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1.麓の村②



「ほら、飲んであったまりなっ」

「ありがとう、おねぇさん」


 ガタガタぶるぶる、ふるえながらもリップサービスを忘れない俺。

 単純なおべっかで機嫌の良くなった単純小太りおばさんは、お節介にも俺の濡れた頭をぼろ切れみたいな布のエプロンでがしがし拭いてくる。

 ぐるんぐるん頭を揺らしながらも、俺は湯気を出す木椀に手を添えた。


(あったけぇ~・・・)

 木椀に口を近づけ、塩味のみでカスみたいな野菜の浮いたスープをゆっくりと飲み下す。


 じんわりと広がる熱に、井戸水で冷えた身体もゴワゴワする麻服の気持ち悪さも、チクチク刺さる靴の痛さも緩和される気がする。あくまで気がするだけだが。


 にしても、異世界転生の生活水準がツライ。


 村の入り口でゴブリンに間違えられたのは、まぁ、原因が分かれば納得だが、その後大失敗おもらしをした幼児を冷たい井戸水で容赦なくジャバジャバゴシゴシ洗われ、与えられた着がえは麻袋もかくやと言うべき肌触りの悪さ。靴に至っては、笹みたいな草で編んだ草履ならぬびっくり靴。これがまぁ、幼児の柔肌に刺さるつうの、地味にチクチクと。


「それにしても可哀想に。見事につるつるの頭だねぇ。東の国じゃあ、聖者様が髪を剃る習いがあるって聞いたことがあるけど~病気かね?」

「だろ、じい様だってもう少し毛があるぜ。この辺で、ハ○頭はゴブリンだけだ。来ていた服も血糊でボロボロだったし、危うく迷いゴブリンかと思って斬るところだったぜ」

 そう言って、昼間からビールもどきを飲む門番(たぶん?)と村のおばさんは俺の頭を何度も撫で撫でしてくる。


 つるピカの感触は虜になってしまうほどの手触りなのだろう!うむ。

 鬱陶しいがガマン。


 ーーってか、そうなのだ。ゴブリンに間違えられて斬られそうになった原因は、母親の追手を巻くために、紋章の生贄に捧げた髪のせいだったのだ。

 いわゆるハ○になった俺の姿がゴブリンにそっくりだそうでーーって地味にダメージだ。

 俺の毛根死んでないよね。お願いだから俺の成長力よ、力を発揮してくれ。


 虚しさを感じながら、もぐもぐしていると、もう一人の門番が入ってきた。俺に向かって矢を射てきた男だ。

「コアン、引き継ぎ終わったぜ」

「おう、ラウ」

「坊主はどうだ?落ち着いたか?」

 そう言って、門番その二も俺の頭をつるつる撫でた。ガマンガマン。


「で、坊主、歳はいくつだ?」

「・・・3つ」

「親はどこだ?」

「どこから来たんだい?この辺は霊山と湿原しかないだろ?子供の足では無理だよねぇ。馬車かい?」

 次々と質問されて、俺は悩みながら口を開く。

「とうしゃん・・・死んだ」

「やっぱり、か」

「おやまぁ、可哀想に。おっかさんはどうしたんだい?」

 俺は泣きそうに顔を歪めて、ゆっくりと首をふる。


 かあしゃまはなんかの女王に戻りました、僕のことは見たくないそうですーーとは、まさか説明もできない。もちろんその母親の手下に追いかけられてボコボコにされたことや、ハ○の原因である紋章のこと、父親の精霊リンのことも、まるっと話さない方がいい気がした。


