十六夜に散る
しっとり系を書きたいなと思って書きました。これを思いついたのがもう少し早ければお月見に間に合ったのに…
ちなみにモチーフは竹取物語です。あくまでモチーフなので全く似てません。
へいらっしゃい
「こんばんわ。店主。今日は涼しいね。」
「日本酒一杯。あとおでんお任せのもお願い。」
はいよ。
「あ、店主、今日もなんか面白い話聞かせてれよ」
これまた随分久しぶりの無茶ぶりだな。そうだな、なんかあったかな。
おほん。
随分と昔の出来事だ。
あれは、今と同じくらいの時期。ちょうど秋頃だったかな。今ほど暑い秋ではないんだけれども。
そうだな、ここでは彼を春人と呼ぼうか。
春人はすごい奴だった。なんでもできた。運動も勉強も。おおよそ全ての分野で一番だっったんじゃないか。
彼と出会ったのは蝉が鳴いていた時期だ。確かミンミンゼミだったような気がするからかなり初夏だな。
その頃の俺には好きな女がいてな。冬子って言うんだ。
こいつがまた可愛い女でな。仕草が天然物なんだ。
「天然物?」
なんだおまえさん、疑ってんのか?俺は昔は人間不信ってやつが少しは入っていてね。それはもう熱心に人間観察をしたもんでね。
これでも人の悪意のあるなしは分かる方だったんだ。
大抵の人間の仕草が素なのかどうかくらいは分かったさ。いまのお前さん、最高に笑顔作ってんな。
「すんません。あ、おでんおわかり」
気にすんな。はいよ。
「ありがとうございます」
で、続きだな。冬子ってのが可愛くてな。まぁ、用事があればこれ幸いと話しかけてな。用事がなくとも何かしら用事を作って話をしたもんだ。
それでな、冬子に用事があってな。話しかけに行ったら見たことがないとんでもないイケメンが話しかけてるんだ。
その光景見てこりゃまいったと思ったもんだよ。一目見て春人ってわかったよ。有名だったからな。顔はあの時初めて見たが。同学年の連中はみんな嫉妬したもんだ。
しかも冬子、ちょっと嬉しそうに笑ってやがるんだ。幼馴染のくせに俺にもあんな顔を見せたことがないと来たもんだ。
そこから俺は必死だったさ。なんせライバル登場だからな。しかも学年一の超強力な奴だ。
だから、俺も冬子を笑わせるために色々と話のネタを考えたり、面白おかしく話を膨らませたりしたもんだ。
でもダメだった。俺にはあんなふうには笑わせられなかった。
癪だったが仕方ない。春人のやつに頭を下げに行ったんだ。
そしたら春人のやつ、俺を見て笑いやがるんだ。
今なら分かるんだけどな。
夏休みの間は春人と冬子と冬子の友達とで遊び回ったり図書館で勉強したりしたもんだ。やっぱあいつ頭よかったな。
夏の終わりに、花火大会に行ったんだよ。新潟の方だったな。大きい花火大会でな。
花火を見てるとな、
ふと、春人が言うんだよ。
[満月に俺は死ななきゃいけないんだ]って。
あれは俺にしか聞こえてなかった。
「え、女の子二人には聞こえないくらいの音量だったの?」
んにゃ、並び順が女の子が外で男が内側で女と男はお互い手を繋いでたな。
話に戻るぞ。
「あ、店主。ついでにがんもどきお願い」
はいよ。
それでな、満月に死ななきゃいけないなんて物騒な話じゃないか。
俺はそれ聞いた時、春人の方向いたんだよ。でもあいつスマした顔して花火見てんだ。
結局その日は聞けずじまいでな。それの回答は学校が始まって二人になった時に聞けたんだ。
[あぁ、ちゃんと聞こえてたんだ。]
[よかった。]
[聞こえてないかと思ったから。]
少しほっとしたような顔をしてたな。
[そうだよ、俺は月に殺されるんだ。]
それを聞いた時何言ってんだこいつって思ったんだけど、存外真面目な顔で言うんだ。
[信じられないだろ。みんなそう言うんだ。でも本当なんだよな。]
なぁ、お兄さん。周りの中でこいつすごいなって思ったやついないか。
春人は多分今思い浮かべた奴を三倍してもなお春人の方がすごいと断言できる。
[なぁ、自分でこんなこと言うのもあれなんだがな]
[俺ってなんでもできるだろ]
[これな、俺の力じゃないし、努力の賜物ってわけでもないんだ]
その言葉はすぐに嘘だって分かった。
あいつは学校の誰よりも努力をしていた。どんな人よりも。
[昔、満月を眺めてたら上から人が降って来たんだ。まるで月から降りてきたみたいに見えた]
[それで、言われたんだ。おまえの命はもうすぐ尽きるって。]
ひどい話だよな。知らん奴が空飛んでると思ったらいきなり余命宣言だもんなぁ。
[いつ俺は死ぬんだって聞くと、いつかの満月の次の日だって。]
[だから満月に殺されるんだ俺。でもなんでか知らないけど次の日から超常的な力を得たんだ。]
そういう設定なのかとも思った。
でもその時、あいつ真剣な顔した後、笑ってやがったんだ。
仕方ないなぁみたいな顔をしてな。
何も言えなかったよ。
[まぁ、いつ死ぬかもわからないしな。いつ死ぬかもわからないのにそんなうじうじしてても仕方んだ。だからそんな顔するなよ。笑って門出を祝ってくれ。]
そんなこと言うもんだからな。笑うしかなかったよ。
それから次の月の満月。あれは、10月だったな。
中秋の名月がその年は遅かったんだ。
俺は、満月の夜、外をぼうっと眺めていたんだ。
その日は何もなくてな。
次の日、夏明けのテスト結果が学校に張り出されていたんだ。
…………
先ほどまで浪々と話していた店主が押し黙った。少し薄暗い店内。なんとなく顔を覗き込む気にはなれない。
店主?
そう声を投げかける。
「あぁ、すまなかったな。」
「それで、テスト結果な。俺が一位だった。」
「そうなんだ。俺が一位を取ったことで、春人は死んだのかもしれない」
「この世をばわが世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば」
有名な道長の歌だ。
「お兄さん。十六夜って知ってるか。」
「満月の次の少し欠けたことを指すんだけどな。」
「春人、満月だったんじゃないかなって」
「満月との契約は全てに完璧であることだったんじゃないか」
「だから…」
そういうと、店主の顔から汗が少し垂れた。そんな気がした。
せっかく書いたんですが蛇足に感じたのでここに置いておきます。
店主。今日は楽しい話をありがとう。お勘定お願いします。
「はいよ。四千五百円。」
伝票を渡される。レジにお金を持って行くと、裏から女の人が出てきた。
「はい、ありがとうね。お代きっちりね。お粗末様でした。」
あの…
「はい?」
お名前は?
「あぁ、あの人がはなしたの。」
「冬子って言います。」
感想などお待ちしております。
もしかしたら続きを書くかもしれないです。