その眼に映るのは
オレはある国の小さな街に生まれた。名前はアレスだ。今年で15歳になる。家族は母と父の3人家族だ。
オレは毎日が退屈だった。オレを満たしてくれるものは何もない。普通の日常が苦痛でしかなかった。オレには才能があった。勉強も運動も何もかも常に一番をとってしまうことができる。毎日学習時間を10時間以上とったり、汗水垂らして誰よりも多く練習をしたりなんてことはしてない。何も特別なことはしていないのだ。
世間一般的にオレのような奴を天才というのだろう。かの有名な発明王は「天才とは99%の努力と1%のひらめき」などといったそうだが、オレはそれに当てはまらない。その言葉通りの天才が人口だとするならオレは天然と言えるだろう。だからオレは15歳にして世界の何もかもに飽きてしまった。
一応学び舎には行っている。親が言うには何もかも一人でできてもいつかきっと一人では手に余らない事態が来る。だから友達はしっかり作っておきなさいと言うのだ。オレはしぶしぶ従っている。だがオレの性格も相まって友達などできていない。オレは一人でも困らない。だから積極的に友達を作ろうとは思わない。
ある日学校の行事で写生大会というものが行われた。外へ出て何か題材を見つけ絵を描くというものだ。朝から帰宅時間まで行われるそうで、時間内に描き上げなければならない。そんなものオレにとっては児戯に等しい。オレはさっさと描き上げ時間を持て余す。
「さて、どうしたものか・・・。」
オレは手持ち無沙汰に、銀色の十字架のネックレスを触りながら考える。残り時間は7時間もある。オレはふと写生大会が始まる前に先生が言っていたことを思い出した。なんでも、絶対に森に入ってはいけないそうだ。猛獣などの危険があるから行ってはいけないというのだ。子供に注意するのならその程度の理由で十分だろう。だがオレには変に思えた。何か隠し事があるのではないかと少し興味が湧いた。ただオレを満足させるだけの何かはあるわけがないのだが。退屈しのぎに敢えて先生の注意を無視して森に入ることにする。森に何があるのか知りたくなったのだ。
森はまだ昼間だというのに不気味なほど暗い。微かに動物の鳴き声も聞こえる。別にオレは怖いとは思わなかった。逆にオレをあっと驚かせるようなことがないかと周りを見渡しながら森の奥へ奥へと進んでいった。
森の中は木の葉の間から少し光が漏れる程度でほとんど光はない。来た道を振り返ってみるともう入り口の光は見えない。ましてやそこら中同じ景色に見える。これでは目印をつけない限り元の入り口に帰ることはできない。
止まっていても仕方がないので足を進める。何分歩いただろうか。オレの歩く方向に光が見えた。なんだ、結局何もなかったじゃないか。期待外れだ。少しは満足させるものが何かあるかもしれないと思ったのに。とその時は思っていた。しかし森から出るとそこはオレの知らない場所。一瞬森の反対側に出てしまったのかと思ったが、そんなにこの森は小さくないと考え直す。ならばここはどこなのか考える。
まず目の前にはとてつもなく広い大地。この森は高台になっているのか遠くにうっすらと街のようなものが見える。次に目についたのは今まさにオレの上を通っていた巨大な怪鳥。ここは本当にオレの住んでいたところと同じ世界なのかと思ってしまう。ただオレは世界の全てを知っているわけではないので、もしかしたらこういう場所もあるのかもしれないと無理やり納得させた。とにかくこうしていても仕方ないのでまた森に入り帰り道を探すことにした。
だがどれだけ歩いても元の場所にもどてきてしまう。そしてオレはあることに気づく。一定地点に行くと進んでも折り返すかのように勝手に出口の方向に進んでしまう。自分では真っ直ぐ一本道を歩いているつもりなのだ。だが実際、オレはずっと森の出口とその一定地点を行き来していただけなのだ。なぜかわからず仕方なく森の出口に出る。
先ほどと変わらず広大な大地が広がっているだけ。中からダメなら外からなんとかならないかと森の外観を観察することにする。ただ、出口からでは森が大きすぎるのか全体を見ることができない。なので少し進み遠くから森を観察することにした。
そしてそこでオレは不思議なものを見た。森の中央にとてつもなく大きい木が空を突き刺すかのごとくそびえ立っている。周りの木々と比べても何倍も大きい。だがオレの入った森にはこんな木はないのだ。こんなに大きい木があるのなら校舎からいつも見えるはずだ。だがオレはこんな大きい木は知らない。見たことがない。オレが森に入っている間に一本の木が急成長でもしない限り。そしてさらにオレはありえないものを見た。
「なっ……!」
海よりも、大地よりも広い空に
月が二つあるのだ。
比喩表現でなく言葉のまま。
夜空を照らし、時には暗闇を作り出すあの月が。
二つあるのだ。