 重要なのは、まずこの世界のことを知ることだろう。

 俺は3歳児の口調を駆使して、じいさんの元に行く方法を探す。


「おねぇさん、ここはどこの村?僕、とうしゃんと都に行くの。でもとうしゃん山で魔物に噛まれて死んじゃった。僕、どうすればいい?」

「そうかい・・・ここは『霊山メルヒアコの麓の村』さね」

 そのまんまだね、とツッコミは心の中で。


「都におじいさんがいるんだ」

「都なんかここから1月以上もかかるよ。一番近い村でも馬車で2日だからねぇ」

「都に行くのに霊山で迷った?なんかおかしくねぇか?」

 顔の赤くなった門番その一が、酒臭い息を吐き出して口を挟んできた。


「・・・おかしい?」

「霊山の向こうは東海だ。北は魔国だぜ。おめぇホントはどっから来たんだ?」

「・・どこって?」

 無邪気を装って首をかしげる。

 やべぇーー山に住んでましたとか、言っていいのか?

 山についても霊山って呼ばれていて何か曰くがありそうだし、そもそも近場に村がないってことは、この村がかなり辺境にあるってことだ。


「ば、馬車でーーおりたら迷った・・・」

「ふーん、馬車かよ。もう半月も外からの馬車は見てねえぞ」

「えっと・・・でもーー」

 冷や汗たらりで言葉に詰まっていると、門番その二から助けが来る。


「難民馬車かもしれないな。坊主、死んだのは親父だけか?」

 俺は頭を横にふる。話に乗っかった方が良さそうだと思ったのだ。


「難民?あぁ西のギシュバルトか!?しっかしあの戦から、もう3年も経ってるぜ。今更帝国に来るか?」

「3年経ったからだろ。どこかに潜んでいた難民どもが移動し始めたんじゃないか」

「都にかい?」

「3年前に、帝都では大量の難民を引き受けたって、バスタールさんが言ってたじゃないか。都なら保護があるだろうし、難民街にこの子の血縁が住んでるんだろう」

「なるほどねぇ、その途中で魔物に襲われて、この子しか生き残れなかったってことかい」

 どうやら、勝手に話を作ってくれているらしい。


(難民ね・・・ギシュバルト、ギシュバルト。覚えておこう!)

 俺はずずずっと、スープの残りを啜った。


「さぁて、じゃあ村長に相談だねぇ」

「俺はコイツに畑仕事をさせてもいいと思うんだが」

「ラウ、農奴で抱えるには小さすぎるよ。手がかかるしすぐに死んじまうさ。それよりバスタールに売った方が村のためにも、この子のためにもいいよ」

「・・・げほっ!?」

『農奴』『売る』などの危険ワードが聞こえて来て、俺は普通にむせる。

 咳き込んでいるうちに、小太りおばさんが村長のところに行って来ると、小屋を出て行った。


 えーと。

 ちょっと待って。

 俺はこの後、どうなるんでしょう。

 門番その一とその二をそっと伺う。


「バスタール、さんって・・・なにしてる人?」

 俺は酔っ払い門番ではなく、背筋を伸ばして白湯を入れている門番その二に尋ねてみる。

「バスタールは・・・商人だよ」

「しょうにん」

 マトモな人だよな?売るって、奉公人とか使用人とかで紹介してくれるってことだよな?


 そう言えば母親がなんか言っていた。

『下れば村に行き当たる。村に来る商人について行けば、あの男の願い通りに都へ辿りつけるであろう』

 あの言葉は、商人に都に連れて行ってもらえ的な事だと思いたい。


 だが、そんな俺のささやかな願いは、酔っ払い門番その一の声で破られる。

「商人って言やぁ何でも扱う商人だが、本業は奴隷商人だろっ。村々を回って口減らしの子供や親が死んだ子供を買ってくれんだ。良かったなぁ、坊主。農奴になるより、奴隷の方が飯が食える。死んだ親の分まで生きて、いい主人に買ってもらえよ」


 おふっ。

 いきなりの奴隷人生ですか。。。


 名前 シオン

 年齢 3歳

 職業 奴隷


 脳裏に浮かんだ定番ステータスに、俺は思わず遠い目をした。

 あわてなーい、あわてなーい!?

 わおっ!!いやだー!!




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