決闘する町 4
「メイの準備が出来てもマインが用意できないと行けませんよ」
やれやれ、という感情を表したいのか手を肩の上まで上げるアオイ。
「マインなら既に外だぞ?」
「出来てるよ?」
っと、今ままで閉まっていたはずの扉の外からマインの声がする。
「全く理解出来ませんね」
「こういう準備は昨日のうちからやっとくもんだぞ」
年齢が2桁になって間もない彼女らに化粧をする必要はなく。身支度は簡単。
「誰が戦うんだろうな」
「さあ、行ってみたら分かりますよ」
当たり前のような顔で大量の食料を買い込んだアオイを連れて、コロシアムの席に座る。
『さー、まずは挑戦者から。今日の挑戦者は、こちら!』
アナウンスが鳴り響き、入場口に注目が集まる。そして、大歓声の中、1人の男が現れる。
「えっ、」
「うっ」
アオイが驚き、メイが思わず直視してしまったそれから目をそらす。
「血まみれの旅人さん」
それは、昨日まで元気に宝石を見せびらかしていた、あの旅人だった。
『先日、豪商ガルーダに挑み、見事勝利した強き旅人が今日の挑戦者だー!』
だが、その旅人を赤く染めている血は昨日被った誰かの血ではない。彼自身の血だ。
『そして挑戦を受けたのは序列4位!破壊のゴルギウス!』
反対側から現れたのは大きな剣を持った一体のオーガ。
『さあー、どちらも出揃いました! それでは早速。FIGHT!』
その一言でオーガが動き出す。
骨折しているのか立ち上がることすらまともに出来ない旅人を、その大きな剣で叩く。叩く。叩く。
「酷いですね」
「んー、だが仕方がねぇもんだ」
「あ、パン屋のおじさん」
「おじさんじゃなくてお兄さんなんだが、あれはこの街のルールを知らなかったんだ」
偶然にも隣で観戦してたパン屋の店主が、この国で本当に大事なことを教えてくれる。
「この国にはな、序列ってもんがある。序列が下のものは、上の者に決闘を挑む権利がない。このコロシアムの中以外でな」
それ故に1部の民は上を目指す。
「でもな、別にこのルール。法律で決められてるわけじゃねぇ。いわゆるマナーってやつなんだ」
法律でしっかりと決まっていないマナーなら破っても罰則はない。
「罰がないわけがない。マナーってやつは痛い目見るやつが出ないようにするためのものだ」
旅人はそれを知らずに上位のものに決闘を申し込んでしまった。
「そりゃ、最初は勝てるだろうな。だが、勝ったらさらに強いものが来る。勝つ度にさらに強いヤツと戦うことになる」
武者修行をしたい奴なら問題は無いが、そういう奴ほどマナーというものをわきまえている。
「マナーをわきまえていない欲望まみれの男は、1日で潰れる」
ボコボコにされた旅人が、体験によって地面のシミになる。
「あれが最後だ」
「怖いところなんですね」
「何もしなけりゃ観光客の多い、いい町だ」
挑戦者が死んだことで見る価値を無くしたのか、パン屋の店主を含めてほとんどの客が帰っていく。
「私達は次の町に行きますか?」
「そうだな」
さっさと荷物をまとめて入った時と同じ門から出る。
「楽しめました?」
出る直前、あの、入場管理人に、話しかけられる。
「はい、とっても美味しかったです!」
少し質問の答えとしてはズレている気もするが、彼は満足したように微笑む。
「そうだ、ひとつ聞いてもいいですか?」
「どうぞ?」
「ここの国の人達は何を求めて、何をかけているんですか?」
『負い目があるものは負けを呼ぶ』
初めにここを通った時に見たもの。
「求めているのは順位、プライドだ。金とかその他はそのおまけ。かけているものはもちろん命だよ」
この街での名言を見ながら強く答える。
「負い目、というものは負けるかもしれないという思いじゃない。そんなもの持ってる時点で負けだ。負い目って言うのは甘さだ」
「甘さってことは手加減とか同情とかですか?」
「それと相手に勝とうと卑怯な手を使うとかな」
「喧嘩に卑怯とかあるんですか?」
「もちろんあるさ。勝った時に『俺は正々堂々戦って勝った』と宣言できなくなるような行為。自分がそう思ってしまう行為は卑怯に入る。っと、随分長く引き止めちゃったね」
管理人が儀礼用の剣を構え、マニュアル通りの仕事をする。
「あなたの旅に勝利と終わりが来ますように」
彼らの旅は作者が飽きるまで続きます。