シン・ストロングゼロ 序
何という事であろうか……このストロングゼロ文学は連載ッ!!! 短編では無く連載ッッッ!!!!!
逃げ惑う人々の背後に聳え立つ威容!
身長120メートル、体重10万トンにも及ぶそのアルミ缶は、どっかの島の古き伝承の中にある、この世界に破滅をもたらすとされる存在、主鐙乱偶絶籠から【ストロングゼロ】と命名された。
「うわぁー! 東京湾アクアラインを破壊し多摩川を遡上しながら急成長を遂げ蒲谷に上陸、東急多摩川線に沿って北西へと進路をとる巨大生物ストロングゼロだぁ!! 逃げろー!!」
「【巨大不明アルミ缶特設災害対策本部】が内閣府によって設置されたものの日本特有の煩雑な事務処理によって対策が遅々として進まない中、山崎内閣官房副長官と白州内閣総理大臣補佐官の決死の裸踊り作戦、通称“電撃裸踊り作戦”によってようやく自衛隊の多摩川防衛ラインによる決死の総攻撃が決定したがビルが崩れるぞー!! 危ない!!」
誰もが恐怖と混乱に包まれる中、悠々と街を蹂躙して進むアルミ缶。
一方、その頃、【巨大不明アルミ缶特設災害対策本部】では。
「ううーん、やっぱり対策本部の看板は立派な方がいいよなぁ。ねぇ、君」
矢部内閣総理大臣が羽根内閣官房長官と重要な議題について激論を交わしていた。
「総理! ご安心ください! 総理がそう仰られるであろうと思いわたくし、既に高名な書道家の方をお招きしております!」
「あら、そうなの? いいじゃない、で、誰よ?」
「堅井雲光先生です!」
「おほぉ~、いいねぇ、そのトイレで気張ってるような名前! いいよ、気合入ってるね! ねぇ、みんな!」
愛想笑いが対策本部を包み込む。そんな事言ってる場合じゃねぇだろ! と誰もが思ってはいるが口には出さない。忖度。
こののんびりした二人に対し、余市防衛大臣が鋭い声で報告!
「多摩川防衛ライン、通称“たまちゃん”、設営完了したとの事です!
ターゲットが作戦エリアに侵入次第、攻撃に移れます!」
「あらぁ~、そうなの? でもホラ、アメリカさんとの合同でしょ? 最近プロ市民が活発だから気を付けてよー?」
「はい! 問題ありません! プロ市民もミサイルで撃墜します!」
「もぅ~、撃ち落としちゃダメでしょうよ!(笑)」
「はい! 軽率でした!」
「ねぇ、書記の人、今のオフレコだから議事録は廃棄でシクヨロ!」
書記官がシュレッダーに書類を投棄!
「ところで総理、作戦空域に米軍のオスプレイが展開しているのですが、市民団体がプラカードを持って抗議しております! いかがいたしますか? 巨大不明アルミ缶が迫っているにも関わらず、どいてくれません!」
「ちょっと! 作戦遂行できないじゃない! さすがにそのままやっちゃったら後々面倒だなぁ。オスプレイって輸送機でしょ? なんか他のやつに交代させてもらえない?」
「はっ! 承知いたしました! 最新鋭の輸送機メスプレイに交代させます!」
30分後……
「総理! 大変です! 女性の権利団体がメスプレイは性的搾取! といって抗議を始めてしまいました! 巨大不明アルミ缶がそれなりに迫っているにも関わらず、どいてくれません!」
「いやいや、名前だけでしょ? もぅ~、なんか他のやつないの?」
「はっ! とっておきのをご用意いたします!」
ユリイィィィン、ユリイィィィン……
二つの回転翼が動き出し、その尊きシルエットを空へ浮かび上がらせた。自衛隊目黒駐屯地より最新鋭の垂直離着陸機“レズプレイ”が飛び立つ。操縦桿を握る米国人ユーリ・コレガスキーは緊張した面持ちであった。
「というわけで総理、レズプレイ、無事に作戦エリアへ到着しました!」
「うん、今回は抗議とか起きてないわけね?」
「はっ! 尊さのあまり人々が避難を忘れて祈りを捧げています!」
「うん、もうそういう人達は放っといて。あ、書記の人、オフレコだよ」
シュレッダーが唸りを上げる!
