プロローグ1
「初めましてサクラミネ アオイさん」
「あ、どうも初めまして」
さっきまで友達と楽しく話していたのに、突然、白い空間にいて、ヒラヒラした女神っぽい服装の、剣を持った女性の前にいた。
女神っぽい女性の名前はどうでもいいとして、彼女は桜峰 葵。日本の国立学校で1番の成績を持ってる天才様だ。
見たもの感じたもの全てを記憶する記憶体質と、スーパーコンピュータを超える演算能力を持ったアオイに頭脳で勝てるものは誰もいない。
ただ、そんなアオイが、何も考えられず、反射的に挨拶を返すぐらいには、この状況は訳が分からなかった。
「えっと、名前を聞いてもいいですか?」
「私の名前はサーリア、女神です」
女神を名乗る人物を前にして、いくつか今の状況がどんなか考えてみる。
知り合いの爆弾狂みたいに「芸術が爆発なら、爆発は芸術だ」みたいな厨二病の可能性。
何かの病気で突然死し、女神様の元まで来た可能性。
あと、最近読んだラノベみたいに魔王を倒すために呼び出された可能性。
んー、あと夢。
「きっと、夢ですね」
アオイの脳は演算能力と記憶力が化け物なので、夢と現実の差がわかりにくい。ほっぺを引っ張ったらその時の痛みが再現されるって言うのだから夢かどうかを判断するのは難しいのである。
「夢ではないのですが、説明が難しそうですね」
誰かこの世界が夢でないことを証明してくれれば早いのだが、そんなことを待っている暇はなさそうだ。
「実は異世界では周期的に魔王が現れて悪さをしているんです。そして今年で前回から100年目。新しい魔王が誕生する年です」
どうやらラノベ的な展開になったようだ。
「ということはチートを与えられて魔王を倒して来いってことですか?」
「概ねはその通りなんですが、以前、ノルンという女神がチートを与えられた勇者が神を殺す、と予言したので」
「一応、チートを与えずに送ることになってるわけですか」
魔王がどんなのか全く知らないが、少なくともチェスで負けたから魔王辞めるなんてものでは無いことはわかる。
「では、生身で行けってことですか?」
「生身でもある程度生きられる人間を選んだつもりなんですが……」
アオイは現在高校1年生、JKというものだ。世界がごちゃごちゃしてるおかげで、日本にすら軍が存在してる世界ではあるが、頭脳担当のアオイは細く綺麗な手足である。もちろん実は腹筋が割れてますなんてことも無い。
「送ったら潰れちゃいそうですね」
「大型犬でも負けますからね」
純粋な筋力など0にも等しい。というか女子だし筋トレなんかしてなくても文句は言われないはずだ。
「んー、では、私たちと、戦えない程度のスキルを与えますね」
「それなら読心術とかですかね」
「はいっ」
そう言って女神が何やら赤い魔法陣をアオイにぶつける。
ぶつかった瞬間、アオイに女神の心が色として見える。
「綺麗な心ですね」
「心優しい女子ですから」
女神が女『子』なのかどうかは置いておいて、読心術をくれたようだ。
「では送りますね」
「えっと、説明は向こうですか?」
「向こうで歓迎の準備が出来ているみたいなので」
今度は青い魔法陣が地面に現れる。
「あ、最後にひとついいですか?」
「なんですか?」
「───────────────────」
それは、これからもう会えなくなる両親への伝言。それを私の字で書置きとして残しておいて欲しいというもの。
「分かりました。必ず渡しますね」
両親にもう会うことが出来ない。それは両親が死んだとも同然。だが、ほんの1、2文で、最後の言葉を表す。
「では、サクラミネさん」
神が殺されるという予言のため、自分自身が行けないことを悔しく思う。だが、ノルンの予言は必ず当たってしまう。たとえそれが良いことでも悪いことでも、だ。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
青い光に包まれたアオイはこの白い空間から消える。
───────────────────────
1人の少女がいた。
その少女は天才ともてはやされ、多くの大人から期待を受けた。
だけども、彼女の両親はそんな少女に、期待ではなく心配をかけた。
それ故に少女は、社会による重い期待に潰されず、心優しい少女に育った。
これは、そんな1人の少女の美しく、そして悲しいお話。