シン・ストロングゼロ 破
【注意!】
本作はこれまでのストロングゼロ文学シリーズの総決算として書かれたものです。
もしあなたがストロングゼロ文学シリーズの他の作品をまだ読んでいないのであればどうか、そちらから先にお読みください。
どれも短く、そして笑える仕上がりになっております。
他の作品を読了してから本作を読み進めていただければきっと、これまで味わったことのない感動の読書トリップ体験が出来ることでしょう。
シリーズをここまで追ってくださっている方はどうか心して、読み進めてください。
本作はストロングゼロ文学シリーズ最終作となります。最後にして最大の衝撃に備えてください。
では、心の準備が出来た方からお読みください。
東京拘置所
PM14:00
「アナタがこの俺に面会とは珍しいですね。何か、緊急の案件でしょうかね?」
脂っぽいやや癖のある黒髪と伸ばし放題の無精髭さえ無ければ、アクリル板の向こうにいるこの男はそこそこの美男子であるように見える。長年にわたるブラック労働が彼から精気を奪い、そして正義すら、奪い去ったのであった。
「ええ、アクシデント発生よ。今すぐ貴方の……いえ、貴方達の力が必要になったわ」
研ぎ澄まされた美貌の女性は細身のパンツスーツを着用し、モデル顔負けの長い脚を組んで椅子に座っていた。日本有数の大富豪令嬢、そして合衆国大統領特使、英語と日本語、モールス信号の三か国語を操るトライリンガル。
「お話を、伺いましょうか……大吟醸粕子特使」
「私は弁護士じゃないからね。あと9分で今起こっていることを全て説明して貴方の合意を得てみせるわ。そして貴方をここから連れ出します」
「俺をブタ箱へ放り込んだのはこの国のお偉いさん達だぜ? 合衆国大統領特使だからって、そんな無茶が通るかよ」
「超法規的措置、あるいは司法取引というのもいいわね」
「ここは日本だぜ?」
「合衆国も日本も、同じ“地球”には違いないわ。悠長なことを言っていては世界が滅びる。このままだとあと1時間後には東京は熱核攻撃を受けて焦土と化すわ」
「……一体何が起こったんだ?」
「手短に説明する。ベターな判断をお願いするわ、黒木勤さん。いえ……酩酊戦隊ストロングレンジャーのストロングブラックさんとお呼びすればいいかしら?」
山手線五反田駅
PM15:00
「オエェェェェェォオン!!!」
ストロングゼロが我が物顔でビルを破壊しながら進行を続けていた。一帯は既にストロングゼロが散布する高濃度エチルアルコールミストに汚染されている。防護服なしで近づくのは自殺行為である!
「グワーッ! 酩酊!!」
酔っぱらってのたうち回る男!
「ストロングゼロ! もっとストロングゼロをちょうだい!!」
気が狂ってストロングゼロの蛇口に取りつきガブ飲みするOL!
「あぁ~、酔いが回って暑いなぁ」
公衆の面前で服を脱ぎ始める奴! アブナイ!
恐るべき巨大不明アルミ缶は周囲を地獄へと変えながら北東へとゆっくり進んでゆく。
「ストロングゼロをくれえぇ……」
「ちょうだい、ちょうだいよぉ……」
酒に脳細胞を破壊されて生きる屍と化した人々がふらふらと行進する。18世紀ロンドンの“ジン横丁”めいた悪夢じみた光景!
だがしかし!! 突如、人々の体から緑色の光が発生して体力を回復させ酔いを吹き飛ばした!!
漆黒のローブをまとった男が人々の間を縫うようにして歩き、呪文を唱えるにつれ一人、また一人と正気に戻ってゆく。これは一体どうしたことであろうか。
「おお、頭がスッキリしたぞ!」
「アルコールが、抜けた!?」
酔いすぎて急性アルコール中毒死する寸前だった人々は我に返って、歓喜の声を上げる。
「あなたは一体誰なんです!?」
問いかけられた黒ローブの男は振り返らず、こう答えた。
「俺の名は聖・トリィ。異世界帰りの、ただの魔法使いさ」
首相官邸
同時刻
「総理! 早くお逃げください!」
山崎内閣官房副長官が全裸で告げる。
「山崎くん、君、なんでさっきから服を着ていないの?」
「そんなささいなことを気にしている場合でしょうか!? 早く、ヘリに!」
「総理ーーー!!! 大変です!!!!!」
余市防衛大臣がスピニングバードキックを繰り出しながら乱入!
