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自由市場


私の一日は、市場に行くことから始まる。


市場と言っても、商人が販売をしているわけではない。


自由に誰もが自分の商品を販売できる市場、通称「自由市場」だ。価格交渉は各自で行い、誰もが自由に商売ができる。


ただし、1店舗につき出品できるのは20個まで。それ以上は、商業ギルドの許可が必要になる。


私は、商業ギルドに登録している雑貨屋<ミリアム>の雇われ店員だ。


最近、商品の鑑定を行う業務を任されつつあるので、「修行してきなさい」という店長の一言で、この市場通いが始まった。


市場に通い始めて早1ヶ月。なんとなく商品の相場がわかりつつある。


たとえば、この私の栗毛で剛毛なボサボサショートヘア―を、一瞬にしてサラサラヘアーに変えてしまう整髪剤。


非常に興味を持って見ていたためか、かなり値引きしてくれたのだが、それでも5000G必要だった。貴族相手の商品なのだろう。


私のお給料が110000Gで、家賃や生活費・食料を差し引いた残りの金額からそれを買うのは、ちょっと冒険だ。


上品そうなお姉さんが販売していたし、ちょっとだけ効果を試させてくれたので非常に内心は買いたかったが、私のお金の使い先はすでに決まっている。


魔術書を買い揃えるのだ。


十年ほど前に初めて見た魔術書にそれはもう夢中になり、それからというものとにかく魔術書を集めている。


ただ、私の瞳は世界でもっとも魔力量が低いと言われている黒色で、魔術書を使って実際に魔術を扱うことはできない。


わかっていても、それでも魔術に惹かれている。


使うことはできなくても、理論だけでも知っていたい。魔術に触れていたい。


23歳にもなって、才能がないのがわかりきっているのに、まだ憧れているのかと言われることもある。


こればっかりは「趣味です」と言って逃げているが、そろそろ現実を見た方が良いのかなと内心では思っていたりする。


友人たちはすでに結婚していて幸せそうだし、私も身長はやや低めではあるものの一般的な容姿レベルだとは思っている。


あまり大きくは開かない目と団子みたいな鼻だけど、友人たちからはお世辞でも「可愛い」「癒される」と言ってもらえる。


どこかにいい人が居たらお願いするんだけれども……。


時々足を止めては商品を見たりしながら、市場を端から端まで歩く。


そして最後の店の前に来たとき、内心「あれ?」と思った。


その店は、腕輪を1個だけ販売していた。しかも「いわくつきです」とのみだけ書かれている。


値段はなんと200G。羽ペンと同じ値段だった。


「ちょっと見てもいいですか?」


黒いフード付きマントを着て、顔が見えないようにフードを深くかぶっている、いかにも怪しい販売人に一声かける。


「あぁ、いいよ」


しわがれた、それこそ80歳くらいのおじいちゃんのような声だった。


「お嬢さん、どっかのお店の人かい?」


私は雑貨屋<ミリアム>の制服のままで来たのを少し後悔した。


黄色と白のストライプのワンピースに、ちょっとフリルがついたエプロン。どっかの喫茶店の店員風な雑貨屋<ミリアム>の制服。


王都のメイン通りの隅にある店だが、この販売人は行ったことがないのだろう。


「まぁ、そうですね。ところでこの腕輪、何のいわくつきなんですか?」


何度見てもシンプルな腕輪だ。少々太めだが銀の土台に虹色の文字が刻まれている。魔術書集めで色々な一般的な魔術について知っている私でも、見たことがない。


びっしりと何かしらの言語で文字が刻まれている。ちょっと遠目にみると紋様にしか見えない。


攻撃系?防御系?それとも支援系?


魔術書は広く公開されており、魔術が使える魔力量をもつ瞳の色をした子供がいつでも学べるようにと、ちょっと気持ち高めではあるが一般的に売られている。


その一般的な魔術書の中にはなかったような気がする紋様だ。王立図書館でも見たことがないような……?


「この腕輪の前の持ち主が、これを身につけたが最後、死ぬまで外れなかったっていう話さ。嘘か本当かはわからないが、一応言っておかないと後で文句言われても困るからね」


販売人がヒヒッと小さく笑う。


呪いのアイテムだったか……。まぁ、銀だけでも200G以上はするものだし、それくらいのいわくがないとここまで安くならないか。


さて、どうしようかと考える。


何らかの魔術アイテムである可能性は非常に高い。安月給な私のお小遣いでも買える。ただし呪い付き。


鑑定所に持っていけば……いや、この販売人がすでに持って行った後かもしれない。


「お嬢さん、どうする?」


わずかに見える販売人の口元がニヤニヤと笑っている。


知り合いの魔術研究者に渡してみるのも面白いかもしれない。


私が魔術書コレクターだと知って、面白がった魔術研究所の職員と知り合いになったことがある。


「100Gなら買うわ」


とりあえず値切ってみる。どうせ捨て値で売っていたのだ。これくらい値切られてでも手放したいはず。


「あぁ、いいよ。大切に使って欲しいね」


呪い付きを大切に使うとか、どういうことだと思いながらも、革のショルダーバッグから財布を取り出し100G払う。


「袋も何もないからこのまま渡すことになるよ。くれぐれも気を付けて」


お金を受け取った販売人の手は、しわくちゃだった。やはり老人なのだろう。


腕輪を手に取り、さっそくバッグの中に入れ込む。


「ありがとう。また何か商品があったら見せてね」


とりあえず面白そうな魔術アイテムが他にもあるなら見せてほしい。


「あぁ、また何か仕入れておくよ」


そう販売人が言い終わったら、すぐに店じまいを始めた。


私はとりあえず雑貨屋<ミリアム>の開店時間に間に合うよう、ちょっと小走りに自由市場を去った。






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