ピットエットにて2
十四章(その4)、ピットエットにて2
「僕はアベル・マリオット。ギルド中央本部の職員です。皆さんへの連絡や、時には指示を行う役目を仰せつかっています」
少し気弱そうにも見える彼は、三人に名刺を配った。エリザベスがぴらぴらと名刺を振りながら言う。
「やっとご対面ね。潜入調査中の私にあれこれと指図してくれた張本人に」
棘のある言い方に、アベルは首をすくめる。
「仕事ですから……」
アイリンはアベルに問うた。
「私は今まで、かの組織に関する情報はこちらのラウロ殿から受け取っていたのだが、それがアベル殿に引き継がれると思って良いのか?」
アベルはうなずいた。
「ええ、その通りです、アイリン。本部はあなたが何処にいるのか、行方を掴んでいませんでしたから……。親交があり、かつあなたからの信頼も厚いであろう、アズブルクのジーノ殿と、ピットエットのラウロ殿に、任務の通達と情報の提供を任せていました。あなたがどこかのギルドに腰を落ち着けていたら、僕が直接連絡をしたでしょうが……」
「私はここ最近マドーラ地方にいた。そこのマスターには何も知らせていなかったようだが?」
「あー、彼はロンメル派ではないですからね。無所属ですので。みだりに情報を拡散するのもはばかられまして」
アイリンは「分かった」と短く返事をした。
(魔導師ギルドとはいえ、皆が同じ方向を向いているわけではない。『ルシフェリオ・ダテン』の裏の顔を日の下に晒してやろうという“ロンメル派”、逆に組織との友好を保ち取り入ろうという“クラウゼ派”―――残りの無所属派。特にクラウゼ派に、この作戦が漏れれば妨害されるのは必至というわけか)
アイリンは軽く顔をしかめた。こういう派閥同士の争いが嫌だから、何処にも居つくことなく過ごしてきたつもりだったが。アイリンはアベルに言った。
「アベル殿。私は“ロンメル派”の魔導師ではないのだが、この作戦に参加しても良かったのか?」
するとアベルは「えっ」という顔になった。
「何ですって?」
「――は?」
アイリンは面食らってしまった。どうやら、この青年には、彼女が紛れもないロンメル派だと認識されていたらしい。
アイリンは咳払いした。
「私は所属を明言したことは無い。アベル殿のその反応は一体どういうことか、説明をして欲しいのだが」
そこへ、ラウロが割り込んだ。
「情報を整理してみようではないか。――まず、ギルドが大きく二派に分かれている。両派は例の組織に対して、真逆の見識を持っているわけだ。そして、我々がこうして話している作戦は、ロンメル派の中だけで秘密裏に行われているもの。しかし、アイリンに関しては、ロンメル派でなくとも積極的に参加してくれるだろうという意図があったのだ」
ラウロの言葉に、エリザベスがにやりと笑った。
「――個人的な事情って、そういうことね。まあ、同じ“銀板の魔導師”ですもの、手を取り合いましょう」
「…・・・というわけだよ、アベル君」
ラウロがアベルを見やる。アベルはおろおろと書類の確認をし、肩を落とした。
「え、ええ、そのようです。…・・・すみません」
ラウロは青年の肩をぽんぽんと叩いた。
「まあ、今日は懇親会だとでも思って、和やかにいこうじゃないか。どうせすぐに殺伐としてくるのだ、今はひと時の平穏に最後の挨拶をするくらい、時間があっても良いだろう。……諸君、紅茶のおかわりはいかがかね?」




