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天使希望の麻衣ちゃん  作者: タコタコ
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偏屈ジジイの転生物語

世の中バカばかりである。人間の本質、そんなものは偉大な賢者達がすでに考え尽くしている。そして、その考えは、本で調べるといくらでも見つけることができる。しかし、人間というものはそれに気づかず、いつまでたっても考え改めることはない。私はそんな世の中に愛想をつかせ、世を捨て、山に引きこもった。そして何をするでもなく、ただゆっくりと、死を待つ老人だった。

そんなある日、わたしの前に少年が現れた。

「なんだ、道に迷ったのか」


「いえいえ、私はあなたに死を告げに来たのですよ。xxxxさん、お迎えです。」


「そうか、やっとか。これで私もこの世の中から消えて無くなれるのか。さぁ、何処へでも連れて行きなさい。」


「xxxxさん、この世というのは修行の場所であるのです。あなたはこれまで何千、何万回と転生して、今、そのうちの一回が終了いたしました。しかし、あなたはまだ修行の途中です。また、人間として人生をやり直していただきます。」


「ふざけるな。私はこんな世界もうこりごりだ。こんな世界にまた生まれ直すくらいなら、生まれ直した途端に死んでくれる。」


「しかし、それでは堂々巡りなのです。ここだけの話、あなたはかなり修行を積み、あと少しで天使の仲間入りができます。あなたはあと少しのところまで来ているのです。」


「天使になるとどうなるんだ。」


「私も天使の端くれです。私たちは天使としてまた、修業するのです。その先は私にもわかりかねます。しかし、あなたの嫌いな世界との接点は確実に少なくなりますよ。」


「そうかそうか、では、私はその修行とやらを続けることによってこの世界からおさらばできるのだな、いいだろう。さっさと私を転生させなさい。こんな修行すぐに終わらせてくれる。」


「わかりました。それでは早速死んでいただきます。また、機会があればお会いいたしましょう。」


私は泣いていた。転生が成功したのだろうか、私の母親と父親の顔が見える。とても若い。


「麻衣ー、パパですよー。パパって読んでごらーん?」


「あうあうあうあー。えあぁ。バーブバー」

(何だと?ふざけるな、この私がそんなこと言う訳ないだろう。そんなことより貴様は誰で、ここはどこだ、何だこの檻はさっさと出せ。)


「パパ、まだ生まれて4ヶ月ですよ、まだ難しいかなー」


「そうだよな笑。麻衣にはまだ早いか笑。それより、はい、ミルクですよー。」


そう言って父親は私の口の中に哺乳瓶を突っ込んできた。何という屈辱。こんなものは飲みたくない。さっさとどけろ!どけないか!


「うぁぁぁぁぁぁん!」

(くそったれがー!!!)


「あー、今はお腹が空いていないのかもねー。パパ、やめておきましょう。」


「そうか、ごめんよー麻衣。あーよちよち。」


いつか確実に痛い目を見せてくれる。この父親、ただじゃおかない。しかし、なんだ。その哺乳瓶貰ってやらんことも無い。さあ、渡すんだ。


そんな私も大きくなり、小学生となった。名前は佐々木麻衣。私の容姿はかなり整っているそうで、小学生のガキどものラブレターが何通も届いた。全てゴミ箱行きではあったが。しかし、当然同性からの評判は良くない。何度も上履きを隠され、何度もランドセルの中に墨汁が散乱していた。犯人はその後二度と立ち直れない程の恐怖を与えたが。


ある日、私の元へ幸の薄そうな顔をした女が話しかけてきた。


「佐々木ちゃん、私吉田さんたちからいじめられてるのだけれど、どうにか佐々木ちゃん助けてくれないかな?佐々木ちゃんがこの間吉田さんをコテンパンにしてるのを見て……。助けて欲しいの!」


同じクラスの西村とかいう女子だった。こいつはいつもおとおどしていて、クラスの女子に嫌がらせを受けていた。


「嫌よ、あんなものに構っていても何にもならないもの。時間の無駄よ。」


「私、本当に辛いの。もう、本当に許せなくて…。あのね、イジメグループのリーダーの吉田さん、小池くんのことが好きみたいなの。でもね、小池くんは佐々木ちゃんのことが好きみたいなの…。そこで、佐々木ちゃんが小池くんと付き合ったら、吉田さんに仕返しができると思って…」


