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魔法が使えない魔法使い  作者: 浮島 藍
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準備2

ギルドマスターの三分クッキング!

十四章(その10)、準備2


  「うーむ。こんなものかのう……」

ギルドでは、老人が一人頭を悩ませていた。彼の目の前のテーブルには得体の知れない素材が広げられており、もし見る者がいれば恐怖したかもしれない。

 異臭を放つ醜い植物の根、毛むくじゃらの魔物の頭部、ひとりでに動き出す骨、液体に浸かった謎の物体。他にも名状しがたい代物を前にして、マスターはぼりぼりと頭を掻く。

 これらは“あの悪趣味な商人”や、“脳筋放浪者”のところから押収したものも含まれるが、多くは彼が若い頃に魔石収集がてら集めた珍しい素材だ。

「勿体無いが、埃かぶっとるよりはましじゃろう。あの小僧にくれてやるにはちと惜しいが……」

マスターはぶつくさ言いつつ、床に大きな魔法陣を描いた。部屋の床一面を多い尽くすような、大掛かりなものだ。

「さてと……久しぶりだから手順を忘れたが……まあなんとかなるじゃろうて」

マスターは一つうなずくと、一度奥へ引っ込みある物を取り出してきた。ただの白い布にも見えるが、それが形を持った衣服なのだと分かる。マスターは片頬で笑った。

「くっくっく、懐かしいのう。そういえばあやつのローブもわしが作ってやったんじゃったな」

マスターは無地のローブを魔法陣の中央に無造作に置くと、素材を周りに並べた。

「よし、やるか……。『混沌の内に棲みし者、我、供物を捧げたり。傲岸なるそのこうべを現し、黒き牙にてその供物を喰らうべし』」

マスターの詠唱と共に、魔法陣が黒く光りだす。やがて獣のような息遣いとともに、醜い姿の精霊が浮かび上がる。

 精霊はぐるりと魔法陣を見渡すと、自らの周囲に置かれた素材に気がついた。目を光らせると大きな口を開け、素材を飲み込み、咀嚼する。鋭い牙と強い顎で素材を噛み砕く音が部屋一杯に響き渡った。

 やがて全ての素材が平らげられた時、マスターはもう一つの呪文を唱える。

「『強欲なる者、我は墓守。汝が四肢を繋ぎ止め、首に輪をかける者なり。白き棺をもって汝を封じ奉らん』」

すると、足元から別の白い精霊が立ち上がり、置かれているローブを拾いあげた。二つの精霊は互いにもみ合い、やがて黒い精霊がローブに包み込まれて姿を消す。同時に白い精霊も煙のように消え失せた。静寂が訪れたあとにはローブだけが変わらず置かれていた。ただ一つ違うとすれば、真っ白の無地だったローブが、文様の描かれた濃紺に変わっていることだ。

「ふー。汗をかいたわ……」

マスターはローブを拾うと、出来栄えを確かめた。

「むう……耐火性と、耐衝撃性は上々じゃ。耐刃性もまあまあといったところか」

マスターは満足げに鼻を鳴らすと、テーブルにローブを置いた。こんなに魔力を消費するような魔法を使ったのは、何年ぶりであろうか。

 と、そこへ、遠慮がちに声がかかる。

「あのー、なんか取りに来いって言うので来たんですけど」

扉を開けてエンリケが入ってきた。彼は部屋中に漂う異様な臭いに「うわっ」と顔をしかめると同時に、ある物に気がつく。

「あれ、マスター、そのテーブルの上の物は何ですか?」

マスターは返事の代わりに、濃紺のローブを投げ渡した。受け取ったエンリケは目を丸くする。

「これは!」

厚手のしっかりとした生地に、一目で魔法的加工がなされたと分かる文様。丈夫で軽く、手触りは滑らかだ。

「カンドゥールに行くのならば、ローブぐらい着ておらんと馬鹿にされるからの。感謝しろぃ」

「おおお!これ、僕の為に?」

エンリケはやや上ずった声で、ためしに羽織ってみた。袖を通すと、少し大きめではあったがぴったりと身体に馴染む。

「すごいや……。マスター、これどうやって作ったんですか?」

「ん?」

マスターは耳をほじりながら事も無げに言う。

「腹すかせたゾンビ犬に残飯食わせて、そのローブに封じ込めたんじゃ」

「ゾ、ゾンビ?!残飯?!」

エンリケの顔がすっと青ざめる。マスターはにたりと笑うと、

「お前さんが勉強しとる精霊魔法じゃよ?まあ、お前さんの腕ではまだまだ出来んじゃろうがの……。ゾンビ犬がいろいろ食ったお陰で、そのローブは良い感じに仕上がっておるわ」

エンリケは呆気にとられる。

「はあ……、ゾンビ犬は精霊ってことですね」

「精霊の中では悪霊に近いがのう。どっかの割と強力な魔物がおっ死んで、死してなお残る食欲に魔力が籠もり、精霊となった……という感じじゃ。そいつが食った素材の性質が、ローブに付加される」

「へ、へー……。ていうか、魔法使いのローブって、そうやって作ってたんですか……。知らなかったなあ」

少々恐れをなしたようなエンリケに、マスターは言う。

「他にも作り方があるが、わしはめんどくさいことは嫌いでの。ぱっとやってすぐに出来上がるのが好みじゃ」

「……何はともあれ、ありがとうございます。大切にします」

エンリケは頭を下げた。


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