29話 『魔物』 (2010年6月5日 387回目)
「で、ここにバグモンスターが発生するってのは、やっぱり占いか? それとも法則性でも見つけたか?」
「色々と情報網があるのさ」
過去のやり取りを繰り返すことで黒田からの追及を逃れる。こう返しておくと黒田は妙に納得する。恐らく高乃宮家の事情を邪推しているものと思われるが、好都合なので訂正はしない。
実際には前前回の周回で目撃し、前回の周回でこの時間――正午過ぎに発生することを確認している。発見したのは偶然であるが、経緯を考えると必然であったように思える。
ここは、学校の裏の森だ。このまま進むと1回目にバグスライムが現れた工場があるし、横道にそれると『フォレストゴーレム』が発生したスーパーマーケットにも向かうことができる。そしてスライムが消える前に向かう方向、その延長線上にこの森が存在している。バグスライムが潜伏するならここしかないという場所だ。
ここに発生するのは、『スライム』でもなければ『フォレストゴーレム』でもない。恐らくトレント系のバグモンスターだ。
初め、スライムは魔物が大量に発生した公園に向かったと思ったが、それは誤りで目的はこいつだろう。しかし、こいつは今日――5日時点でここに発生するので、何故6日の夕方まで待って移動するのかは逆に判らなくなっている。
「そろそろ着くよ。時間的にも丁度かな。……ほら、あの辺」
目的地は森の中ではあるが別に草木を切り分けて進んで来たわけではない。荒れてはいるが、車がギリギリ通れるような道幅の道路がある。この先には恐らく野菜か何かを栽培して生活していたと思われる一軒家がポツンと建っているため、元々その人のための生活道路だったのだろう。しかし既に生活感は薄れ、その荒れ果てた畑の一角に黒い靄が発生している。
「おー、流石慧くん。これは、協会から引っ張りだこですなー」
そこから出てきたのは通常の魔物ではなくバグモンスターだ。個人的には雑魚モンスターであることが望ましかったがこの際仕方がない。6日に姿を消す前のスライムと対峙するには、今日このタイミングで討伐してβデバッガーになる必要がある。
一応、他の魔物としてはスライムが捕食していたと思われる魔物がいるはずだが、いつ、どこで捕らえているのかは倉庫内のカメラの角度的に確認できていない。今回のバグモンスターがどうしようもなければ、危険を承知で接近して調べることも必要だが、まずはこのバグモンスターを討伐できるかを確認するのが先だ。
「お? なんだ、あいつは!? コボルト……ではないよな」
「んー、鉱物系かなー? 違うかも」
「あれ、僕は特徴的にトレントかと思ったけど、どうかな?」
コボルト――犬の顔をした2足歩行の魔物だ。確かに今発生したバグモンスターの頭頂部にそれっぽい顔がある。
鉱物系――これは石や宝石、鉄等の無機物がベースになっている動作原理が不明な魔物だ。『フォレストゴーレム』は木がベースになっているが、他のゴーレムはほぼこちらの分類になる。そして、オーブ状の物質が身体の中央辺りから枝葉を伸ばすように点在している。
そして、顔や意識のある植物系の魔物がトレントだ。トレントは意識こそあるが根が生えていて動けない。このバグモンスターは、木の質感こそないが地面に刺さっており、移動はできそうに見えない。
ただし、実際は他にも鳥の様な片方のみの翼、魚のエラのように開いたり閉じている少しグロテスクな部分、そして明らかなバグとして身体が透けていたり浮いていたりする部分すらある。
「いずれにせよバグりすぎだ。このレベルのやつは見たことなかったが、このバグり方なら脅威にならないな」
黒田が無造作に近づいていくが、『ゴゲゲグガ』と謎の奇声をあげるのみで攻撃してくるような気配はない。
黒田の言葉は元々僕の考えと一致する。このバグモンスター自体はバグの特性を打ち消しながらバグっているように見える。言わば、バグの悪いとこ取りの塊だ。
一応、魔物に関して見た目で判断するのは危険といわれているので、今回は黒田に来てもらったが、今回は見た目通りだったようだ。
「そうだねー。多分全く動けないんじゃないかなー。これじゃあ只の素材モンスターだよ」
当然地面に刺さっているので通常の移動はできない。腕の様な枝や翼は、先端にあるオーブ状の物質がが重いのかぐったりと垂れ下がっている。まして、ゴブリンのような顔はエラ呼吸による息苦しさか、常に苦悶の表情を浮かべている。
魔物とはいえ少し可哀想な気分が湧いてくるが、鈴原さんの言った意見は冗談抜きに、このバグモンスターの致命的な脅威であると考えている。
つまり、こいつを捕食した魔物はどれくらいバグるのか、ましてや丸飲みできるような魔物だったらその傾向は更に高まるだろう。例えば、捕食を生業にしているスライムで、かつ特別巨大な個体とかだ。
「とりあえず、慧。こいつなら適当に試して見て大丈夫だ。一美、慧のサポートよろしく」
「りょーかーい。んじゃ、『ネクロ・ブースター』」
鈴原さんの闇魔法により、地面に黒い何かが召喚された。前も見たことがあるが黒いヒトデのような形状だ。その輪郭は朧気に変化しており、闇でできた生き物という表現が適切だろう。
改めてよく見ると、中央に黒くない眼のようなものが付いているのを見つけたので顔を近づけてみると、唐突にそいつが顔を覆うようにに飛び付いてきた。
「うわっ! なにこれ。どうなって……あれ、消えた?」
「『ネクロ』だよ? 可愛いでしょー」
可愛いかは別として何が起きたかの方が聞きたい。
いきなり触感のないまま視界が奪われ、その闇が目の中に入ってくるような不思議な感覚を味わった。感覚的に僕の中に何かが侵入してきたような気がして気持ちが悪い。
「そいつはバフだな。『修正パッチ』の効果を高める魔法だ。色々持ってきたんだろ? 練習になるぜ」
黒田の言うように『修正パッチ』は梓のビー玉コレクションから回収して全て持ってきてある。どれも効果が薄そうだが、協会に登録する目的で用意したものだ。効果が薄い『修正パッチ』の場合は安全の為に登録の許可が降りないことがあるが、そこは数があったのでなんとかなった。
『修正パッチ』自体は黒田に依頼できた段階で用済みであったが、確かに掘り出し物がある可能性があるので試してみるのは良いかもしれない。
一応、繰り返し範囲に対する『修正パッチ』が強力そうなので試してみたかったが、まだ入手を試みずβデバッガーになる方を優先した。
恐らく強力ではあるだろうが、繰り返し絡みの『修正パッチ』は『反射』と同じように一周限定だと思っている。
もっとも、このバグモンスターを討伐すると6日にスライムが移動をしなくなり、以降の周回の行動に影響がでると思われる。そのため、バグモンスター討伐後は、『修正パッチ』の入手し、黒田と共にスライムと対峙するところまで実施するつもりだ。
今回の周回では久しぶりに忙しくなりそうだ。




