(8) 弟からの兄と彼女
今回は兄と彼女を弟が観察する話です。
「じゅんちゃん、聞いてくれ!」
取り敢えず、ちゃんは付けるな。しかし、睨んでも兄の口は止とまらない。
「悪い悪い。でさ、あずさがな…」
兄が彼女さんのことを話すとき、あまりに楽しそうで、少しうざい。幸せそうなのは良いことなんだけれど。
「…で、やっぱ、こう言う仕草は可愛いな~とか…」
兄の話が盛り上がったところで、電子音が鳴り響いた。
「ん、俺のだ」
兄はすっと調子を戻してケータイを取り上げる。どうやら彼女さん以外からの電話らしい。
「もしもし。何、君か。……。はぁ…、俺彼女居るんだけど。二人っきりでホテル?何それ意味分からん!もう二度と掛けてくるなよ」
最後に荒々しく言い捨てると電話を切った。
「まったく、最近何でこんなのが多いんだか。こいつも着拒と」
兄さんは彼女さんが出来てから増えた、デートの誘いを今日も断っていた。たまに、男女混合の集まりになら行っているみたいだけど。以前も誘いはあったが、俺を理由に断っていた。
それにしても、兄は彼女さんと他の扱いに差がありすぎる。ちゃらんぽらんな兄にとっては、彼女さんがよほど大切なんだろう。…もしかすると、彼女さんの前では他の人への態度を見せていないかも知れない。……彼女さんもほかの人も勘違いしているんじゃ無いだろうか。
「兄さん、彼女さん、不安がってたりしない?」
「え?いきなりどした?…うーん、分からないな。そう言えば…。あずさならそういうの隠しそうだし。うん、今度ちゃんと聞き出そう。ありがとな、じゅん」
聞き出すだけじゃだめだと思うけど。まぁ、これ以上は二人の問題だから俺は口を出さないことにしよう。
「あーあ、つっかれた~!疲れた後にはおいしい物が欲しいよな~」
ちら、とこちらを見る。ウィンクはいらん。気持ち悪い。
「悪いって!そんな目で見んなよ~」
そう言って笑って、兄は悪びれない。
「…。夕飯作ってくる」
溜息を吐ついて台所に向かう。
俺がまだ中学校に上がる前、兄はすでに中学に上がっていて、友人と一緒に遅くまで(とはいっても八時くらいまで)出かけるようになった。
その友人達の中に女子も居たと知ったのは中学に入ってからだ。
―――冷蔵庫を覗く。今日は青椒肉絲チンジャオロースと中華風野菜とナッツ炒めにしよう。洗っておいた米を炊飯ジャーにセットする。
こんな風に料理を作り始めたのも中学に入ってからだ。元々海外好きな両親が、嬉々として海外赴任を長期で受けたため、兄弟二人暮らし同然になったからだ。親が作らないのなら自分で作るしか無い。生活力が一部剥がれ落ちている兄に、料理など期待してはいけないともこの頃学んだ。
兄も家に居着くようになり、この頃から女子からの電話が増えたように思う。「私(達)と遊ぶよりも弟が大切なのか」という内容が、色々な言葉に置き換えられてこちらにまで聞こえてきたことを覚えている。それを、兄はのらくらとかわしていた。
でも今は、それが彼女さんに向けられている。少し、寂しいのだろうか。
再び電子音が響き、思わず兄を窺ってしまう。
「もしもし。よ、さっきぶり。どうした?……。え?○日の夜、一緒に居たい?……。ああ、ゴメンゴメン。あずさがそんなこと言うなんて滅多に無いから、可愛いなって。……。からかって言うわけ無いだろ。……。了解。また明日な」
どうやら彼女さんらしい。
「夕飯出来た」
「お、さんきゅ~」
やっぱり彼女さんと話すときは幸せそうだ。
このままでいれば良い。
読んでいただきありがとうございます!




