初めての祭祀
そこは、物理と空理を修め、真理へと至った世界。
そこに生きる人々は、母なる惑星の大地を天に浮かせ、そこに街を築き暮らし、夜空の海へと乗り出してゆく。
彼等は、自らを第十一支族と名乗る者達。
そんな彼等エルフの母星にて、唯一と言ってもよい青い海に浮かぶ地に住まう者達が居る。聖なる地にて祭祀を司る者と、その者の世話を担う者達だ。
祭祀を司る者は、第十一支族の中でも最も尊き血脈の中から選ばれた者――斎王である。
その日、今代の斎王による祭祀が執り行われていた。
数ある祭祀の中で、今では取り分けて重要とは看做される事の無くなったその祭祀は、しかしこの斎王自身には、重要な意味があった。
形骸化され、本来の形を失った略式でありながら、そこに注ぐ斎王の想いは本物であり、またその力も本物であった。
であれば、その祭祀は成って然るべきである。
けれどもこの斎王は、斎拗であった。つまりは瑕疵があり、不完全であったのだ。それ故に祭祀の結果も、成功なれど不完全なものとなった。
後に『無色の斎王』と呼ばれ歴史に残る彼女の、初めて奉仕した祭祀――『救世の闡提』は、特筆すべき事柄も無く終った。
しかし、この祭祀が、ある意味で成功し、ある意味で失敗に終わった事を、この時はまだ、奉仕した当人である斎王さえも知り得なかった。