魔王の住む街 1
「アオイ、これ」
「ん? なんですか」
マインが1枚の紙を持って走ってくる。
ここは小さな村で、物資を補給するために寄った。マインには村長らしき人物にこの辺りの地理を聞いてくるように頼んだはずだ。
「地図持ってきた」
「おお、流石マイン仕事が早いですね」
褒めてほしそうに見つめてくるマインの頭を撫でてあげる。
「んー、近くに丁度よさそうな街がありますね」
「あ、そこ魔王の町だって」
「じゃあ迂回しましょうか」
「何を言っているんだ? もちろん行くに決まってるだろ」
後ろからぬいーっと手が伸びてきて地図が取られる。
「突然現れて何するんですか、メイ」
「アオイはこの旅の目的を忘れてるのか?」
「目的ですか?」
「帰るところがない私とアオイのために移住できるとこを見つける?」
「大正解です!」
よく分かってますねー、とマインに抱きつきながら頭を撫でまわす。
「な、に、が、大正解だ。魔王を倒すのが目的だぞ」
「堅いですね」
「それが騎士というものだ」
この頃メイが騎士なのか勇者なのか分からなくなってきた。まあ、勇者騎士ということで置いておいて、その魔王の町とやらに向かってみる。
「しかしいい村でしたね」
「確かにいい村だったが帰らないぞ」
「む、クライマックスには少し早いんじゃないですか?」
「アオイも勇者ならもっと好戦的にならないとだな」
「私は天使なので平和的に行くんですよ」
何やらグチグチ言ってるアオイの頭に騎士の拳がグリグリと突き刺さっている頃。魔王の町というのが見えてくる。
「これが魔王の街ですか」
「ん、普通」
「そうだな。確かに普通だ」
その町は外観も、門番も普通な町で、魔王に虐げられているようには見えない。
「なあ、少し聞きたいことがあるんだがいいか?」
「嬢ちゃん? こんなものがあるんだが、どうだい?」
雑貨屋らしきものの店主に聞こうとすると、店主から1つの携帯食料を見せられる。
「はぁ、わかった。買わせて頂こう」
「毎度あり」
店主がその携帯食料をいくつか包みながら、世間話をしてくれる。
「まあ、旅人さんが気になることっていえば、魔王辺りだろうな。魔王に治められてるって言っても平和なものだぜ?」
商魂逞しい商人が金をもらって言うんだ、たしかにこの町は平和なのだろう。
「なら、なぜ魔王の町と、いや、なぜ魔王がここにいるんだ?」
「んー、ここが魔王の町って言われるのは俺たちのせいなんだが、まあ、その辺は王さんの方が詳しいかもな」
パンっと包んだ携帯食料を1度軽く叩き、メイに渡す。
「あとは魔王から直々に聞きな。きっと優しく教えてくれるさ」
「せっかく買ったのにあまり詳しく教えてくれませんでしたね」
ちょっと不機嫌なアオイ。
「いや、そうでも無いさ。包み紙にサインまで書いてくれて、王城に入れるようにしてくれたんだからな」
「そのサインがただの店主の趣味ってこともあるじゃないですか」
その2人の言い合いをじーっと見ていたマインが、突然メイの持つ携帯食料の包み紙を奪って走り出す。
「え、マイン!?」
「あ、待て!」
鬼人族特有の身体能力を活かして爆速で城の前まで移動して、門番にそのサインを見せる。
その数十秒後に少し息が上がっているメイと、マラソンを完走したかのようなアオイが到着する。
「ま、マイ、ン、先、に、行くの、はダメ、です、よ」
「どれだけ体力がないんだ! ほら水飲んで少し休め」
マインに話しかけたいものの、先にアオイの方がダウンしそうなのでアオイを先に休ませる。せっかく綺麗な翼持ってるのに飛ばないんだね。
「それで、なんで走り出したのか、分かってるが、1人で行くのは危ないから、次からはやめてくれ」
「騎士相手なら大丈夫?」
「暴漢に襲われたらどうするんだ」
「ん? 暴漢をころ」
「はーい、そこまでです」
騎士の前で、言っちゃいけない言葉を話そうとしたマインの口を手で覆い、その先の言葉をモゴモゴに変える。