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1.とうしゃんの精霊②

『じゃあ、コウイウノハ、ドウ?』


 両腕を組んでポージングする姿は、全裸の男になっていた。

 全裸の少女からおっさん姿に変化したのだ。しかもニカッと笑う顔で歯だけが光るって、どういうこと?透けるなら全部透けろ!


 無言で冷めた視線を向ければ、今度は姿が小柄なコボルトソルジャーに変わる。なんだ、俺ってツヨイって。

『え~これも好みじゃない?仕方ないなぁ』


 精霊は、リンクス様の息子はリンクス様に似てわがままよねぇ、などと失礼な呟きを吐きつつ、再再再度姿を変えた。が、それはとぐろを巻いた巨大な蛇だった。羽があって鱗がでかくて紫っぽいが、蛇は蛇だ。

 見た瞬間、嫌悪感でゾワッと身体が逃げを打つ。


「細くて長くてデカイのはやめろっっっ」

 本気で叫ぶ。


 蛇が嫌いなんだ!なんでって理由なんかあるもんか。嫌いだから嫌いなんだよっ!蛇やミミズやウナギやアナゴ、細くて長くて気持ち悪いのに、無駄にでかいのは最悪だ。


『あれぇ?コレもダメ?リンクス様は強そうなマジュウだと、喜んで大笑いしてくれたんだけどぉ』

「俺はとうしゃんとちがう!」

 思わず幼児言葉で否定してしまう。


『ほうほうほう。んじゃあこれ?』

 最後に変化したのは、魔獣であるホワイトウルフの小さな子どもだった。


「ーー最初から、コレで頼むぜ・・・」

 疲れが戻って来て、ため息が出る。

 だがマイペースの精霊は更に畳み掛ける。


『という感じで、精霊はご主人様の好きな姿に変化できますが、本性には性別も種族もないのでーす。ただ〈火〉〈水〉〈地〉〈風〉〈無〉〈空〉〈光〉の属性の違いはありまーす。生まれた瞬間にどの属性使いで、どれくらい大きな力を使えるかの違いしかないのでーす。以上、リンの簡単精霊講習でした』

「はぁ」

『あれ?理解できない?』


「いや・・・精霊の姿が変わることは理解したけど、そもそもお前、誰?リンクス様って親父の知り合いの精霊?」

 状況を確認しながら尋ねる。

 敵、ではないのだろうな。敵意を感じない。


『リンちゃんでーす。リンクス様の紋章で生まれた精霊でーす』

「紋章?」

 俺は右手の甲を見る。


「リンクス様の息子の精霊は、まだカケラだよ」

「欠片?」

「リンクス様は5つの属性があったの!だから5つの属性かけらでできたリンは〈火〉〈水〉〈地〉〈風〉〈空〉の力が使えまーす。すごいでしょ!

リンクス様の息子はねぇ、うーん。。。6つ!?えっ?な、7つ全部の属性の欠片があるよぉ!すごーいすごーいっ!さっすがリンクス様とあの女王の血を引く息子!この精霊が生まれたら、世界で最強の精霊になるよぉっ!?」


「生まれたらって、俺の精霊はまだ生まれてないのか?」

「そだよぉ。リンクス様の息子が属性の力を成長させれば、リンみたいに1つになることができるよ。でもそれにはリンクス様みたいにあちこちの遺跡を回ってカケラに力を注がないとだめなの。リンクス様は78の町や村、国々を回ってリンを生み出してくれたんだよ。リンと契約してくれたときは、リンクス様はもう冒険者として人間たちの世界ですっごく有名だったんだから」


 とうしゃんは冒険者ーーシオンの記憶から素直に納得できる。

 父親が楽々と魔獣や魔物を倒していたのを、シオンは物心ついたときから尊敬と憧れを持って、側で見ていたからだ。


『でもリンクス様の息子は小さすぎるよね~冒険者にはまだなれないし、力もないから紋章もまともに扱えないだろうしぃ~予想外だったなぁ。アドバイスできないや』

「アドバイス?俺に?どうして?」

 父親の精霊が突然現れて、息子にアドバイス?

 不思議に思う俺の前で、ホワイトウルフの姿で、リンは可愛らしく首をかしげる。


『どうしてって・・・リンクス様がもう一度女王と会うために霊山に登るってなって、リンは女王の結界を越えられないから、ここで待つことになったの。その時にリンクス様が言ったのよ。山から下りてくる人間が紋章を受け継いでいたら、自分は死んでいるはずだから、砕ける前に精霊のカケラを育てることと、紋章を使うと人間不信?になるから使い方をよく考えるように言ってほしいって。そしてできる限りのアドバイスをしてくれって』


「親父がそんな事を」

 最期のとおしゃんの顔を思い出す。

 きっと自分が死んだら、紋章を引き継いだ息子が山をひとりで降りることになるのを予見していたのだろう。


「ーー紋章を使うと人間不信になるのか?」

『リンクス様はそうだったよぉ。冒険者でも基本はソロで固定パーティには所属してなかったし、帝国の家を出たのは紋章の力で誰も信じられなくなったからだって。でも霊山に登る前は、信じられる相手や仲間が何人かできたみたいだったけど、リンにはよく分かんないや』

 精霊にとって人間の感情の変化は分かりにくいものらしい。信じられる人ができたというのは、あくまで親父自身が口にした言葉らしいのだ。


『紋章の力はねぇ、すべてを支配する力なの。リンはすごいなぁって思うけど、リンクス様は嫌だって言ってたよ。だから紋章の力を使わず、普通の魔力を人より使えるように鍛えたんだって。だからリンクス様の息子もそうすればいいと思うよ。そうしたら信じられる人がきっと増える』

 気軽に言われて困惑する。とりあえず強くならないと3歳児にはツライ世の中だ。


「どうやって鍛えればいいんだ?」

『リンにはわかんないよ。それよりコレを飲んで』

 ホワイトウルフの小さな肉球に挟んで、丸いグミのような物を差し出される。


「これは?」

『リン特製の回復薬。ほら早く飲んでぇ~』

 つぶらな瞳に促されて、恐る恐る丸いグミを摘む。


 回復薬って、ポーション的なもの?毒じゃないよな。

 不審に思いつつもリンに強く促される。

『ほらほら早く早くっ!』

「・・・わかったよっ」

 分からないものを飲み込むには勇気がいる。えーい!


 空腹で喉も乾いていた俺は飢餓感のせいもあって、あっさり飲み込む。

 するとあら不思議、身体中の痛みが一瞬で消え、ついでに飢餓感もすっぱりなくなった。


「すげぇ~リン、ありが・・・」

 喜んでお礼を言おうとした言葉が止まる。ホワイトウルフの身体が砂か光の粒のように変化して、輪郭からきらきらと消えていく。


「リン・・・」

『紋章の精霊は、主が消えればカケラに戻って砕け散るのよ』

「・・・」

なんとなくこれからもここにいるのだと思いこんでいた俺は言葉を失う。


『あんまりアドバイスできなかったけど、リンクス様の息子も、あったかくて美味しかったよ!じゃあねっ!』

 ニカッと笑ったまま、あっさりと、とおしゃんの精霊リンは俺の前からいなくなった。


 あったかくて美味しかったーー?

 意味不明。


 そしてーーひとりぼっちに戻る森の中。

 死を覚悟して赤い液体ジュースを撒き散らした俺の身体は、リンのおかげですっかり元に戻り、追手も今のところない。


 でも心にぽっかり穴があいて、不安がどんどん溢れだす。

「麓へーー村に行かなきゃな・・・」

 俺は言葉を吐き出しながら、再び歩き出したのだった。



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