episode 2 Beginning Day / 異世界訪問
大変お待たせしました。
前回に引き続き、導入パートです。今回で異世界へ転生します。
(ここはどこだ…。俺は、確かユウに…。)
目が覚めるととても困惑した。見慣れた事務所とも、怪我人が送られるであろう病室とも違う。そんな見たこともないような光景。まるで宇宙の中心とでもいうべき異世界が辺り一面に広がっているのだ。しかもよく見ると浮かんでいるのは星ではなく魔方陣や変わった文字が殆どときた。実に希少な絶景だ、ヤクでもやってなければこんな世界を一望することすら叶わないだろう。
「これ、ワシの自慢の部屋をクスリの幻覚などと例えるでない。」
誰に言うでもなくジョークを呟くと突然別の声が聞こえてきた。声がした方向を向くと黒いローブを纏った人物がいた。顔はあまり見えないが、先程の低く嗄れた声と、何よりもフードから見える長く延びた白い髭からして初老の男だろう。しかし、ローブ越しでも分かるほどの老人離れしたガタイの良さは気がかりだった。
「悪かったな。それはそうと、ここは一体どこだ?事と次第によっては手段を選ばず脱出を試みるぞ。」
「全く、血気盛んな奴だ。これでもワシはいわゆる神と言う存在じゃ。逆らおう、などとは考えん方が身のためじゃ。」
「俺は無神論者でな。神以外にも、坊さんやシスターとはあまり縁がない。」
とは言え、この状況だ。相手が有利と言わざるを得ない。仕方ないので相手の話を聞くことにした。すると、やっと興味を持ったかと言わんばかりに老人は一瞬目をこちらに向けた。そして次の瞬間、
「単刀直入に言う。お前は死んだ。」
「だろうな。なら何故俺はこんなところにいる?天国か或いは地獄か。死人が行くのはそういうところだろ?」
心臓にナイフを刺されたのだ。遅かれ早かれ死んでいただろう。別に不思議ではない。むしろ、何故俺は生きているかのように動いたり話したり出来るのか、そっちの方が不思議だった。
「お前は確かに死んだ。だが、お前は探偵として多くの人々を救った。それを見込んで頼みたいことがあるのじゃ。」
「何?」
さっきまで以上に老人の言葉に耳を傾ける。
「異世界転生、と言うのは聴いたことがあるか?最近アニメや小説でもよく見かけるじゃろう?」
「生憎だな、俺はアニメはガキの頃に観たっきりで小説はミステリーを嗜む程度のものでな。初めて聴く言葉だ。」
「はぁ、つくづく説明が面倒じゃ…。」
長々と異世界転生と、俺のこれからについて語っていただいた。大事なことだけは漏らさず理解した。要約すると「冒険者として異世界へ赴き、魔王を倒し平和を取り戻してこい」とのことだった。途中途中挟まれた奴の小言は逐一無視した。
説明が終わり、老人は最後に語りかけた。
「では、鳩刃翔一よ。お主は魔王を倒し、異世界に平和をもたらしてくれるか?」
「一つだけ言っておく。魔王を倒すだけじゃ平和は訪れない。統制が取れなくなった魔王軍は更なる混乱を招くだろうし、魔王以外にも悪人はごまんといるだろう。」
「そんなことを言われても、どうにもならんじゃろ…」
「だからこそ、俺みたいな奴がいるんだろ?魔王云々は冒険者の、困ってる人間を助けるのは探偵の仕事さ。引き受けよう、その依頼。」
「よし、ならば異世界に欲しい物を一つだけ言え。それも一緒に持っていってやろう。」
「よし、それなら魔力とやらをうんと多くしてくれ。」
「おい、魔法は詠唱や魔力のコントロールを学ぶことで使えるようになるんじゃ。魔力があるだけでは魔法は全く扱えないのじゃぞ?」
「構わないさ。自力で修得していくからこそ面白味があるんだろう。」
「そこまで言うならまあいいだろう。では、鳩刃翔一よ、お前の異世界ライフが幕を開けるぞ!」
さて、気を引き締めていくとするか。それにしても、冒険者と探偵の二足のわらじと言うのも面白い組み合わせだ。
「異世界に送るのもこれで何度目か。果たして、奴はアタリ、なのだろうか…。」
翔一が転生するのを見届けると老人は不適な笑みを浮かべ呟いた。
あの老人と別れ、気がついたら先程とはまた異なる光景が浮かぶ。この世界こそが魔王が全ての支配を企む件の異世界なのだろう。ふと傍の川を見ると翔一は驚きの声をあげた。
「一体どうなっているんだ!女になっている、だと…!」
水面に映る顔は翔一のそれではなかった。そこには代わりに長い金髪に碧眼の女の顔があった。服装も、スーツではあるものの気に入っていた白いそれではなく、黒を基調としたものとなっていた。
「全く、本当に異世界とは何でもありだな…。」
どうにもならないので一旦この事は忘れ、暫く歩いていると見えてきた街シュタインウッドに滞在することにした。
今回もお読みいただきありがとうございます。
次回は「冒険者で探偵」となる話を予定しております。