「あっ! 総理! 統合幕僚長より入電が入っております!」
「うん、どういった用件?」
「・-・・・ ・-・ ・-・・ ---・- -・-・・ -・・- --・-・ -・」
「うん、モールス信号だね、それ」
「・・-・・ ・・ ・・- --・-・ -・・- ---・- ・-・・」
「モールス信号のまま私に質問しないでくれる?」
「はっ! 失礼いたしました!」
「---・- ・・-・・ ・-・- ・-・-・ ・・・- ・・ ・---・ ・・ ・-・- ・・-・・ ・・-・・ ・・ -・-- ・-・-- --・-- -・-- ・・ ・-・-- 」
「はっ! 有り難きお言葉! 早速手配させていただきます!」
矢部総理はモールス信号が使える! 意外な趣味!
「あぁっ!? 大変です! 統合幕僚長から更なる入電です!」
「おいおい~、しっかりしてくれたまえよ。てか現場のことは現場で判断してよ~」
「はいっ! 現場で判断すると後々問題になるので小さな疑問でも全て上司へ報告するよう義務付けております。我々は日本人ですから」
「もぅ~、それで、何?」
「ストロングゼロがっ……ストロングゼロが多摩川防衛ライン到達直前で活動停止。その……進化しているようです!!」
「ええっ!?」
「オエェェェェェォオン!!!」
ストロングゼロが天に向かって咆哮した。そしてなんとその全身から未知の突起物が発生した。それは蛇口だった。ひねるとストロングゼロが出てくる禁断の蛇口である。更にこの巨大不明アルミ缶は両肩より二つのシャワーヘッドめいた突起を生み出し、スプリンクラーめいて周辺にストロングゼロ・ミストを散布し始めた!
「大変です! 総理!!」
スライディングで駆け込んできたのは羽根内閣官房長官!
「どうしたの?」
矢部総理はその時、作戦の進行をモニター上で眺めながらストロングゼロで一服しているところだった。昼間っからいい御身分だなっ!?
「緊急のご報告があります! 堅井雲光先生がっ! トイレから出てきません! 報告によればどうやら、その……便秘気味のようであります!!」
「ちょっともう、君、今そんな話どうでもいいでしょ~?(笑)」
「いえ、この書類にハンコを頂かなくてはなりません!」
すっと、官房長官は報告書を差し出す。総理の印鑑が押されていなければ後々野党に突っ込まれる!
なんと! 承認印が10個ぐらい押されている! ということはここに来るまでにこの書類はそれだけの人の手を渡ってきたということだ!
“堅井雲光先生の排泄物出ない問題についての報告書”と書かれた書類に粛々とハンコを押す総理。
「総理! 大変です!」
バク転しながら余市防衛大臣が乱入!
「ストロングゼロの被害が拡大! ターゲットの散布する高濃度エチルアルコールミストによって人々が酩酊しております! 急性アルコール中毒! 酔って暴れまわる者! 街が大混乱に陥っております! あと多摩川防衛ライン突破されました!」
「ちょいちょい~! しれっと報告してるんじゃないよ、君」
「オーマイガッ! ストロングゼロ、進路を変えました!!」
その時、モニターを凝視していた技官が声を張り上げる!
「あぁん! もう! 働き方改革だよ、君ぃ! 定刻になったら私は帰ろうと思ってたのに。残業確定じゃないか! で、どこへ向かってるのよ?」
「進路を大きく北へ……いえ、北東へ変更! このままの速度で進めばあと2時間足らずで」
技官が立ち上がり、絶望的な眼差しで総理を見る。
「国会議事堂、皇居、そして東京駅へ到達します」
「するってぇと何かい、君。もしかしてもしかすると……」
「はい、総理。首相官邸も、直撃ルートです!!」
ざわ……ざわ……
……To Be Continued