episode 3 First Request / 少女の涙
今回漸くギルド入りします。
長らくお待たせしました。
シュタインウッドは今までの自然の景色とは完全に別世界だった。鍛冶屋や道具屋、更には精肉屋や八百屋まであった。
「なるほど。凄い町だな…。」
町を何の気なしに歩きつつ住人に話を聞いてみると色々な事を聞くことができた。
シュタインウッドは海沿いではないものの海から比較的近く、モンスターの出没率も低いため事実上貿易商お抱えの町になっているらしい。そのため商業が発展しており、ここのギルドも商人筋の人間が運営しているそうだ。
「この町には気さくな奴も多いが、商人筋となると雲行きが怪しいな。私の杞憂であればいいのだが…。」
最初は『俺』と言っていたが町の人と話しているうちに『私』という一人称に慣れてきてしまった。慣れと言うのも恐ろしいものだ。
商店街のように並んだ店を抜け、ギルドにたどり着いた。ロビーに入ると、受付嬢らしき人物が出迎えてくれた。
「こんにちは~。ようこそ、人に優しいギルドことシュタインウッドギルドへ。冒険者の方ですか?」
本当は探偵だ、と言いたいところだがまあいい。冒険者になった方が情報収集もしやすいだろう。
「ああ。だが今日初めて来るのでな。何か手続きはいるのか?」
「はい、ちょっとだけ書類記入と適性検査をします~。まずこちらに名前を記載してください。」
おっとりとした、しかしどこか弱々しげな声で告げる受付嬢。
(名前か…。鳩刃翔一、は止めた方が良いな。)
何せ中世のヨーロッパのような世界だ。明らかに浮いている。しかも今は何故か女の姿である。男の名前ではより一層摩訶不思議だ。
(パトリシア・イグドラシルとでも名乗るか…)
適当に考えた名前だが、少なくとも鳩刃翔一よりは馴染んでいるだろう。
「書いたぞ。次はどうすればいい?」
「ありがとうございます~。では、パトリシアさん。こちらの部屋へお願いしま~す。」
案内された先にいたのは典型的な占い師のような服装をした人だった。ここで占うことで最適な仕事と魔法属性を教えてもらうらしい。
「あなたのようなタイプは珍しいデース。職業は斥候なーのに、補助系の魔法は硬質化以外苦手で逆に雷、炎の攻撃魔法が得意なーんて。それに、今まで見たことの無いレベルの魔力の素養が眠っていマース!」
「なるほどなぁ…。」
あのペテン神の影響だろう。こちらに来てから初めてありがたいと思った。尤も、何故か女の姿になってる件とで帳消しどころかマイナスだが。
それにしても、キャラ付けか知らないが何と言うか物凄いテンプレート染みたエセ占い師みたいな話し方だ…。
「それデーハ、これで占いは完了デース!先程のロビーまでお戻りくだサーイ」
ロビーまで戻ると、先程の検査結果が伝わっており、受付嬢が笑顔で出迎えてくれた。
「では、パトリシアさんの冒険者証とバッジです!これさえあればいつでもどこでも冒険者だと分かってもらえますよ~!」
免許証ほどの大きさのカードと雷と弓を重ねたようなデザインのバッジを渡される。カードはポケットにしまい、バッジは早速スーツの襟に付けてみた。
「中々様になっているよ、感謝する。」
「いえいえ、気にしないでください。それでは、冒険者ライフを楽しんでください!」
しばらくの間ギルドの施設を見て回った。書庫で魔法について調べ、修練場で魔法を試し、一回りしてロビーまで戻ってきた。何か手頃なクエストはないかと探してみたが、今の自分ではとても出来ないであろう案件ばかりだった。仕方がない、そう思った瞬間だった。小さな子どもが泣きじゃくるような声で訴える姿を目にした。
「何で私の依頼受けてくれないの…。」
「ごめんね、ギルドに依頼するにはもっとお金がいるんだよ…。」
先程の受付嬢が子どもの依頼を断っていた。それでも諦めない子どもに業を煮やしたのか、受付嬢の上司らしき太った男が現れた。
「全く、これじゃキリがない!兎に角、ギルドに頼むにはもっと金がなきゃダメなんだよ!ここはお前みたいなガキが来る場所じゃないんだよ、失せな!」
人に優しいギルドを名乗っておきながらこんな事を言っているのか。無性に腹が立ってきた。
「おい、さっきから聞いていれば金だ何だと薄汚い。人に優しいギルドってのは嘘で実態は金に優しいギルドなのか?」
「うるせぇ、冒険者ごときが偉そうに口出しするな!」
「さっき掲示板を見てきたが、実に面白かったよ。隣国の領主や国王からの依頼、それに商船の護衛、どれも金持ちからの案件ばかりだ。それと今の発言、『人に優しいギルド』を名乗っておいてこれでは面目丸潰れ、だろうな。」
「ぐ、ぐぅ…」
苦虫を噛んだような目で睨む男。一方、その後ろで所在なさげに立っていた受付嬢は驚きのあまり目を大きくしてこちらを見ていた。
「ええい、金の味方なのは冒険者の方こそだろう!無茶な依頼を受けて金を稼ぐ!これのどこが違うと言うんだ!」
苦し紛れの言い訳染みた事を言い出す小太り。はぁ、とため息が出てしまう。
「いいか、よく覚えておけ。無論多いに越したことはないが、私は依頼の報酬などさして気にしない。依頼者の笑顔がそんなものより大切だからだ。」
小太りを睨みながら告げ、少しの頬笑みを浮かべつつ少女に向き直す。
「お嬢ちゃん。その以来、私が引き受けよう。」
「ホント?ありがとう!」
「ふん、そこまで言うならその案件を受けても構わん。だが、もらえる報酬は雀の涙ほどもないぞ!」
「構わないさ、依頼人の笑顔が見られたらそれで満足さ。」
ギルドで話をするのは禁じられたため、一旦彼女の家へ移動し、そこで話を聞くことにした。
ありがとうございました。
次回で何とかミステリーパートに入ります。
今後の展開もご期待お願いします。