第89話 勇者は夢に呑まれ、死神は相対する
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「……ヴェスタ様?」
「あ、すみません…少し、夢を見ていたみたいで…」
心配そうな顔をする少女を見て、ヴェスタは身体を起こす。
少しだけ休憩するつもりで聖剣を枕にして横になって空を見ていたのだが、どうやら気付かないうちに眠ってしまっていたらしい。
「やっぱり疲れているんじゃ…」
「アリシア、心配し過ぎです。特に不調はないですから…アリシアこそ、体調は大丈夫ですか?」
「私も大丈夫です」
「…絶対に、治してあげますからね」
ヴェスタは柔らかい笑みを浮かべて、太陽の光に反射して金色に輝く少女の髪を撫でる。少女は嬉しそうに目を細めてされるがままになっている。
ヴェスタが撫でている少女は、とある事情で目が見えない。ただ、その変わりに魔力を見ることができる為ある程度人や動物を認識することができる。
「さぁ、行きましょうか」
「はいっ!!」
歩きだしたヴェスタの後ろで、盲目の少女はこれから起きるであろう悲劇に巻き込まれる彼女を見て、罪悪感と絶望に押し潰されそうになるが…それがこんな自分を救おうとしてくれる彼女にとって、これが最善なのだと己に言い聞かせて少女も運命に身を委ねた。
………
……
…
『邪魔だ羽虫ガアァッ!!!!』
「…」
鞭のように振るわれた巨大な配線を、ルジェは表情一つ変えることなくメメント・モリを勢いよく振るって弾く。
『忌々しい忌イマしい忌々シイッ!!!!』
それはなんと言えばいいか…フォルムは地竜なのだが、身体は無数の配線で構成され、その周囲に金属板などの装甲をつけた異様な姿をしていた。その竜…機械竜は配線を地面に突き刺すと、力を溜めるモーションをする。
『放電爆破アアアァッ!!!!』
「…」
地面を這うように青白い電流が周囲に放たれる。ルジェは大きく跳躍して回避するが、叩き潰すかのようにして巨大な配線が振り下ろされ、ドゴンッという音と共に地面に落とされる。だが、地竜は叩きつけた配線が一瞬にして斬り飛ばされた事で、ルジェが生きていることを悟る。
『まだ生きているノカッ!!虫けらガァッ!!!』
「…」
斬り飛ばされた配線の断面が再生していき、その勢いでルジェを盾にして建ち並ぶ家々を粉砕しながら進む。だが、メメント・モリを上からクレーターが出来るほどの威力で叩きつけ、動きを止める。
『まだ死なぬか、メンドウなッ…』
「…」
ルジェは頬の切り傷から流れる血を拭う。すると、始めからなかったかのように切り傷が消えていた。ルジェの生命力は異常であり、並大抵の攻撃では致命傷になりえない。
ルジェはハイライトが消えた瞳で、機械竜を見据えてメメント・モリを構える。いつのような軽口すら出てこないのは、今はただ本能で動いているだけだからだ。それは意識は未だ悪夢に囚われている為である。
そして、防衛本能と生存本能がルジェの身体を動かしているが、あの機械竜に勝つにはルジェでは相性が悪い。
故に…彼女達が目覚めるまで、ルジェの本能は時間稼ぎを選択していたのだ…




