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魔法が使えない魔法使い  作者: 浮島 藍
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魔力掌握

六章、魔力掌握


 稽古場の場所が替わっていた。今まではエンリケの屋敷の庭だったのが、フランクの、つまり本家の屋敷に移ったのだ。

「そもそも直系の僕がなんでお前ん家に通わないといけなかったのかが疑問だったんだけどさ」

フランクがそうこぼす。

(母様が亡くなった事と何か関係があるのかな……)

エンリケもまた首をかしげていた。それとも、ただ単にこっちの方が広いからなのか。でもそれなら初めからそうするはずだ。

 「さあ、始めましょうか」

ガストンはいつも通りの調子である。稽古場が替わった理由を教えてもらえるだろうと踏んでいたエンリケは「あれっ」と思った。「あの」と言いかけ、エンリケは自分たちを見物している人影に気がついた。しかも一人ではない。

(伯父上たちだ……?)

彼らの目はフランクでなく、エンリケに向いている。

(一体何だろう……)

エンリケは知らぬうちに汗をかいていた。彼らの視線は見守るといった種類のものではなく、そう、まるで―――

(値踏みされている?)

ツルカ亡き後、その才能をほんのわずかに受け継いだエンリケ。彼らはエンリケが『魔法が使えない』ことをまだ知らない。ということは、エンリケをツルカの―――つまりカフカ家の魔法使いの後継に、と考えているのだろう。だとしたら―――エンリケはその期待を裏切らなければならない。

 エンリケは自身に向けられる視線が、じっとくっついて離れないのを感じた。気のせいだと心に言い聞かせても、どうしても気にかかってしまう。

(ど、どうしよう……)

緊張で心臓が跳ねるように動く。エンリケはそもそも内気だったし、自分がいかに頼りないかを見せつけられるようでその場から逃げ出したくなる。

 その時、パリッと静電気が首筋に落ちた。

(ひッ雷!)

エンリケはトラウマが蘇りふらふらとよろめいたが、それが逆に良かったらしい。動揺していた心が落ち着いた。

 視界の中に、塀に寄りかかるアイリンの姿が見えた。いつやって来たのか、ずっと前からいたかのように自然な立ち姿だ。

(アイリン先生にだらしないところは見せられない!)

エンリケは気を取り直し、木剣を構えた。


 「久しぶりのお二人の仕合ですな」

ガストンがやや浮かない顔で言った。それもそうだろう。エンリケの魔力はまだ落ち着いたとは言えないのだから。また木剣を吹き飛ばしてしまうかもしれない。

「心配いりません。またエンリケがやらかしても避けられます」

フランクがぐっと顎を反らせて言った。

「よろしく頼むよ」エンリケは肩をすくめた。

フランクの構えはさまになっている。対してエンリケは、普通だ。

(まあ、いいけどさ)

「始めっ」

ガストンの合図で、二人はほぼ同時に動いた。ように見えた。

(……やっぱりフランクは速いな!)

だがそれも既に分かりきったこと。エンリケがフランクより早く動く必要は無い。

カン、カン、と木剣がぶつかり合う音が、いつもより長く続いていた。二人ともだいぶ息が上がっているが、動きはまだ鈍らない。

エンリケはほとんど防戦一方。フェイントにもいちいち引っ掛かる。しかし、戦っている両者の顔をよく見ればどちらが焦っているのかは一目瞭然だった。

(なぜっ、当たらない?!)

フランクは自分の動きについてくるエンリケを睨んだ。足の運びも剣さばきも自分に比べれば拙い。その証拠に、エンリケはさっきから防御ばっかりで攻められない。なのに、その防御が完璧だ。いつもだったらすぐに足払いを掛けるか、剣を弾き飛ばすところなのに。

(本気を出した……のか?)

その時、エンリケが一歩踏み出した。


 アイリンはじっと弟子の稽古を見守っていた。特に理由があったわけではない。興味があっただけだ。

(ふむ、たしかにあのフランクという少年は相当のものらしいな)

あの歳であの腕前とは、カフカ本家が手塩にかけて育てたに違いない。

 アイリンと同じように見守っている本家の人間は、誇らしそうに二人の稽古を眺めている。

 その時、ぐっとエンリケの姿勢が低くなり、繰り出される剣の隙間をかいくぐって己の剣を突き出した。

「!」

フランクはすかさず防御する。が、

「うわっ?!」

非の打ち所の無い防御だったにも関わらず、フランクの体勢が大きく崩れた。

(この衝撃はなんだ?!)

 エンリケは手に持っている木剣に目を落とした。

「あ、まずい」

エンリケは急いで木剣を頭上に高く投げ上げた。


どかーん!


木剣は花火のように弾け飛び、跡形もなくなる。それはただの、魔力の暴走に見えた。しかし、

「危なかった……」

ほっと息をつくエンリケを見て、アイリンは口の端で微笑んだ。

(ものにしたな、エンリケ)

エンリケ、魔力掌握の瞬間である。


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