episode 6 Brain Storming / 嵐の予感
今回は少し長くなってしまいました…
申し訳無いです…
ペスカドール村で聞き込みを続けていると、ユリアの父、タリスマン氏が泊まっていたという施設の部屋を割り出せた。村の中でもひときわ大きく、元の世界で言えばホテルと呼ぶにふさわしい、そんな建物だった。
ホテルに辿り着いてスタッフに訊くと、タリスマン氏からの指示で部屋はまだそのままにしてあるらしい。何か手がかりが残っているに違いない。
「では、その部屋を調べさせてくれ。」
「ちょっと待ってくれ、あんたは何者なんだ?勝手にお客さんの荷物を触らせるわけには行かないよ!」
当然と言えば当然だが、ホテルマンは通そうとはしなかった。プライバシー保護はどの時代でもあるということか。
仕方ない、多少脚色しつつも説得するとしよう。
「私の名はパトリシア。ギルドの依頼でな、行方不明になったタリスマン氏を探している。ここに残っている荷物も手がかりになりうるんだ。調べさせてくれないか?」
「なら、身分確認をさせろ。バッジと冒険者証を渡されているはずだ。」
ギルドの名前というのはなかなか偉大なものだ、そう心の中で呟きながら冒険者証とスーツの襟につけたバッジを見せる。漸くホテルマンから許可が降り、私はタリスマン氏が借りていた部屋へと足を踏み入れる。
「本当に商人が過ごしていた部屋なのか?」
「ええ、その通りでございます。」
「ここで乱闘でも起こったのなら納得できんことはないんだがな。」
「そのようなことはありません。」
部屋を見るなりそう告げたのは単純な事だ。荒れ果てていたのだ。商品も私物も何もかもが敷かれた絨毯の上で揉みくちゃになって滅茶苦茶に散らばっていた。金目のものは盗まれておらず、更には再犯も起こっていないため盗人の仕業ではないとの結論だった。
(一体、何があったんだ…?)
考えようとしたその時だった。商品を入れていたと思われる鞄が動き出し、その影から『何か』が飛び出した。
「ッ!バックラー!」
反応が遅れたものの、防御魔法は間に合った。棘のついた小型の盾を私の前に出現させる。防御さえできればいいと思ったが、運悪く棘に突撃したらしく、飛び出してきた何かは串刺しになってしまった。血が舞い、盾から滴るが幸いにも汚したのは部屋の絨毯のみであり、タリスマン氏のものと思われる貴重な品には飛んでいなかった。
小さな何かは暫く暴れていたが、やがて静かになったのでバックラーの向きを変え部屋にいた物と対面する。
「ネズミか?」
それにしても大きなネズミだ、と言うのが最初に見た感想だった。全長は30cmと言ったところだろうか。さすがは異世界、スケールも元いた世界とは段違いだ。
かなりの間をおいて、ホテルマンは驚きながら声を上げる。
「いや、普通ならこいつの半分もない。こんな大きなネズミは見たことがない…。それに、いつもは蜘蛛の子を散らすように逃げるんだ。ネズミがこんな風に襲ってくるのなんか見たことがない…。」
怪しげなものがあるかもしれない。咄嗟にネズミのいた鞄に近づき、調べてみる。中には、白く透明なクリームと、それを入れていたであろう瓶の破片が散らばっていた。恐らく『何か』がこの部屋で起きた際に瓶が割れ、中身が飛び散ったのだろう。見直すと、奥の方に一つだけ割れていない瓶があったので取り出した。
「すまないが、こいつを拭きたい。雑巾でも持ってきてくれないか?」
「わかりました…。」
動揺していたのか小さな声でホテルマンは返事をした。
彼が帰ってくると、支配人らしき人物がやって来た。
「すまないが、これを拭いたらさっさと帰ってくれ。この部屋は出たときのままにしてくれと言われてるのにここまで汚されるとひとたまりもないんだ。」
「汚したことについては謝ろう。だがその指示とやらは『誰から』受けた?タリスマン氏ならこんな状態を放置しておくとは思えない。掃除するように言うか、せめてある程度整理させるはずだ。」
「余計な詮索はするな、もう家には来るな!」
酷い言われようだが揉めたところで何にもならない。これ以上は馬車を待たせてしまうと判断し、私は瓶を拭いてホテルを後にした。
帰り道にガラの悪い連中とすれ違った。蜘蛛を象ったバッジを身に付けていた。怪しいとは思いつつも、今は馬車を目指す方が先決と考え無視した。馬車に向かっている間も周りへの警戒を怠らなかったが、追っ手の気配を感じることは無かったのでそのまま馬車に乗り込み、帰路についた。
シュタインウッドにたどり着く頃には暗くなっていた。少しだけより道をしてから、今ある金で泊まれる安い宿屋を借り、その日は眠りについた。