眠らない街 1
アオイ、メイ、マインの3人が馬車に乗って街道を走っていた。アオイとメイは馬車の中から外を見て、マインが馬を手繰っている。
「アオイ、街」
そんなマインから報告を受けてアオイが窓から体を出す。
「随分と大きな街ですね」
「とりあえず入れるか聞いてみよう」
街をぐるりと囲う外壁伝いに走っていると、門が見えた。
「おや、旅人さんですか?」
「ああ、街に入ってもいいか?」
「もちろんです、我らが街にようこそ」
門が重々しく空き、アオイ達が中に入る。
門番に教えられた馬車をしまうことの出来るホテルへ向かう途中、マインが周りを見渡して
「ん、目が真っ赤」
「寝不足ですかね」
すれ違う街の人はみんな目が真っ赤に染まっていて、目の下には大きなくまができている。
「ただ、みんな幸せそうなのが不思議だな」
そのまま少し行くと門番に教えられたホテルに着いた。そのホテルは隣に馬車を入れる倉庫がある、大きめの木造建築。
カウンターには受付嬢が1人いて、その娘も目が腫れ、くまが出来ていた。
「一部屋借りたいのだが」
「旅人さんですね。部屋の指定はありますか?」
「いや、3人で泊まることが出来たらそれでいい」
「では、225番の部屋をお使いください」
受付嬢から鍵を受け取ったメイが受付嬢を見つめる。
「どうしてそんなに目が腫れているのか聞いてもいいか?」
「もうすぐ町長が説明に来るので、町長に聞いてください」
「分かった、ありがとう」
3人で借りた部屋まで荷物を運ぶ。
「久しぶりのふかふかベッドですね」
「すぐ来るって言ってたからきちんとしておいて欲しいんだがな」
ベッドに潜り込み、亀のように首だけ出す。そんなアオイにメイが呆れたように、ちょっと叱る。
「失礼してもよろしいかな?」
少し小太りの男が、ドアの前に、立つ。
「どうぞ」
ほら、来たじゃないか。
という言葉を顔に張りつけてアオイを睨みつけるが、既にアオイは首を引っ込めている。
「しかし珍しいな。町長自ら旅人に説明をするなんて」
「確かに珍しいものですな。ただ、ほとんどの旅人が必ずと言ってもいいほど疑問に思うみたいなので、説明することにしたのですよ」
ソファに座り、話し始める。
「まず、お嬢さんの疑問。何故、私たちの目が腫れているのか、でしたね?」
「ああ、」
小太りの、とても健康そうな町長さんでさえ、その目は赤く、くまがある。
「その答えは簡単、寝てないからですな」
「それは分かる。知りたいのは」
「なぜ寝てないのか。そちらも簡単。犯罪を減らすためですよ」
サラッと言ったが、寝ないことと犯罪が減ることは、関係がないように思える。
「ある学者が調べたところ。わが町の事件発生率と、町民の就寝率は比例していることが分かったのです。よく寝てる日は犯罪が多く、また、ほとんどの人が起きている日は少なかった」
「偶然だと思う」
「ええ、私どももそう思いました。しかし、寝ている時は無防備で、夜通し警戒しておけば犯罪者は犯罪を起こせません」
日本で防犯カメラが見回っていることを街の人全員ですると言うのだ。
だが、防犯カメラがあっても、犯罪は起きる。
「みんなが起きている昼間にも、犯罪は怒るんじゃないのか?」
「ええ、起きますとも。ただ、昼間にも寝ている人がいるせいなのですよ」
「それは……」
「旅人さんもどうですか? 寝なければ盗まれる心配も、襲われる心配もありませんよ? 自分の背後も、他の誰かが見ていてくれますから」
黙ってしまったメイとマインに頷きを返しながら腕時計を見る。
「そろそろ夜ごはんの時間ですね。ここの食堂は美味しいですよ」
では、と言って町長が出ていく。
「すごい話でしたね」
結局ベッドに隠れて出てこなかったアオイがようやく首を出す。
「徹夜での見張りですか。原始的ですね」
「だが、町民たちはみんな幸せそうで、騎士もサボってばっかりだ」
騎士を従えていた勇者のメイには、騎士のやる気が高いのは敵が多いことを意味すると知っている。
「きっと、迷子探しが本職なのだろう」
「ん、平和」
窓から外を眺めながら黄昏れるメイの超高性能イヤーがお腹のなる音を察知する。
「アオイ、」
「な、なんですか?」
「夜ご飯にしようか」
「……バレましたか」
「隠そうと思ってたのか?」
ははは、と笑いながら3人で食堂に向かう。