見した際に、先生が先行して襲撃する計画であったが、その必要性はなくなっている。その理由は、『次元スライム』の方から地上に現れるからだ。恐らく、自分の方が先生より優位であるとみて、畳み込んできているものと思われる。
「あ、こっちは『ハヤト』だね。デバッガーカードなんてのも有るんだ。でも、私は絶対防御の『ハヤト』より、絶対回避の『ミフユ』の方が好きかなー。あ、でもやっぱり雷水の魔女も捨てがたい」
今までなかった会話であったが、現在の状況の整理目的で先生のカードを机の中心に置いていたが為に、今回雨宮先輩の目に止まったらしい。
一応、デバッガーカードは上手く調整できていなかったが、先生と会うことで一気に仕様が固まってきている。現在の状況が無事解決したら是非仕様に盛り込みたいところではある。
「雨宮先輩、αデバッガーにβデバッガーが追い付くにはどうすれば良いと思います?」
どうやら雨宮先輩はαデバッガーに詳しいようなので、何か良い切っ掛けになればと思い質問してみた。
この質問は今僕が置かれている状況そのものだ。先生と『次元スライム』が異次元の戦闘に入ることで、僕は完全に戦力外通告されてしまった。今僕が先生のサポートをしても、かえって邪魔にしかならない。今後、何をすれば先生の役に立てるのか模索を繰り返している。
尚、これまで色々相談に乗って貰っていたアルは今いない。それは、今回から先生のサポートに入っているためだ。僕では力不足であるが、アルの場合はその限りではなく、更に狙われて先生の足を引っ張ることを考える必要もない。最も適している役割だろう。
そもそもアルがサポートに入らないといけなくなった理由は、『次元スライム』周回毎に強くなっているからだ。その原因は幾つか考えられる。
1つ目。地下のダンジョンには繰り返し直後は魔物が沢山復活している筈だ。以前に捕食された魔物はどうか判らないが、少なくとも魔核が残っていた魔物は確実に復活している。そいつらを捕食してから地上に現れているものと思われる。
2つ目。『次元スライム』が学習している。先生の行動にも癖のようなものがあるのだろう。そういった隙を探す行動を見せるようになっている。アルがサポートに回ったのも、このような隙を防ぐ目的が強い。
3つ目。『次元スライム』のバグり方が周回を重ねるに連れて加速度的に進行している。1つ目の原因に依るものに過ぎない可能性もあるが、アルが言うにはダンジョンコアの掌握が進んでいるのではとのことだ。
「んー、それなら数でなんとかしないといけないかな。やっぱりパッチの質では勝てないんだから、相性の良いパッチを探したり、仲間を増やしたりね」
レベルシステムが有るとは言え、魔物を倒す機会のない先生の強さは周回しても変化しない。そのレベルアップの機会を奪う目的で向こうから襲撃してきたのであろうが、その試みは実際成功している。
そのため、周回を重ねる毎に先生と『次元スライム』との実力差が生じてしまうので、その差をなんとかできないかと行き着いたところが魔物の分析だった。
当然、雨宮先輩が言うように使い勝手の良い『修正パッチ』を探す目的であったが、確かにもう1つのシンプルな方法については完全に思考から抜けていた。
「仲間……仲間かー」
僕自身が『修正パッチ』を取り込めるようになり半無限に強化できるようになったこと、それに黒田や鈴原さんを一度未帰還者にしてしまった罪悪感が重なり、個人での対応を前提として物事を考えるようになってしまっていた。
例え黒田や鈴原さんであっても、今の先生と『次元スライム』との戦いに関与するのは無謀であるのは間違いない。だが、一概に切って捨てる必要は全くなく、黒田や鈴原さん個人で駄目なら、協会全てを巻き込んで相談してみるのは悪くない考えかもしれない。
「ありがとうございます、雨宮先輩。少し試してみようと思います」
「役に立ったみたいで良かったよー。私も商品化したらやってみるね」
雨宮先輩はカードゲームの仕様の話だと思っているみたいだが、第三者の助言は助かった。感謝の意味でいち早く商品化させてあげるためにも、まずは現状を動かす行動をしてみなければならない。




