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本屋で出会った女性

作者: いさまた

「すいません、何かオススメの本はありませんか。」


大宮の本屋で本を探している僕に突然女性が話しかけてきた。特別可愛いというわけではないが雰囲気や立ち振る舞いが見る人を魅了させる。服装は控えめだがそれが彼女の魅力をさらに引き立てる。


「え……オススメの本ですか。」


いきなりオススメの本と言われても困惑する。また、いきなり話しかけられ警戒もしていた。


「この中で読んだことのある本ってありますか。」


僕たちの前に表紙を見えるように並べられている本のほうを向き、さらに僕に尋ねる。僕も女性に合わせ本を眺める。ドラマ化もしくは映画化される本、有名な作家の最新刊、話題の本などが並んでいる。その中から僕は一冊の本を手に取った。あまり本を読まないですが、と前振りをしてその本を渡した。


「これなんかはどうですか、最近ドラマ化された話題作ですよ、僕も読んだことがあり、演奏シーンの文章はとても良かったですよ。」


女性は本を受け取りあらすじを読み始めた。僕も気になっていた本を手に取りあらすじを読む。イマイチピンとこなかったので棚に戻すと丁度女性も読み終えたところだった。


「どうでした。」


「自分で訊いといて難なんですが……」


とても申し訳なさそうな態度でそう言った。本の傾向が違ったのかなと思い、どのような本を読むのか尋ねた。


「簡単な恋愛系の本を読みたくて。」


簡単ってなんだろう、読みやすいってことかな。あまり本を読まない人なんだなと感じ、ふと、そういうのは高校生の僕に訊くのではなく書店員に訊くほうが良いのでないのかと思った。しかし自分から傾向を訊いたので、恋愛小説を書く好きな作家の最新刊があったので薦めてみた。


「この作家の作品は読みやすくて良いですよ。」


女性はその本を手に取り、またあらすじを読み始めた。僕も気になっていたので同じ本を手に取りあらすじを読み始めた。今回も面白そうで僕は棚に戻さなかった。女性も気になったようで戻さなかった。僕の薦めた本が気になってくれたためなのか、温かい気持ちになり警戒心がなくなった。


「この作家の電車というのは短編で読みやすくてこんな恋愛いいなと思いますよ。」


男子高校生で恋愛小説読むって恥ずかしくて言ったことがなかったがこの時は何故かすんなり言えた。


「その小説なら聞いたことがあります。今度買って読んでみますね。」


僕の好きな作品に興味を持ってくれたのでとても嬉しくなり勝手に親近感を抱いた。


「もっと教えて欲しいので連絡先交換しませんか。」


警戒心が完全になくなっていたため快く承諾した。


「じゃあ、僕はここで。」


もう少し話をしたかったが僕には用事がありできなかった。



用事が終わり家に帰ってのんびりしていたところ一通のメールが僕に届いた。


「今日はありがとう‼︎暇だったら明後日ご飯に行かない⁇」


僕は文面を見て少しにやけてしまった。人生初の女性とご飯……考えただけで胸が高鳴ってしまう。僕は迷わず返信しようと思ったが納得のいくメールの文面がでてこない。


「いいですよ。」「分かりました。」など文面を打っては消してを何回か繰り返した後僕は一つのメールを送った。


「僕ももっと話がしたかったので嬉しいです、13時に大宮駅集合でいいですか。」


打った後、読み返しなんか違うな。場所と時間を指定しなかったほうがいいかな。別の場所がよかったかな。時間は大丈夫かなと心配がこみ上げてきた。


「13時に大宮駅ですねっ!

分かりました!」


そう返信が来てようやく僕は安心することができた。しかし、不安なことが次々と出てきた。お店を調べといたらいいのかな、当日の服装はどうしよう、などなど。そのため僕は落ち着くことが出来なかった。


そして当日。前日に決めといた服を着ようと思うがやはりこれで良いのかと不安になる。しかし時間に遅れてはいけないと思い、その服を着る。携帯と財布を持ち、集合30分に着くように家を出た。


「こんにちは。」


大宮駅で数分待っていると先日の女性が現れた。初めて会ったときは控えめな服装だったが今回は少しオシャレをしてこれはこれでとても良かった。このときに何か気の利くことが言えれば良いが、恥ずかしくて口に出せなかった。


「それでは行きましょうか。」


女性ははい、と頷いたので僕は歩き出した。目的の場所は5分とすぐに着いたため間を空けることなく自然に会話ができていたと思う。またここにして良かったなと店をみた女性の反応を見て思った。僕達のまえにはブックカフェという店があり、このお店はお茶を飲みながら隣の書店の本を読めるのだ。


「とても良い雰囲気のお店ですね。」


注文を終え席に着いた女性が言った。とても喜んでくれたようでほっとした。その後は僕のオススメの小説や作家を紹介し、女性はそれに対しいろいろ楽しそうに答えてくれた。


「ところで今、高校生なんですか。」


突然、本の話から僕に関する話に変わっていった。


「はい、今高校生3年生です。」


「高校生なんですか、いいですね。」


高校生の僕にはその意味をしっかり理解することはできなかった。おそらく大人になったら僕も理解するのだろう。


「今、3年生なので進路選択に苦戦してますよ」


そう、笑いながら言うと女性が待ってましたと言わんばかりに体勢を変え、真剣な表情に変わった。


「なら、良い方法がありますよ。」


僕はその一言で無くしていた警戒心が蘇ってきて女性に不信感を感じた。


「私はね、大学でね、神様について研究しているんだけど……」


僕は自分の愚かさに気づいた。また、女性に誘われ浮かれていた僕が馬鹿だと思った。

女性の話はとても長く、信じていない僕には退屈だった。女性はそれを察したのだろうか。


「信じてないですよね、私の友達もこのおかげで人生に成功しました。」


明らかに先ほどより口数が増え、これが目的だったんだなと気づき、誘いに乗ったこと、浮かれていた自分が恥ずかしくもなった。

僕はそんな自分が嫌になり、その現実を突きつける女性から逃げた。立ち上がり去っていった僕を見て女性はとても驚いたようだったが僕を止めることはなかった。

僕は今回のことで女性を信じることができなくなってしまった。

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