第76話 帝王城①
「さてさて…」
ルジェは誰にも気づかれる事なく帝王城に侵入し、とある場所を探していた。
「ーーー何をお探しかな?」
「…っ」
ギギギッと一室の扉が開き、黒いローブに身を包んだ男が出てくる。咄嗟に空中へ飛んで身を捻り、そのまま音もなく着地する。
「…へぇ、結構隠密には自信あったんだけどなぁ〜…で、何者?」
そう、ルジェは今回かなり気合を入れて気配を消していた。気配遮断、魔力遮断、騒音遮断、視認遮断、認識遮断などの隠密をする中で強力なスキルを使用していたため、たとえ魔王クラスであっても接近に気づくことはない。それなのに、目の前の男は自身の存在を看破したのだ。
「あぁ、そんなものを使っていたのだな?道理で発見が遅れたと思ったよ」
男の表情は口元でしか判断できないが、それでも歓喜していることだけは分かる。
「技術者を舐めてもらっては困るなぁ…何も相手を知るのに必要なのは気配や音だけではないのさ…」
「…本当に生き物?」
「クククッ…お前がそれを言うのか?真紅の悪夢よ」
ルジェはその言葉に…否、厳密には|その言葉を知っている男に対して少しばかり驚いた顔をした。
「ふ〜ん、何で昔の私の忌み名を知ってるのかな…?」
少女は黒い外套のフードを外して、その真紅の瞳で少々不機嫌に男を睨みつける。それは、ルジェにとってあまりいい思い出ではないため、それを言った事に対しての怒りと何故それを知っているのかと疑問が混じった表情をしている。
「それは私がエルフだかーーー」
「ーーー嘘だね…私がその忌み名で呼ばれていたのは、少なくとも7000年前だよ?普通のエルフはとっくに寿命だし、ハイエルフだとしても見た目が20代くらいなのはおかしいでしょ?」
ルジェは自分の得物である二振りの手斧を握り、右手の武器を男に向けた。その斧は、窓から差し込む月光に反射して鈍い銀色を放つ。
「いや…いいや?私は確かにエルフだ…」
男がフードを降ろすと、そこには確かにエルフ特有の長く尖った耳があった。それにルジェは疑問を浮かべ眉をひそめる。
「君の予想は正しい…普通のエルフでは…な?」
男が右腕に力を込めると、その袖から大量の配線のようなものが地面に溢れる。ルジェはその光景にすぐさま警戒を強める。
「これこそがッ!!私を不老不死へと昇華させた、技術力の集大成なのだッ!!!」
その言葉と同時に、先端からバチバチッと帯電した配線が、廊下を埋め尽くすようにして少女へと殺到した。
その瞬間、少女は廊下の扉を体当りして破壊し、部屋に侵入する。それでもホーミングしてきたのを手斧で斬り裂きながらさらに壁をぶち破って逃げる。
「どうした、どうした?あの悪夢はこの程度なのかぁ?」
ルジェを包み込むように、前後左右上から配線が迫る。男はこれで決まったと思った…だが。
「うっさいな〜…」
直後、その配線が全て細切れに切断される。そして、ルジェの瞳が深紅色に輝き出した。少女はそのまま手斧をクロスさせ、前へ一気に踏み込んで…その瞬間姿が消えた。
「…ガッ!?」
消えたと認識した瞬間、恐るべき死の刃が男を斬り裂く。…否、消えたのではない。よく見れば一直線に壁がぶち抜かれている。恐らく逃げながら男のいる場所の直線状になるよう位置を調整していたのだ。
「…ッ!!!」
視界に赤い軌跡が一瞬だけ写り、その直後には右腕と脇腹を抉られ、その他機械部品が宙を舞う。
「へぇ〜、今のは首と胴体を斬り飛ばそうとしたんだけど、避けられるんだね?それに…」
「グウオォッ!?」
背後に周りこまれ、その背中に膝蹴りを叩き込まれて廊下を吹っ飛び壁に激突してことによって土埃が上がる。
「…何で私の【メメント・モリ】に斬り裂かれて生きてるの?一応これ即死効果があるんだけど…?」
「ふ、ふくく…」
のっそりと立ち上がった男は、歓喜と嘲笑を含めた笑い声を漏らした。
「当たり前だろう…?即死効果などはせいぜい生命にしか適応されない…つまり、私は、生命すらも超越した存在なのだァッ!!!!」
男の身体は、その全てが金属と配線で構築されていた…
真紅の悪夢とは
約7000年前にとある大陸で起きた、未曾有の災害と言われている。原因は不明だが、その大陸のあらゆる生命が虐殺され、大地を真紅に染め、数十年の間黒い霧に包まれたという。運良く生き残った者の話によると、悪魔を見たとか、返り血を浴びてふらふらと彷徨う少女を見たとか、見なかったとか…




