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28話 『監視』 (2010年6月6日 353回目)

「今回も動きは変わらないな……」


 部屋から防犯カメラにアクセスし、倉庫内のスライムを監視しているが、その行動には違いが見られない。ただし、細部では今までぶつからなかった棚にぶつかったりと微妙に差異はでている。

 その差異はバグスライムが記憶を持ち越しているある種の証拠でもあるが、基本的な行動が同じなのは正直意外だった。ある程度の知能がある認識でいたが、能動的に行動に変化を与える程ではなく、本能的な行動が優先される程度なのかもしれない。


「最初はこんなモンスターが家の近くにいるなんて、と思ったけど結構可愛く見えてきたかも。梓ちゃんもそう思わない?」


「うん、プルプルしてて可愛い」


 パソコンの前でスライムを監視しているのは僕だけではなく、柚葉さんと梓も一緒だ。この状況は毎回避けようとしているが、うまくいった試しがない。実際問題としてはスライムの行動は毎回同じであり危険になったことはないので、今はあまり気にしないようにしている。

 尚、2人が僕の部屋に入り浸るようになる流れは、『娯楽』基準の行動で実家にレトロゲームを捜しにいく場合と同じだ。実家に保管されている設置予定の防犯カメラを捜しにいく時に梓にみつかり、梓の好奇心に引きずられるように柚葉さんが参入してくる。


「実際危ないんから、近づいたりはしないでよ」


 確かに見た目は人畜無害な様子であるが、その本質を知っている僕にとっては警戒せざるを得ない。


「流石にそんなことしないわよ。もし近くに来たらバットで叩き潰してあげる」


「じゃ、私もそうする」


 柚葉さんが物騒な発言をするが、そういえば鈴原さんも似たような発言をしていた。最近の女子は逞しいのかもしれない。


「あ、慧君。移動したよ」


「そろそろだと思ってた。画像切り替えるよ」


 このスライムの行動としては6月6日の夕方――丁度今の時間である18時頃に移動を開始する。5日と6日はずっと倉庫周辺にいるが、今の時間になると何かに気付いたように移動し始め、どこかで消えてしまう。

 時間的には公園で魔物が大量に湧き出す時間だ。先行して湧いた魔物と思われる何かを捕食していることを考えると、エサ(・・)が大量に湧いたのを察知して捕食に向かったのかもしれない。

 スライムが消えた後の行方は現状掴めていないが、7日から工事現場の作業が再開するので、留まられても問題だったかもしれない。そして、その行方については今回で掴めるものと考えている。

 倉庫前の道路、従業員用の宿泊施設横、工事中の母家の中、温室、とスライムの移動経路に合わせてPCに映る映像を順次切り替えていく。

 実家に未設置の監視カメラを取りにいったのは、スライムの移動経路に合わせてカメラを追加していくためだ。周回を重ねる毎に設置場所を調整し、今回までの周回でスライムは裏庭の辺りでいなくなるのを掴んでいる。


「あ、止まったね。なに見てるんだろ? 鯉かな?」


 案の定その足取りは、裏庭で止まっていた。裏庭にあるのは建造中の日本庭園だ。仕事が一段落した時にゆっくりとお茶を呑むため、と爺さんがこだわり抜いた庭園であるが、今はその完成度は半分程度だ。片隅では錦鯉が泳いでいる池があるが、大池が工事中で、最終的にはその鯉の活動スペースは現在の3倍程になる予定だ。


「いや、どっちが前か分かりにくいけどそっちは見てなさそうだね。どこかと言えば……下?」


 スライムはなんとなくいつもより平べったく見える。見ようによっては地面にある何かを探して蹲っているように見えなくもない。そこにあるのは工事中の大池であって、特に何か珍しいものがあるわけではないのだが。


「やっぱり、何か可愛いかも……あれ? ちっちゃくなってない?」


「あ、消えちゃった」


 柚葉さんと梓が言ったように、2メートル程の巨体は段々と小さくなると、そのまま消えていなくなってしまった。その場所に何があるか、それを考えたところ1つの結論に行き着いた。


「……え? まさか、あの巨体で通れるのか?」


「あれ? 原因わかったの?」


「なんとなくね。とりあえずもう少ししたら確認しにいくから答え合わせはその後ね」


 これまでスライムが消えた後に戻ってきたことはなく、予想通りであれば既にそこには居ないだろう。念のために十数分ほど監視を続けたが、問題はなさそうなのでリビングと台所を抜けて玄関にまで出る。「行ってきます」と言って外に出ると辺りはすっかり暗くなっていた。監視カメラでは暗視モードに自動で切り替わるのであまり認識していなかった。

 僕の部屋は工事中の区画内にあるが、端の方なため道路沿いの街灯が届きそこまで暗くない。ただし、今向かう道筋は工事中の範囲かつ作業していないため薄暗い。空に浮かぶ満月が唯一の光源だ。

 とりあえず、スマホでライトを付けて倉庫に向けて歩いていく。倉庫は工事現場の中央付近に複数設置されている。この倉庫群は工事で新設したわけではなく、工事の前から元々あった建物らしい。この辺りの経緯は今まで全く(・・)気にしたことがなかったが、今度詳しく調べるつもりだ。


「こんな近くでも認識阻害されていたなんてね」


 見えるのは、倉庫の横で無造作にフェンスで覆われていて中が確認できない謎の空間だ。それはまるで壊そうとすると原因不明な事故が発生する祠のように、『工事ではそこには触れません』とでも宣言しているような様相だ。母家も何故かそこを避けるように建設している。

 その場所はスライムを発見する前に調べようとしていた範囲――時間が繰り返す範囲の丁度中央となっている。認識阻害が働いていたことよりバグがあるのは明らかであるが、中を見た瞬間に『修正パッチ』化する可能性があるので今は放置している。強力な『修正パッチ』を得るにはまだ準備ができていない。

 とりあえず謎のエリアはスルーし、スライムの通った軌跡を辿ると、特に何事もなく裏庭にたどり着いた。そして、スライムが消えた工事中の大池の隅を確認する。


「やっぱり、予想通りか……」


 そこにあったのは、定期的に池を清掃する際に水を除去する仕組み――要するに排水溝に繋がる20センチ程の穴があった。

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