人生を変える者
※処女作故拙い文章になりますが、読んでいただけたら幸いです。更新は週一を目処に頑張っていきたいです。
仕事を失い早くも三年。俺こと河原 俊輔は、毎日同じ事を繰り返して日常を貪っていた。
ぼろアパートの一室で起床し、今日もお気に入りのシャツに中古で買ったデニムと革ジャンを着て、近くのパチンコ店へ。
外はいつもと変わらない。晴れているか曇っているか、雨が降っているかとそんな程度。
テンポのよいBGMが耳に入ってくる。早朝から並び、気づけば開店していて、適当な台を選んで終日時間を潰すのだ。
携帯も、腕時計もない。頼れるのは体内時計と、近くのコンビニの時計。今日も一日が始まる。
金はあるのかと聞かれたら、前日の儲け分である換金前の景品と、財布の中の三千円程度が今のところの資金だと彼は言う。
そして毎日の低レートによる遊戯でのローリスクローリターンこそが彼の立ち回りであり、これこそが必勝と俺は思っている。
「お。早いな。」
千円分での当たりとはツイている。この当たりを無駄にしないよう台の見極めはしっかりとしておきたい。
ちらりと台に設置してあるデジタル時計に目をやる。
(結構続くな。)
人間同じ所、同じ姿勢で座ってたら身体の節々が痛むもの。開店から二時間と経っていたのならも喉も渇いてくる。台に顔を向ければさっき引いたボーナスゲームが続いている。そろそろ何か飲み物でもと立ち上がろうとしたところで、自分の肩を叩く奴がいた。
「よぉ、出てるかい?」
お楽しみな気分を害したやつが他人なら不快に思うのが人間だが、そいつはよく知る顔だった。
「あん?あ、おめぇかよ。」
パチンコ仲間の三塚だった。
相も変わらずニヤニヤしてやがる。今日も自慢か何かかと、呆れ半分、楽しみ半分な俊輔は、この男が意外と嫌いではない。つられて俺も笑ってしまう。
「でてるよ。今日はツイてる。珍しくお前に奢れるかもだぞ?」
太めのお腹を軽くはたきながらこっちもにやけ顔での自慢だ。いつも奢られる立場な俊輔は、今は気分がいい。気まぐれにこの男に奢ってやろうと考えたのだった。
「お。そいつぁ珍しいこともあるもんだな。じゃあお言葉に甘えましょうかね。」
実際のところ、偶然かどうだったか等、どうでもいい。こいつが良いタイミングで現れて、儲けた俺に奢ってもらう為に声をかけたんだという事実など。
「じゃあ、そのあたり分、消化したら、いつもんとこな。待ってるぜ。」
そういいながら踵を返し去っていく。後ろ手でひらひらと手を振る様はぶっちゃけいらっと来るものがあるが、今日の俺は寛大だ。許してやろう。
そうと決まれば、時間も有限である。さっさと消化すべく、台に座りなおす。
だが、これは幸か不幸か、当たりのゲーム数はどんどん増加。結局閉店間近まで続いた。
(おいおいやっちまったな。こいつはすげぇや。しばらく遊んでいられるわ…。)
出球を交換しつつ、携帯を開く。今は珍しいだろうガラケーだ。
カウンターの店員は愛想よく振舞ってるだろうが、今日目の前にいる店員の顔はやや引きつっている。
それもそのはず。地元じゃ数少ないパチンコ店の只でさえ出ないで有名な店の売り上げの四日分程に相当する金額を稼いだことになる。
「…ありがとうございました!!お疲れ様です。」
ふ、いつも負けばかりじゃないんだよ。今日は俺の勝ちな。
手に提げたビニール袋には大量の景品。胸を張って堂々と自動ドアを抜ける。
外はもちろん真っ暗で、東京の端っこ故に、街灯も少ない。
吐息は白く、手を寒さが襲う。
しかし、はて、何かを忘れている気がすると、目の前のコンビニを見ながら考える。
(まぁいいや。)
三塚の存在は既になかった。それよりも今はこの大金の使い道の方に頭が行っていて、注意力散漫だった。それ故に、自分に迫っているであろうトラックの存在に遅れた。
「な!!???」
大きなクラクションが聞こえた時、俺は死んだと思った。
死にそうな時は走馬灯のようなものが頭の中にフラッシュバックし、一瞬の出来事が長く感じるようになるという瞬間があるらしいが、そんなものはなかった。
なぜなら
「あっぶねぇだろうが!!!!」
そのトラックの運転手の怒鳴り声が聞こえたのは自分の左後方。
自分の後方を過ぎ去った後であったからだ。
死んだと思った。目の前に迫ってたし、愚鈍なこの身体は咄嗟の対応ができたと思えない。
何が起こったのか、わからない。
どうやら知らぬ間に回避していたようである。
細かいことなど気にしないタチだと言うことは自分のことであるから良く知っているが、今回のこれは異常だと思った。俊輔は今混乱の極みにいたのだった。
そんな状態の自分を目覚めさせたのは
「おいおい大丈夫か?」
振り返ると、三塚がいつもと変わらない顔で立っていた。その顔は驚きではない。いつものにやけ顔だ。
頭の中から消えた存在がいまよみがえってきたと同時に、混乱の淵から戻ってきていることに気づいた。
ようやく冷静になれたと思ったが、目の前の男はそんなことは知らんとばかりに口を開く。
「待ってたぜ。さぁ、奢れや。」
不遜ながらも、そう言い放つのだった。
開いた口がふさがらないとはこのことだ。
m(_ _)m