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64話 『防衛』

「……凄い」


 戦闘の開始前に黒田には黙って見ていろと言ったものの、その光景を見続けていると僕自信も唖然としてしまった。

 まず『次元スライム』、こいつの攻撃は異常だ。1本の触手が地面を叩くと、ズガガガガと複数の爆音が響き渡る。バグって1回の攻撃に複数回の命中判定がある証だ。

 それが十数本、もしくは数十本に至るその触手が、『次元スライム』の前方を縦横無尽に飛び交っている。

 だが、その先から聞こえてくるのはガキキキキキンという何かを連続で弾く音だ。

 当然そこに居るのは先生だ。『次元スライム』に対峙してから数十分。『次元スライム』のあらゆる攻撃を全て(・・)弾いている。


「これがステータスボードバグ。ここまで圧倒的だったなんて」


『いや、完全に押されているな』


 アルが僕と正反対の感想を述べている。アルの声はアミュレットに触れたものにしか聴こえないので、会話を始めると僕が独り言を呟いているように見えるが、幸いにして周りには誰も居ない。

 黒田も先生の防衛力が完璧であることを見届けた後は、倒れたβデバッガーの治療を行っている鈴原さんのサポートに向かっている。


「あれだけ完璧に防いでいるのに押されている? もしかして手助けした方が良さそうなのか?」


『その必要はない。防戦だけならリミットまでどころか3日3晩続けても持つだろうて』


 青い方のスライム――『暴食スライム』との戦闘では確かに先生は回避もしていたし攻撃もしていた。それが確かに攻撃を弾く動作一辺倒だ。

 攻撃についてはただ殴るだけであったが、その威力は人間の域を遥かに超えていたので、今の『次元スライム』にも効果はあるように思われる。どうやら、その攻撃をする余裕がない程には追い込まれているらしい。


『レベルが足りぬのであろうな。今は大丈夫でも周回を重ねるとどこかで破綻するやもしれぬ』


「レベル? やっぱりそれって……」


 レベルシステム――それは、α時代が開始すると共に世界に提供されたものだが、希望ではなく絶望をもたらしたシステムだ。

 それもそのはず、初めから魔物のレベルが高レベルであり、人間のレベルが1――むしろ、0であったためだ。RPGで、始まりの町の周辺に最終ダンジョンのモンスターがひしめき合っているようなものだ。バグ以前にゲームとしては終わっている。

 だが、そこからどうやってか魔物を倒してレベルを上げ、対抗していったのがαデバッガーだ。その中でも先生は当時の『暴食スライム』を倒し、最終的にレベルシステムを破壊したという話だ。


『ケイ、お主先程言うとったな。あやつは何で攻撃を防いでおる?』


「え? ステータスボードってことかな。でも、色や形状が異なるような……」


 ステータスボードはその名の通り白いタブレット状の板だ。そして先生が扱っているものは、液体金属のように自由に形状変化しているが、その基本は青いルービックキューブのような立方体だ。

 仮にステータスボードにしても、それは主にレベルによるステータスを確認するものであり、レベルシステムと共に消失しているはずである。


『それはそうだ。昨日も説明したであろう、あれがコアだ。あのコアはレベルというバグを管理しておる。レベルシステムは消失したのではなく、あやつが独占したため他から失われただけよ』


 アルの説明は常識を覆す話であるが、とても納得がいく内容だ。先生の異常さはその身体能力の異常な強さにある。つまり、レベルがあるなら当然ステータスもあり、その数値によって身体能力が強化されるのは当たり前だ。

 ダンジョンコアの説明時も、特殊な表現をしていたが、それは自分が所持していたコアの特性も絡めて話をしたからだろう。


「でも、それだとおかしくないか? あのバグスライム――『次元スライム』もレベルを持っていることになりそうだけど」


 レベルが不足なんて言葉があったように、先生のレベルが99や100でカンストして成長が止まっていることはないだろう。そんな限界突破している存在と肩を並べるのであれば、似たような能力を持っていなければおかしい。


『次元スライムという魔物はだな。その名の示すように次元を跨いで存在する魔物よ』


 アルの話しぶりによると、どうやらレベルとは違う何かがあるようだ。ただ、まだ全く全容が掴めていないので黙って続きを聞くことにする。


『そいつに遭遇した場合、その姿は存在が幾重にも重なり合う、そして暫くすると消失する。消失する理由は時間軸ではない軸に進むからであろうな』


 魔物が消えるなんて話は聞いたことはないが、姿が重なって見える魔物に関して言えば1つの言葉をよく知っている。


「……バグモンスター」


『その通りだ。あやつはそれが無限に重なり続ける。言わばバグモンスターの王のようなものだ』


 先生に匹敵する程の強さの理由は判った。

 また、元々次元を超える能力を持っているのであれば、僕のように繰り返しが発生しても意識を継続するのは普通だろう。逆に、僕が繰り返し始めたのは『次元スライム』に触れたから……と考え始めたが、触れるだけで能力が移るのは少し無理がある気がする。

 そう言えば、あの『次元スライム』はここ――つまり、繰り返しダンジョンのコアを持っている筈だ。どちらかと言えば、『次元スライム』を攻撃した際に僕が偶然そのコアに触れたからと考えた方が可能性が高いような気がする。


「あれ? つまるところ、あの『次元スライム』は、結局自力で繰り返しているのか、ダンジョンコアの力で繰り返しているのかどっちなんだ?」


『くくく、我が気づいたのもそれよ。どうにも、似たような能力であるが為に変に干渉しておる。無限に存在が重なるが故に、ある意味無敵なあやつが、ダンジョンの効果で分断されてあんなに弱体化しておるではないか。今なら討伐も可能だろう』


 同じ王としての立場からか、相手が弱っているのを知ってアルが喜んでいる。少々趣味が悪いと感じはするが、あれで弱っていると表現されるのであれば、元はどれ程のものだというのだろうか。

 少なくとも討伐可能という言葉だけは信じたいところだ。

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