決闘する町 3
『2人ともー、そろそろ柔らかくなりましたかー』
「まだ食べるのか!?」
「ちょっと食べ過ぎ」
アオイに呼ばれて2人が戦場から帰ってくるが、渡してくれる雰囲気ではない。
「何言ってるんですか。そのために剣の形のパンは食べなかったんですよ?」
もう、何を言っても暴論で返されそうな気配を感じ取ったメイは、持っていた剣を遠くに放り投げる。
「え、ちょっ、まって」
アオイの姿が掻き消え、パンの真下あたりに移動する。
そして、そのまま落ちてくるパンを
「バクン」
と、咥えて戻ってくる。
「犬みたいだな」
「ご飯をくれるなら別に犬でもいいですよ?」
「アオイ」
「なんですか、マイン?」
「はい!」
振り向いたアオイの口に向けてダガーを投擲する。
「むぐっ」
普通なら喉の奥に刺さり、そのまま脳を破壊する投擲だが、天使としてダメージを負わないアオイにとっては、ただのパンである。
「おいひぃですね」
口いっぱいにパンを詰め込み、幸せそうなアオイ。
「はあ、」
「大変みたいだな」
「ん、とっても大変」
だが、それもまた楽しいのか、メイもマインも笑顔だ。
「お、あの時の嬢ちゃん達じゃないか」
「あ、旅人さ……ん?」
あの時、入口と逆方向に走っていった男が、突然後ろから話しかけてきた。
「おいおい、どうしたんだ? 変なものでも見つけたような顔をして」
「血まみれになってるところを見たら誰だってこんな顔になりますよ」
アオイの感想通り、その男の服は血で真っ赤に染まっていた。
「別に俺の血じゃねぇよ。金持ちっぽいやつに決闘を申し込んで、買っただけだ」
ほら、といくつかの宝石類を見せる。
「怖い人だったんですね」
「旅人やってんなら襲ってきた盗賊を返り討ちにした経験ぐらいあるだろ? それの延長だよ」
「そう……ですね」
男は言いたいことだけを言ってスタスタとどこかへ行ってしまう。
「私達はどうします?」
「もう遅いし、一旦ホテルに戻るか」
先程借りた部屋に戻り、ふかふかのベッドにダイブすると、そのまま眠りに着いてしまう。
「全く、子供だな」
すやすやと眠りにつくマインとアオイを眺めながら、この中で最年少のメイが呟く。
メイ自身もとても眠いのだが、剣の手入れなど、しなければならないことを先に終わらす。
「さて、おやすみアオイ、メイ」
「ほら、起きてください! 朝でーすよー」
「むー、早すぎ」
「随分と寝起きがいいんだな」
朝っぱらから騒ぐアオイに起こされた2人が声を揃えて
「寝坊役」
「いつも1番遅いのに」
アオイに抗議する。
いつもはアオイが1番遅く、起こすのがメイたちの役目だったと言っても、起きなければいけないことに変わりはない。
「しかしアオイがこんなに早く起きるなんて」
「今日の朝ごはんは美味しそう?」
「私がいつもご飯のことだけ考えてると思ってませんか!?」
アフリカゾウ並に食料を消費するやつが何言ってんだという目でアオイを見ながら全力で頷く。
「ひ、酷すぎる」
「それで、何かあったのか?」
「街の中心にあるコロシアムで決闘が行われるらしいですよ」
「なんだ、それなら早く言え」
メイが爆速で準備を整える。そして扉に手をかけてアオイに顔を向ける。
「なにをぼーっとしてるんだ?早く行くぞ?」