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50話 『支部』

 ガラス張りで3階建ての建物――ここがデバッグ協会の支部だ。警察署のような庇のある玄関を潜ると、そこには複数の相談カウンターが並んでいる。

 役所ではよくあるシステムであるが、今日は平日でありながらいつもより混み合っている。どうやらだいぶ待つ必要がありそうだが、帰る選択肢はないので受付に向かう。


「どういったご用件でしょう……あれ? 慧くんじゃない?」


「こんにちは、木村さん。少し、相談……というより質問したいことがありまして」


 木村さんは20台前半くらいに見えるが、これでも小学生の子供が居る程の人物だ。若く見えると言えば長谷川さんも似たようなものだし、何か美容系のコツでも流行っているのかもしれない。


「そっか、優先してあげたいけど今は慌ただしいから順番待ちしてね。はい、整理券」


「大丈夫です。ゆっくり待ちます」

 

 今まで何周も繰り返しているため、この支部に居る人はほとんど知っている。そのほとんどは当然ながら僕からの一方通行の認識ではあるが、子供の頃から何度か爺さんに連れられて来ているので、何人かは元々の知り合いだ。木村さんもその範囲に入る。

 受付から離れて椅子に座るが、そう言えばここに座ったのは久しぶりだ。今までの周回でもこの支部へ何度も来ているが、その時は大抵黒田が居たので受付はスルーだった。

 そう考えると黒田を巻き込んだ方が早かったとは思うが、できる限り巻き込むのを避ける方針はまだ継続中だ。そもそも受付が回らない程に支部が慌ただしいのも、言ってみれば僕にも責任の一端はあるので、気長に待つことにする。


 協会の本部は繰り返し範囲外に存在するため、範囲内の問題事は全てこの支部へ集中している。そして昨日の夜は丁度魔物が大量発生した時期でもある。

 魔物の発生は公園内という人通りが少ないところであるし、協会も迅速に対応するので人的被害は無いが、一部の近隣住民には物的被害がそれなりに出るらしい。その被害報告なり補助金の相談等に来る人は多くなっている。

 そして公園での討伐において、スライムに『修正パッチ』を喰われたβデバッガーが戦力外になっているため、そのぶん被害が大きめになっている。また『修正パッチ』が使えなくなった原因も不明(・・)であるため、調査や会議等にも人員が取られているものと思われる。

 この辺りが僕の責任の範疇だ。繰り返しから抜け出すことができたら、その責任は果たしていきたいと考えている。



 時間にして小一時間程経過し、ついに中央に設置されている大型のモニタに持っていた整理券番号が表示された。その番号の横に表示されたカウンターに向かうと、そこには先程見た顔があった。


「あれ? 木村さん。さっきまで受付してませんでした?」


「あら、慧くん。私のところに来たのね。今日は特に手が回ってなくて……こっちの端末を操作できる人は限られるから交代でね。受付の方はあの子が助っ人に入ってくれたから助かるわ」


 木村さんに言われて受付を見てみると、小さな影――村本くんが必死に案内をしていた。本来は戦闘員としてのβデバッガーであるが、学校帰りに協会の手伝いもしているらしい。


「うちの子もあれだけ健気だといいんだけど……。さて、相談事でしたね」


 木村さんはポンと手を叩いて仕事モードへと切り替わったので、僕も本題に入ることにする。


「はい。ちょっと伺っていいか不明なのですが、学校の行事で今日の演習が中止になった理由が知りたくて」


「慧くんの学校と言えば、颯川(はやてがわ)高校ですよね。それだと――――あぁ、単純に人員不足だったからですね。今日の午前中まで厳戒態勢だったから」


 木村さんが軽く端末を叩いて確認すると呆気なく答えが返ってきた。その様子から特別秘密な事情があるわけでもなさそうだ。そして、本来気になっているのは中止された理由ではなく再開(・・)された理由の方だ。


「その厳戒態勢は解除されたんですね」


「えぇ、今日の昼に支部長が急にやって来てね。そう言えば開始する時も支部長が急に実施してきたかな。いいわよね、あの仕事スタイル。羨ましいわ」


 世間話的な扱いなのか、木村さんから仕事モードが抜けている。この調子なら律儀に待たなくても受付での立ち話で相談すれば結論が出ていたかもしれない。

 とりあえず、支部長というのは豪快さが服を着て歩いているような印象の片岡さんという人物だ。黒田のエスコートで受付をスルーする場合にも案内される人物でもある。


「何が原因なんですか?」


「それが判らないのよね。あの人のコネクションは膨大過ぎて把握できている人は居ないんじゃないかな」


 なるほど。厳戒態勢なんて重い響きの言葉の割に世間話並に軽く話されたのは、誰もそもそもの要因を知らない為だ。おそらく厳戒態勢では警戒や待機のような対応を行ったが特別緊急的な事象は起きず、そのまま不意に解放された感覚なのだろう。


「じゃあ、片岡さんに会うことはできますか?」


「片岡さんに? あぁ、そっか確かにね。えと、少しお待ちくださいね。――――あ、今日は颯川高校ですね。それこそ明日の演習の調整をしていたみたいですよ」


「あぁ……となると完全に行き違いしてますね。仕方ないので学校に戻ってみます。ありがとうございました」


 演習の中止は協会の都合と聞いていたので、つい真っ直ぐ協会に来てしまったが、確かに学校側で事情を確認してみてから来るべきだった。

 結構時間が経ってしまっているが、片岡さんがまだ学校に残っていることを期待して学校へ戻ることにする。

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