くだらない。そんなことをしても何にもならないのだ、問題はそこじゃない、こいつは何もわかっちゃいない。しかし、こいつはバカである。こいつにいちいち説明したって何にもならないのだ。私はわかっている。前世からそうである。バカに何を言っても仕方がないのだ。だからこんな世の中から消えて無くなりたいのだ。


「いやよ。そんなことしてる時間ないもの。あなたが勝手に小池君とでも付き合ってしまえばいいじゃない。私を巻き込まないで。」


「お願い!頼れるのは佐々木ちゃんしか居ないの!」


「じゃあ、あなたがいじめられている時に仕返しをすれば良いじゃない、私には関係がないわ。」


「だって、怖くて…。私どうしようもなくて…」


「私、あなたみたいな自分で何もできない人間は嫌いなの。あなたが強く生きれば、あの人たちだってあなたにいちいちつきまとわないんじゃない?周りの人間はどうあがいたって変えることはできないわ。あなたが変えられるのは、あなた自身だけよ。そんなに嫌なら、学校なんて来なくてもいいんじゃない?。」


「……」


西村はどこかに消えていった。


数日後、事件は起きた。

西村が、吉田を階段から突き落としたのだった。吉田は腕を骨折し、入院した。西村は度々職員室にお呼ばれしていた。事件の一週間後、教師がクラスに向けていった。


「吉田は西村に嫌がらせをしていたらしいんだ。吉田は今全治3ヶ月の怪我をして入院している。私は悲しい。どうしてお前たちは止めてやらなかったんだ。そうしたらこんな事態にはならなかったんだ。私は吉田も、西村も悪いと思うが、それ以上にクラスのお前たちの責任でもあると思っている。いじめを傍観するのはいじめに加担しているのと同じなんだ!」


くだらない。私は早く帰りたいのだ。もう放課後だ。これ以上はサービス残業だ。ふざけるな。私を巻き込むな。


「お前ら目を閉じて、自分の心に聞いてみろ。おまえらは、西村の気持ちを考えたことがなかったのか?ひどいことを何故許すことができたんだ?あの時自分にできることはなかったのか?…」


くだらない。私は帰る。


「先生、時間の無駄なので帰ります。」


クラス中の人間が私をみた。教師は信じられないというような顔で私をみていた。しかし、私は全く動じなかった。


「なんだって?今なんて言ったんだ佐々木。お前は西村の気持ちを考えることができないのか?こんな事態になっているのに帰るだと?ふざけるな!」


この私と口論だと?。良い度胸だ。青二才め、年季の違いというものをみせつけてやる。


「先生、あなたは何故こんな事態になったと思うんですか?」


「それはお前たちがイジメを放っておいたからだ!イジメがあったら止めるのが人間として当たり前だ!」


こいつはバカだ。物事の本質が見えちゃいない。何も考えていない。こういう思考停止した人間が世の中ほとんどだ。これだから世の中は腐っているのだ。


「それは違う。いじめの本質はそこにはない。ほとんどの小学校でも中学校でも高校でも、いじめは存在する。そして、そこには加害者、被害者、傍観者が存在する。そうだな、その中でも、被害者が1割、加害者が1割、傍観者が8割というところだろう。では、お前の理論だと、8割の人間がもはや人間では無いと言うことになる。しかしそれは違う。むしろ、そいつらこそが人間なのだ。捕食者が獲物を追っているのを助ける動物がいるか?。みすみす自分から攻撃される可能性を作るか?違うだろう。これは当たり前の自然の摂理なのだ。問題はそこでは無い。問題はこのクラス、いや、この教育システム自体にある。」


「何を言ってるんだ。佐々木、お前…」


「小中高とイジメがはびこっているが、大学でのいじめはそれに比べると少なくなる。そして、大学を卒業して、就職をすると、またそこでもイジメが横行する。では、何故大学ではイジメが少なくなるのか。それは、束縛するものがないからだ。」