「もぅ~、今度は何?」
「はっ! ストロングゼロの皮膚組織を培養検査したところ、この地球上には存在しない未知の有機化合物が検出されました!」
「うんうん、それで?」
「この有機化合物は地球環境下では極めて不安定であり、何らかの刺激によって原子核変換する可能性が浮上いたしました! つまり奴はこれ以降も更に進化する可能性があり、爆破処理した場合、吹き飛んだ細胞片から群体化、あるいは今よりも遥かに巨大化するかもしれない、と」
「ちょっ! じゃあどうすればいいのよ? もうあの人は核ミサイル撃つ気マンマンよ?」
ホワイトハウス
同時刻
「トリップ大統領! 貧乏揺すりはよしてください!」
国防長官が核攻撃指令を出したくてウズウズしている大統領を諌める。
「だって! もう約束の時間過ぎてるよ?」
「事態に新たな進展があった模様です。熱核攻撃は逆にあのアルミ缶を進化させてしまうかもしれないとのことです。より詳細な報告があるまで攻撃は中止です」
「そんなぁ~! せっかくのチャンスなのに! ド派手に核ミサイルぶっ放す機会なんか滅多にないんだよ! しかも日本なら無茶苦茶やっても文句言ってこないんだからシチュエーション的にも最高じゃん」
この舐め腐った態度である! が、そこへ緊急入電! 国防長官が素早く受話器を取る。
「何っ!? カッス特使が! それは本当か? 間違いないな? ……動くのだな!? よし、わかった」
「どうしたっていうのさ?」
「大統領、いい報せと悪い報せがあります」
「……いい報せだけ聞いちゃダメ?」
「かしこまりました。熱核攻撃は中止です」
「ってそれ、どこがいい報せなのさぁ!? で、悪い方は?」
「我々が半世紀以上に渡って隠蔽し続けてきた“地球外の兵器”が、白日の下にさらされます」
「!? あれを、使うというのか!? しかし適合者は今、逮捕されて勾留中だろ!?」
「カッス特使が、繋いでくれました。我々人類の最後の希望……」
東京ドーム
PM15:30
「まさかこんなところに格納庫があったなんてね」
大吟醸粕子は驚きを隠せない。東京ドームの地下に、巨大ロボットの格納庫があったとは。こんな都会のど真ん中で、よくぞこれまで大衆に露呈せず巨大兵器を隠し通せたものだ。
「もう何十年も使われていないからな。まだここが後楽園球場、なんて呼ばれていた時代から、あのロボは眠ったままなのさ」
黒木勤、ストロングブラックも随分長いことロボを目にしていない。適合者としてストロングレンジャーの中で唯一あのロボを操縦できる資格を持つ彼だが、あれは表に出すにはあまりにも危険すぎる兵器だ。
「そんな骨董品が、今でもちゃんと動くのかしら?」
「あいつは単なるロボじゃない。ストロングゼロ因子という言葉、聞いたことあるか?」
「いいえ」
「今暴れまわっているあのアルミ缶も恐らく、そいつが暴走したものだ。ストロングゼロ因子というのは、俺たちがいるこの世界と平行して存在する別の世界からやってきたものなんだ」
「それって……平行宇宙のこと?」
「フィクションの中だけの話だと思ってたかい? あるのさ。見えていないだけで、“世界”は無数に存在する。これは合衆国の軍事機密事項だが、その昔、ネバダ州南部のとある空軍基地に、墜落した未確認飛行物体が秘密裏に運び込まれた。エリア51、一般的にはUFO絡みの事件だと思われているが実際には違う。そいつは、落ちてきたんじゃない。現れたんだ。時空を越えて、別世界から」
どこまでも続くかのように錯覚しそうな長い地下通路。二人が進む度にセンサーが感知して周辺のライトをつける。キラキラと舞う埃は、長いこと、この通路を誰も通ってはいないことを告げている。
「それが貴方の言うロボ、なのね。にしてもやけに詳しいわね」
「昨夜、夢を見たんだ」
「夢?」
「誰かが、俺に語ってくれた。平行世界のこと、ストロングゼロ因子の正体、そして……」
地下通路の最奥には巨大な空間が広がっていた。そこに、“それ”は置かれていた。
人感センサーが、格納庫の天井のライトを一斉に点灯させる。
「こいつが存在する意味も」
銀色の輝きを放つアルミ缶ロボット。一体どれだけの時間、ここで眠っていたのだろうか。年月の経過をまるで感じさせない、錆び一つないボディ。
「これが……ストロングゼロボなのね」
「あぁ、そしてこいつを動かせるのはストロングゼロ因子に適合した者のみ」
ブラックが言った時、複数の靴音が地下通路に反響した。
「やはり、来たか」
「えっ!?」
ブラックと粕子は長い長い地下通路の向こうに、3つの人影を見た。
「俺達はみな、ストロングゼロ因子に選ばれた存在なんだ」
「“俺達”ってまさか……」
「何だ、アナタがあいつらを呼んだんじゃないんですか。なら、俺と同じかな……例の夢に、導かれたか」
ストロングレッド、ストロングイエロー、ストロングピンク。
酩酊戦隊のメンバーはブラックが予測した通り、謎の存在によって招かれてここへやってきたのである!
決戦の時は、刻一刻と近づいてた。
……To Be Continued