1.紋章の力②???
戸惑っているうちに、ワニ顔が俺に向かって指を弾いた。
「ほらっ、落ちろ」
どごーぉぉぉん。
その途端、爆音に身体が吹っ飛び、再び斜面を転がる、転がる。
太い木の根や不気味な牙を持つ草、刃物のような葉の上を飛び跳ねて転がり、身体のあちこちをゴツンゴツンと打ち付ける。
ワニ顔の指1本であっという間に俺は血まみれの瀕死になった。
だから戸惑っている場合ではなかったんだ。
人間、勢いが大事だ。選べ、俺。選びたい。
だが転がりながらは何もできない。
ようよう地面の凹みに落ち込み、身体が止まった。
かなりの距離を落ちた感覚だ。
間違いなく、骨折れてます。あちこち。
気絶寸前の意識で見上げる夜空から、ワニ鷲顔コンビが降りてくる。
こいつら空を飛べるんだなぁーって、アホみたいな感想を抱いていると、またワニ顔に踏みつけられた。
「っ!」
「コイツ丸っこい割に、転がり具合が悪くないか?」
「左座の蹴り方が悪いのですよ」
「ええっ~手加減してんだから仕方ないだろ。
ーー分かった。コイツの手足切っちまおうぜ。そうすりゃあ、転がしやすくなる」
「駄目です。人間は脆いです。麓に着く前に死んでしまえば、我々が女王の言葉に背いたことになります」
「ちぇっ。地道に蹴り落とすしかねぇのか」
会話の内容がますます鬼畜ーーって、コイツら、人間じゃなかったわ。
どおりで、どんどん俺にとっての最悪になる。
やっぱり一発逆転を狙って、チートっぽい現象に頼るしかないのか。
つまりあの選択をするしかないーー。
だが生け贄って、悪いイメージしかないぞ。
要するに神とか悪魔とかの捧げ物ってことだろ?
その捧げ物に選ぶのが『俺』の、
・心臓
・腸
・両手
・両足
・両目
・髪
このラインナップで、もうコレしか選べないだろうっ!
だって他の選択肢は、捧げ物にした時点で俺が困るだろう?
心臓とか腸とか捧げてチート1体召喚とかなんとか、遊○王みたいに捧げ物がカードじゃないんだから、ワニ鷲コンビを倒す前に俺が確実に死にそうだ。
なら、選択肢はこれしかない!
ーーさらば俺の髪。頼むから毛根は見逃してくれっ!
ポチッと潔く選んだ途端、右手の紋章が強く輝き、辺りを明るく包み込んだ。
すると、ワニ鷲顔コンビが動きを止めた。停止画像みたいだ。
『絶対命令Lv.1 発動
対象者1人に命令設定→ワニ顔人外
文字数15字以内で命令を入れてください。』
更に求められる、コマンド入力。
アナログすぎる。石投げとコンボにしてくれ。速やかな自動を望む。
しかも『絶対命令』ってナニコレ笑う。倒す系じゃないのか。
文句を言いそうになるところをぐっと我慢してさっさと打ち込む。
蹴られて打ち込めなくなったら困るからなっ!
ポチッポチと打ち込みが終わった途端、ワニ顔が鷲顔を殴った。
もう一発、ワニ顔が鷲顔を殴った。
鷲顔が何か叫びながらワニ顔を殴り返した。
そうしたら、ワニ顔が鷲顔の腹を殴った。殴ったら遠い彼方に鷲顔が飛んで消えていった。消えていった鷲顔をワニ顔は追いかけて行った。
ーーこれでワニ顔は鷲顔を1億回殴るまで戻って来ないだろう。
「はぁーー助かっ・・・ごほごほっ」
息を吐き出そうとして派手に咳き込み、身体の奥に響くボキッという音と共に、俺は口から赤いジュースを吐き出した。
おぉ、ジーザス!
しかも頭部が軽い。
俺の毛根は生き延びてくれたのだろうか?
もしも犠牲になったのだとしたら浮かばれない。
なぜなら赤いジュースを吐き出した途端、意識が遠くなってしまったからだ。
(すぐに逃げないと・・・)
1億回殴るのにどれくらい時間がかかるのか分からない。
だが、殴り終わればワニ鷲顔コンビは戻って来てしまうだろう。
そう思うのに身体が重い。
結局俺はなす術なく、そのまま気絶してしまったのだった。
南無三〜!