「どう言う意味だ。」


私はありったけの皮肉を込めて髪の毛を払い、言ってやった。


「少しは自分で考えたらどうなんだ。仕方がない、愚かでどうしようもない貴様に私がわかりやすく説明してやろう。感謝するんだな。」


教師は分かりやすく腹を立てていた。


「…佐々木」


しかし、私は口撃の手を緩めない。口を緩めない、か。


「そもそも人間はそういう生き物なんだ。どの時代でもいじめはあった。大昔からどんな子供、大人の間でも、王宮、村、町、職場と場所を変えていじめというものは存在したんだ。そこに共通するものはなんだ。それは、束縛だよ。そこから逃れることができないという束縛のせいで、嫌いな人間とも共存しなければならなかったのだ。そんな環境の中であれば、当然関係性も歪んでくる。いや、むしろ歪む事が当たり前だから、歪んでいないのかもしれないが。しかし、解決策はある。私が考えるところ、2つだ。」


「……」


「1つは全く人と関わらない事だ。当たり前の話だが。しかし、それでは社会生活を営めないだろう。そこで、さっきの大学の話だ。束縛を無くしてしまうんだよ。自分の好きな授業を好きなだけ受けることの出来る形態を取れば良い。もしくは…学校自体をなくしてしまうことだな。そうすれば嫌な人間から離れる事ができるだろう?。嫌な人間関係が出来なければいじめるなんて発想にはならない。それに、束縛をなくすことで、自分の好きなことを始めるはずだ。自分の好きなことに夢中になっている人間がわざわざいじめなんてするか?。

大体、いじめをするななんて、そもそも無理な話なんだよ、そこら辺の近所のガキを寄せ集めて1つの箱の中に閉じ込めておいて、人間関係が良好になんかなるわけ無い。大の大人たちの間でさえいじめは横行してるのだからな。

しかし、それにしても愚かな人間はいつまでたっても減らないものだなぁ。こんな事は人間の歴史を振り返れば簡単にわかる事なのだ。ましてや子供にそんな聖人君子のような振る舞いを求めるのか?お前はこの子供達に一体何を求めているのだ?人間のイジメの生態を理解してイジメが起きないシステムを構築するのが大人の仕事だろう?お前はただのでかいガキだな。」


そうさ、愚かな人間たちには私が啓蒙してやらなければならないのだ。


「そんなことできるわけないだろう。何を馬鹿なことを言ってるんだ!学校に行かなければ常識も身に付かないし、協調性を育むこともできないだろ!学校に行かずに、遊んでばかりいるような人間になったらどうする!そんなことをしたら、日本は無茶苦茶になるだろう!」


「いいか、常識なんてものは糞食らえなんだよ。大体、常識なんてものが大事なら、人間のデフォルトとして備わっておけばいいのだ。しかし、毎回毎回常識を教育し直している。という事は、人間のDNAは、常識は時代によって変わることを理解しているのだよ。だからわざわざ人間の脳みそを白紙の状態でこの世に送り出すのだ。そんなものを絶対的なこととして捉えるのはバカのする事だ!」


しかし…、私はそこでふと思い出した。そうだった、これだったのだ、私が山に引きこもった理由は。この愚かな人間どもを更生することなどできやしない。さっき私が西村に言った通りではないか。私は、何を偉そうに語っているんだ。他人を変えることはできないと言ったのは私自身では無いか。私は西村と何が違うのだろうか。私は、この無力感に絶望したのだった。私も、愚かだ。


そして、その瞬間、時が止まった。目の前には天使がいた。


「そうです。そこからなのですよxxxxさん。それがあなたの未熟さなのです。その問題をクリアしないことにはあなたは天使にはなれないのです。まだまだ道のりは長いですよ。しかし、あなたは自分の愚かさに気づいた。大きな一歩です。ここから始まるのです、あなたの今世の修行が。」


そして時が動き始めた。私は口撃をやめた。


「いや、すいませんでした。席に戻ります。」


教師は拍子抜けしていたが、気を取り直してまた下らない説教を始めた。わたしの耳にはそんな言葉は全く入って来ず、私はただただ沈黙していた。


続く。











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