表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

episode 7 Conflict Time / 蜘蛛の襲撃

ペスカドール村へ赴いた次の日の早朝、シュタインウッドの街中はある話題で騒然としていた。ペスカドール村の宿屋がヘルスパイダーズなる盗賊団に襲われ、占拠されたらしい。

その名を聴いた時、昨日の蜘蛛のバッジを身に付けた連中を思い出した。もしかしたら近いうちに奴らと相見えるかもしれない。そう思い私はギルドの修練場へ再び訪れた。


「さて、少しでも魔法の鍛練をしておくとしようか…。」


以前は人が多かったのもあって満足に鍛練は行えなかった為、今は小型の盾を呼び出すバックラーしか使うことができない。これでは蝶のごとく蜘蛛の思うまま捕まってしまう。そうならないよう書庫から魔導書を借り、攻撃魔法の習得を試みる。

修練場に足を踏み入れると、数十メートル離れた所に的が置かれていた。


「メインで使う魔法も大切だが、一応職業は斥候だ。なら相手の足止めに使えるような技が先だろう。」


魔導書をめくり、炎魔法の頁を開く。足止めにピッタリな魔法も載っていた。その魔法の名を唱える。


「エンバー・バースト!」


目の前に魔方陣が広がるとそこから火の粉が無数に飛び交う。地面に落ちると火の粉は小さな火柱へと姿を変える。例えるなら炎の撒菱とでも言うべきだろう。


「攻撃用の魔法も試すとするか。どれ…。」


同じ頁に記載されていたもうひとつの魔法の名を唱え、右手の人差し指を上に向ける。


「フレアスフィア!」


人差し指の先にテニスボール程の大きさの火の玉が現れる。これを自分の意思で操作する魔法がフレアスフィアだ。試しに動かしてみるが、思ったほど素早くは動かせない。エンバー・バーストで動きを封じてからでなければろくに扱えないだろう。


「まあいい。最も適性があったのは雷魔法、だったな…。」


魔導書をめくり初歩的な雷魔法を見つけると、その名を唱え右手を的の方へかざす。


「サンダー!」


魔導書によれば掌から魔方陣が展開され、そこから雷が放たれる、その筈だった。しかし、私の目の前に魔方陣は現れなかった。代わりに、的の20メートルほど上に魔方陣が現れる。


「どうなっている?」


呆気にとられていると、魔方陣から雷が何十回、何百回と落ちる。雷が止むと、そこにはただ燃え尽きた灰が残っていた。


「どう言うことだ―グッ…」


突如全身に倦怠感と激痛が迸り、倒れてしまう。


「大丈夫ですか!?」

「ああ、痛みも倦怠感も耐えられない程じゃない…。」


たまたま近くにいた少女が支えてくれた。おかげで立ち上がることが出来た。

立ち上がって少女に目を向けるとフードつきのローブに身を包み、フードからはあどけなさの残る水色の瞳と草原を思わせる若草色の前髪が覗いていた。


「例を言うよ。」

「これくらい構いませんよ。それはそうと、アレは『魔力過剰放出』ですね。」

「魔力過剰放出?」

「ええ、体質と魔法の相性が良すぎる場合に起こる現象です。無意識に魔力が大量に引き出されてしまい、術者の限界を越えた高ランク魔法を発動してしまうんです。」

「何?ということは…」


彼女の言葉を聞き、魔導書を開く。高ランク雷魔法「ラス・オブ・ゴッド」の頁に先程の光景の説明が載っていた。


「貴方は幸いにも魔力が人並み外れてるおかげで死にはしませんでしたが、本来だと良くて全身が魔力の激流でボロボロになって一生寝たきり、最悪魔力切れで即死する事もあります。」

「なるほどな…。」

「あと、これ。よかったら使ってください。」


少女はエーテルとポーションを差し出す。ありがたく使うと倦怠感と痛みが引いていく。


「助かるよ。アイテムまでもらってしまって悪いな。重ね重ね例を言う。そう言えば自己紹介がまだだったな。私は―」

「パトリシア・イグドラシルさん、ですね?」


名を告げようとした途端に相手に先を越され、感謝から一転驚きへ感情が移り変わる。少しの間を置くと、再び少女が話し始める。


「何故私の名を、って顔ですね。心配しないでください、『あの場』に居合わせただけですから。」


笑顔を絶やさず少女は伝える。


「あなたが言った通り、ここのギルドは金にがめつい人ばかりです。ギルド側は勿論、冒険者も貧乏人は相手にしてくれません。でも、そんな中貴方は…。」

「…あの時か。」


以前私が小太りを非難したのをこの少女は見ていたのだ。そして、あの小太りの言動を他の冒険者が気にも止めなかったのはそういうことだったのか。


「私もあの時あの子を助けようとしましたが、他の冒険者に絡まれて助けに行けませんでした。だからこそ、あなたに感動したんです。」

「なるほど…。」

「話が長くなってしまいましたね。私はシルフィーユ・ヴィントブルクと申します。気軽にシルフィとお呼びください。」

「よろしく、シルフィ。じゃ、私は魔法の習得に戻るよ。」

「さっきも言いましたけど、魔力過剰放出が起こるので雷魔法だけはダメですからね!」

「身に染みて理解しているよ…。」


シルフィと別れ、魔法の鍛練に戻る。しかし、雷魔法が使えないとなるとなかなか困ったものだ。炎魔法もあまり大したものは使えないため、主力となる技がなくなってしまう。


「待てよ…。そうだ、これならどうだ?」


2つほど案を思い付き、私はその完成に励んだ。

これらを形にすることが出来た頃には昼過ぎだった。軽く食事を摂り昨晩寄り道をした場所へ向かおうとすると、突然見知らぬ大男から声をかけられる。


「おい、あんたパトリシアだろ?」

「それがどうした?」

「大変だ!ヘルスパイダーズの奴らがシュタインウッドに来てる!奴らは歯向かう冒険者は勿論市民まで殺しだしてお前を探している。それを止めようと一人の魔導師が戦っているんだ!」

「まさか、シルフィか!?場所はどっちだ?」

「シュタインウッドの門だ!」


ちょうど反対方向。予定を変更し、大慌てで反対側に位置する門へ向かう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