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40話 『期待』 (2010年6月7日 389回目)

(とおる)! トドメ!」


「はい! 行きます」


 黒田の剣の斬激で地面に倒れた『フォレストゴーレム』の頭部に、追い討ちとして村本くんの放った矢が突き刺さった。


『ギギ……ギギ……ギ』


 決定的な一撃が決まり、村本くんは安堵したのか警戒を緩めた。だが気を抜くのは早すぎる。最後の力とばかりに『フォレストゴーレム』の3本目の腕が紫色に光り、風の刃が村本くんへ襲いかかっていく。


「馬鹿、余所見すんな」


 抜かりなく斜線上に入った黒田が歪に曲がった長剣を盾代わりに構えるが、風の刃はそこに当たることなく跳ね返って『フォレストゴーレム』を切り刻んだ。

 それが決定打となり、『フォレストゴーレム』の姿が崩壊して消滅した。


「すみません。茂さん、慧さん」


 律儀にも村本くんが深くお辞儀をし、さらりとした髪が重力に引かれて垂れ下がる。

 最後に油断したようだが、この村本くんは1周前の地獄もしっかりと生き残った猛者だ。礼儀正しさも備わっているので、将来的には協会を支える人材になることだろう。


「気の張り方、後は威力が課題だな。慧、最後はすまんな」


「問題ないよ。しっかり見えてたしね」


 今回は『動体視力向上』を使っていたので、タイミングを計るのは容易だった。そして最後の一撃として使用したのは『反射』だ。つまり『修正パッチ』を使用しながら別の『修正パッチ』を使用したことになる。ちなみに、更に『増殖』を重ねて使用することも可能だ。

 これができるβデバッガーはマルチスキル持ちと言われ珍しいらしいが、僕はそれとは少し異なる。

 マルチスキル持ちのβデバッガーは、もれなく複数個の『修正パッチ』を同時に使用できる『修正パッチ』を持っていることが必須条件となっているが、僕はそれに該当しない。

 僕が自由に使える『修正パッチ』はあくまでも1つだけであり、別の『修正パッチ』がないまま『反射』と『増殖』がいつでも使用できるようになったのが実状となる。

 この2つのスキルに関して言えば『解除』も効かないので、既に『修正パッチ』であるのかも怪しい状態だ。尚、黒田に状況を説明する際に『増殖』の『修正パッチ』が無いことに気づいた時は焦ったものだが、黒田と疑問を共有して色々検証した結果、前の周回で使用できるようになった『反射』と同じように『増殖』も使用できるようになった。


「しかし、『暴食スライム』だったか? あいつは出なかったな。せめて剣だけは取り返しておきたかったが」


 黒田が言う剣というのは、黒田がいつも使っていた黒い大剣のことだ。効果を聞いてみたところによると、とにかく硬く、頑丈で、重い、というシンプルな特徴らしいが、変な効果があるよりよっぽど使いやすいようだ。

 今使っている歪に捻れている剣はサブ武器とのことだが、その姿は見る限り禍々しい。黒い刀身に所々に尖った突起そこに赤い血管のような筋が入っている。どうにも実際に血を代償にすることで切れ味を増す効果の魔剣だと言っていたが、呪剣の類いに見えて仕方がない。

 黒田の大剣――未知の素材であり、その強度から正式にはアダマンタイトソードと協会では名付けたらしいが、それを失ったのは今回ではなく2周前だ。

 バグっていない『暴食スライム』と倉庫で対峙した際、僕の部屋に転移して逃げた時点で無くなっていた。倉庫に取り残されたと考えるのが正確だが、それが繰り返し後に戻らなかったとすると、『ネクロ』と同じように『暴食スライム』に喰われたということだろう。

 道具でさえ捕食してしまうとは思っていなかったが、現象からほぼ間違いないだろう。


「となると、今回はもう手助けできることはなさそうだ。次回は一美が居るだろうからよろしく言っといてくれ……いや、その時は俺も居るのか? わけわかんねーな」


 黒田の言う通り、次回はβデバッガーが全員揃うものと思っている。少なくとも『増殖』の効果を失った人物が戻ってくるのは、先程戦闘していた黒田や前衛組で証明されている。

 未帰還者はどうなるのかは疑問が残るが、『増殖』が使用出来た時点で未来の存在が保障されているのではないだろうか。つまり、タイムパラドクスが起こることにより、逆説的に繰り返しで復活することが証明されてしまうように感じる。

 一度未帰還者になったらアウトというのは、僕が悲観的に考えすぎた結果だという結論だ。次の周回から存在を借りているとするのは間違っていないはずだが、どうやら次の次の周回には影響がないらしい。

 この場合、連続的な存在になった僕だけは例外の可能性が高い。いつだったかは、僕が未帰還者になれば繰り返しから抜け出せるのではとも考えたこともあったが、鈴原さんや黒田、βデバッガー達の、身近な誰かが未帰還者になったと聞かされた時の悲観的な表情を見た後では、もうその可能性を考えることはできそうにない。

 結果的に『増殖』を得ることによって死のリスクが増大したわけだが、代わりに得られたメリット――マルチスキル化は僕にとっては大きい収穫だ。

 黒田との検証の結果、以前の『修正パッチ』を使用できるようになるトリガは、白い板だった。周回後に初めて魔物を倒した際に改めて白い板が現れるが、そのタイミングから『増殖』が使用可能になっていた。βデバッガーとして多重に登録されるので、使用できる『修正パッチ』も複数になるのは道理としては正しい気がする。

 多重に使えるようになったのが『反射』と『増殖』というある意味特殊な『修正パッチ』なので確証は持てないが、この調子で行けば何重にでも『修正パッチ』を使用できるようになるかもしれない。

 もしそうであれば、周回を重ねることでこれまで任せっきりだった黒田と肩を並べ、『暴食スライム』とも真っ向から張り合えるようになれるかもしれない。

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