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32話 『巨岩』

 約10メートル四方の謎の閉鎖区画。その周囲は目算で3メートル程の高さの鉄板で四方が囲われている。一方からでは判らないが、どの方向にも入り口は存在せず、完全に閉鎖されている。

 この状態は誰かがわざわざ隔離したわけではなく、単に認識阻害が働いた結果、意図せずもたらされた状態だと考えている。

 この囲いは工事を行う際に他の人が入ってこないように、工事の影響が外部(・・)に生じないように設置するものだ。つまり、認識阻害により工事範囲の外部と認識されたために、工事の一環で設置されたものと考えている。実際、鉄板の支え等は閉鎖区画の外側――こちら側に設置されている。

 そんな閉鎖空間の内側に入る方法はとてもシンプルだ。別に密閉されているわけでもないので、囲いを乗り越えてしまえば良い。意外と道のりには難があったが、その為の道具は持ってきている。

 2つ折りのそれを広げて壁に立て掛けると、丁度鉄板を少しはみ出る程度の長さに収まった。後は、倒れないように注意しながらこの脚立を登るだけだ。

 胸ポケットに入れたスマホが光源となっているが、脚立の足場までは上手く照らされてはいないので1段ずつ慎重に登っていく。この先にどんな光景が広がっているのか、それを考えながら最後の1段を登ったが、その初見の感想はただの闇だった。暗くてほとんど何も見えなかった。


「そりゃ、そうだよね」


 これは当然の結果であり無意識ながら予測はついていたので、特別がっかりすることもない。冷静に次の行動としてスマホを胸ポケットから取り出し、ライトを内側に向けて照らし出した。


「あれは……岩、としか言えないな」


 そこにうっすらと現れたのは難の変哲もない巨大な岩だ。人の手が入ったような形跡もなく、ただただ自然物として中央付近に鎮座している。他にも周りに小さな岩は映るが、場所と大きさ的にあの岩が目的の何か(・・)だと考えて良いだろう。

 ここからは少し離れているので、実際にあの岩に何があるのかは判らない。高さ的にはこの鉄板と同じくらい――3メートルくらいはありそうであり、横幅も同じくらいだ。その様子には何か違和感は感じるものの、見た目には唯の岩であり、これ以上は近づいて調べる必要があるだろう。


「よっ、と」


 一度鉄板の縁に手を掛けてぶら下がると、掛け声とともに囲いの内側に着地した。後は、あの岩に向けて歩くだけだ。

 半円型で下半分が地面にめり込んだような形状だが、これだけの大きさの岩がいったいどこから来たのだろうか。バグの大元と考えるのであれば元々あったとは考えにくい。バグ絡みであれば少なくとも10年前以降に生じたものだろう。

 隕石や落石の類いであればこうも綺麗に埋まってはいないだろうし、クレーターや岩の破片(・・)が辺りに飛び散っているべきだろう。

 周りの小さな岩は破片とは言えそうにない。大きさ的には大きくても30センチ程度の小岩であり、巨岩の周りに集中しているので、巨岩の派生物と考えたいところだが、そのどれもが半分程地面に埋まっている。後から土が堆積したのかもしれないが、どうにも不自然だ。

 中途半端な規則性があるせいで、それが自然にそうなったとも、人工的にそうしたとも断定できそうにない。案外、魔物のように黒い靄から突然出現したのかもしれない。

 岩自体がバグであるとするのは流石にないかなと思っていたが、巨大な岩に近づくことで、岩がバグである可能性が高まってきた。それは最初に感じた違和感、その理由が判明したからだ。


「なんだろ、あれ。裏側か……?」


 あまりに異常な現象が起きているのは判明したが、その現象が発生しているのはこちら側ではなく、おおよそ反対側だ。

 感じた違和感――それは左側だけやけに岩の輪郭が見えづらいなと思ったことだ。夜の暗闇で光が上手く当たらなかった結果かと思っていたが、少なくとも夜の(・・)ものではなかった。

 別に輪郭が闇に紛れて見えづらいのではなく、そもそも輪郭が無かった。もっと言うならば輪郭を示すはずの岩が、もやもやとした闇に変わっている。

 今は左側の岩の輪郭だけだが、左方向に回り込むことにより、段々とその幅が広がっていく。その広がり方は面ではなく輪だ。つまり、巨大な岩に穴が開いている。穴であるということはその穴の中に繰り返しの根元足る何かがあると考えるのが自然だろう。

 穴が開いているということは、形状的にそれは地下に向かう通路か、祠のように御神体の類いが納められているかのどちらかだろう。

 そして、今見えるところではどちらとも言えない。むしろ、どちらでもなさそうと言うのが正しそうだ。地下に向かっていないので、強いて言えば後者の方が近そうだが、岩がくり貫かれているというよりは通路が真っ直ぐ延びており、まるでトンネルのようだ。

 ただし反対方面から回ってきたので、トンネルのように突き抜けていないことは断言できる。そして、それがただの行き止まりではなく、最奥に何かがあるのは既に見えている(・・・・・)

 最奥は見えていないが、その残滓が見える――つまり、灯りだ。巨大な岩に開いている穴、この闇に閉ざされた深夜であれば、更なる闇に包まれていておかしくない。その岩肌が仄かに見えている以上光源となる物質が確かにそこにあるはずだ。

 そんな予測も見てしまえば一目瞭然であり、丁度穴の正面に差し掛かったところだ。そして見事に不正解だった。


「バグ……か? …………あー、そうか、これがダンジョンなのか」


 穴の最も奥、そこには何も無かった。ただし、本来あるべき壁も無かった。その先は大きく広がっているようであり、その先から人工物のような光が漏れていた。そこが最も奥ではなく、まるで何かの入り口であるかのように。

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