第91話 偉大なる死を
………現在、暴食の魔王と交戦しているヴェスタは攻めきれないでいた。
「ほらほらほらぁっ!!一体どうしたの、ゆうしゃさまぁ〜?」
「くっ…」
「私を倒すんだっけぇ?ふふっ、弱すぎぃ〜♪」
「ぐぅっ!?」
脇腹に蹴りを入れられて肺の空気が抜けるが、ヴェスタは数歩後ろに下がるだけで持ち堪えて剣を構え直した。
「はあああぁッ!!!」
「【暴喰:悪喰】」
振り下ろす聖剣に、紫色のエフェクトを纏った腕が間に入り、それを掴む。その瞬間、聖剣がギリリリッと金属音を響かせて悲鳴を上げる。
「ぬっ…ぐうおおおぉーーーッ!!!」
「おっと、危ないなぁ…」
無理矢理突きを放とうとしたが、暴食の魔王にバックステップで回避される。
「仕方ない…か」
「ん?何を…」
ヴェスタは聖剣の切先を下に向け、目を閉じて集中する。そして…
「【覚醒】」
その言葉に呼応するように、周囲の空気がまるで悲鳴を上げるようにして震え、ヴェスタの髪の色が金髪からスカイブルーへと変わり、ゆっくりと開いた瞳は金色になっていた。
それを見て、明らかに雰囲気の変わったヴェスタに警戒をしていた暴食の魔王だったが…
「…」
「ガッ!?」
その警戒を簡単に突破し、暴食の魔王の懐へ一瞬にして潜り込んで、すでに聖剣を低姿勢で振り抜く大勢に入っていた。だが、流石に腐っても魔王であり、後方へ飛んで魔力を纏い、腕をクロスさせて防御態勢になった。
ドゴンッという衝撃波と共に吹き飛んだ魔王へ、即座に加速して空中で追いつき、聖剣を構えた。
「【ホワイト・アウト】」
聖剣から白い奔流が溢れ出し、周囲の人空気を呑み込みながら魔王へ振り抜かれた。暴食の魔王は【暴喰:悪喰】を発動させたのか、紫色のエフェクトを纏った手でそれに触れる。
「はああああぁッ!!!!」
「うっ…ぐうぅ…っ」
【ホワイト・アウト】と【暴喰:悪喰】が少しの間お互いを喰い合うようにして抵抗していたが、ヴェスタが魔力を更に込めると白い奔流はそれに応えて、遂に魔王を呑み込んだ。
「はぁ…はぁ…」
ヴェスタはそろそろ限界のため【覚醒】を解いて、それを見る。【ホワイト・アウト】を食らった地面は大きく削れており、そこに魔王の姿は影も形もなかった。
「…?」
ヴェスタはその地面に違和感を覚える。その違和感を探していると、抉り取られた地面にさらに穴が空いていたのだ。人一人分なら通れるようなーーー
「あははっ、馬鹿だねぇッ!!!」
「勇者様…っ」
「…ッ、アリシアッ!!!」
それに気付いた時には既に魔王は後方におり、アリシアを捕らえていた。【聖域結界】は暴食の魔王によって破壊されてしまったようだ。
「貴様ーーー」
「おっとぉ〜、それ以上近づいたらこの子を殺しちゃうよ〜?」
「うっ、勇者様、すみません…」
「アリシア…私のせいだ、私が…」
「…いいえ、分かっていた事なんです」
「…アリシア?どういう…」
アリシアの言葉に、ヴェスタは意味が分からないという顔をする。
「…知っていたんです、暴食の魔王が生き残ることも、それによって貴女が窮地に陥る事も…」
「そ、それは一体…?」
「どうしようもないんです、この物語は絶対に私か勇者様のどちらかの悲劇で終わってしまう…それなら」
アリシアは腰の短剣を抜いて、自身の胸元で構える。
「待て、アリシア、一体何をして」
「ごめんなさい勇者様…でも、分かって下さい…貴女が救われるには、貴女が私のためなんかに死なないようにするには、私がこうするしかないんです…」
「待て、駄目だッ!!」
「ーーーさようなら」
短剣がアリシアの胸を穿ち、少ししてその白い腕が脱力する。
「あ、あははっ!!この子勝手に死んじゃったよぉ?」
「あ、あぁ…」
「君のせいだよ?君がこんな所に連れてきちゃったせいでねぇ!!」
「わた、たしの、わ…」
「あ〜あ、可哀想♪『ゆうしゃさまのせいで、わたし、しんじゃいました〜』ってねぇ、あははははッ!!!」
玉座の間に暴食の魔王の嗤い声が響く中、ヴェスタは魔王の腕の中で力尽きたアリシアだったものをただ呆然と見つめ…
「ほらほら、ゆうしゃさまぁ?君のーーー」
「…あぁ、アリシア」
次の瞬間には、背後に何故かヴェスタが腰を下ろしてアリシアを抱えており、慈しむようにその髪を撫でていた。そして…
「ーーーあ?…ッ!?ガアアァァーーーッ!?」
視線を下に向け、自身の腕が消え失せたことを認識した瞬間、暴食の魔王は地べたをのた打ち回った…
「あぁ、本当に…私は愚か者だ」
…そして、ヴェスタの中でナニカが脈動を始めていたのだった…
Qなんでアリシアは自殺したの?何がしたいの?
A詳しくはいつか書く予定ですが、アリシアは彼女なりにヴェスタが救われる方法を模索して、この結果に至ったんです…ヴェスタちゃんを救うのは、一体誰なんでしょうかね…?




